「窓越しに見えるもの」
窓に反射して見える、
スマホを熱心にいじってる、ブサイクな自分。
こんな自分でも、好きでいてくれるだろうか。
公園にぽつんと、女の子がひとり。
揺れるブランコに座って、あやとりをしている。
そこに、一人の男の子がやってきた。
「ねぇねぇ、なにしてるの?」
「わたしね、あやとりしてるの」
「あやとりで、なにつくってるの?」
「ひみつ!」
5時を過ぎた夕焼けが、ほんのりと赤い糸を照らす。糸の色と空の色が同化して、あやとりはほとんど見えない。
それでも、男の子は熱心にそれを見ている。
いや、あやとりを見ているんじゃない。女の子の手にある、『赤い糸』を見ていた。
その糸は、その時はまだ、彼女の手の中にあった。
「入道雲って素敵ね。どんなに遠く離れていても、こうやって、同じ空を見上げることができるから」
「そうだね」
「私、離れ離れになるの、最初は寂しかったけど、毎日一緒に、同じ景色を見ると、ちょっとだけ、安心する」
電話越しの君は、いつも元気だね。
寂しいって泣いてくれてもいいのに。
入道雲が代わりに泣いてくれてるから、かな?
…ずるいよ。
「夏」
こんにちは、お元気ですか。
この手紙を読んでいる頃には、もうすっかり夏の天気になっていることでしょう。
ある日突然届いた、母さんの手紙。
そういえば、長らく会っていなかったな。
手紙は、夏の雨にさらされて、ひどく濡れている。
最初の文以外は、ほとんど読めない。
母さん、寂しいのかな。こんなに出来の悪い息子だけど、何年も離れたら、やっぱり寂しいと感じてくれるのかな。
窓にはざあざあ雨。
さっと優しく照らす光。
その光を優しく包み込む、白のカーテン。
ほのかな光で暖かくなった、テーブルとソファー。
ちょっと輝いて見える花瓶。
そして、寝ぼけてる、私。
私が気づいてないだけで、
ここは、「ここではないどこか」みたい。
宝石でいっぱいの、パンドラの箱。
どんなに不幸を重ねても、どんなに傷を負っても、
どんなに暗い夜が来たとしても。
こうやって、朝が来るのなら。
なんだって乗り越えられる気がする。から。
私はここがいい。