新月の夜
丘の上に立って空を見上げる
沢山の星が、いつもより輝いて見えている
君は私の隣に立って、空の一点を指さした
「あれが射手座だ」
射手座は私の月星座で、彼の師だ
「あぁ、先生だね。……ねぇ、へびつかい座は?」
「へびつかい座は射手座の隣にあるやつだ」
そう言われて隣の方を見る
確かにあった、そこにへびつかい座は並んでいた
「君の星だ」
見つけられたのが嬉しくて、笑いながら彼に言った
彼は鼻で笑ったけれど、耳が赤くなっていた
『星座』
月の綺麗な夜
外に出て、ぼーっと月を眺めていたら
後ろから君が歩いてきて、私に声をかけてきた
しばらく他愛ない話をして、笑いあった
ふと、君が私の手を取って跪く
驚く私に君は告げた
「Shall we dance ?」
喜んで、その問いに頷いた
『踊りませんか?』
「あの森の奥には行ってはダメよ、魔女がいるの」
ずっとそう言われて育った
でも、道に迷って森の奥に行ってしまった時
出会ったあの子はとても優しくて、心の綺麗な子
私たちはすぐに仲良くなった
こっそり森に遊びに行った
私はあの子が大好きだった
隣町で、病が流行った
見たこともない症状で、たくさんの人が倒れた
隣町に行ってはダメだって決まりができた
でも、どうしても隣町に売ってる髪飾りが欲しくて
私は誰にも告げず、こっそり隣町に出かけた
数日後、町で例の病が流行った
「誰かが隣町に行ったんだ」
「いったい誰がそんな事を」
怖くて、言い出せなかった
「──あの魔女に違いない」
「そうだ、あの忌まわしい魔女の仕業だ」
そんなはずはない、だって行ったのは私なのだ
けれど怖くて、違うと言い出せなくて
あの子は、火刑に処されることになった
待って、待って!違うの!
私のせいだ、私のせいで!
処刑の日、あの子はとても怯えていたけれど
最期、涙を流しながら、とても優しく微笑んだ
あの子はやっぱり魔女なんかじゃなかった
誰よりも優しくて、美しい心を持った
普通の、女の子だった
だから、また会おうね
きっとまた、巡り会えるから
そしたらまた、一緒に遊ぼう
『巡り会えたら』
もうだめだと思った
もう終わりだと思った
誰もが終わりを悟り、諦めを顔に浮かべた
けれど、あなたは一人立ち上がった
立ち上がって防ぎきってみせた
決して防げぬ聖罰を防いで、あなたは笑って果てた
今、再び目の前に聖罰が立ち塞がった
でも、今度は決して諦めない
「「 さぁ、奇跡をもう一度起こしてみせよう!」」
『奇跡をもう一度』
誰そ彼時とはよく言ったもので
その時間は、人と人ならざる者の区別がつきにくい
遠くから私を呼んでいる君が本当に君なのか
それとも魑魅魍魎の類なのか
夕焼け空は彼の顔に暗い影を落としていて
まるで見分けがつかない
こちらに近付いてきた君が私の手を引いて歩き出す
なんだ、いつも通りだと安心して視線を落とした先
ある筈の君の影はそこには無かった
『たそがれ』