#秘密の場所
(季節感は気にしないでくれよ)
密かに恋心を寄せてた彼と花火大会に行くことになった。べつに親友だから、ということで誘ってきたんだろうけど、正直こうやって出かけられることが嬉しくて頬が緩んでしまう。
「早く来いよ〜!」
元気にそう言う彼はとても愛らしくて。はいはい、とため息をついては追いかけ、俺も笑みを浮かべた。
そして、俺たちが着いた先は人気のない丘の上。空が澄んでいて、夏なのに心地が良い。
「ここ、おれが中学の時に見つけたベストスポット!」
「へぇ、たしかに見やすいな。中学の頃のダチと来たりしたのか?」
「いや、人に教えるのはこれが初めて。お前はおれの大事な友達だから!」
初めて。その言葉は嬉しかった。2人だけの秘密の場所、みたいで。ほんとにこいつとは良い友達になれて良かった。違う気持ちで見てしまっているのが少し申し訳ないくらいだ。
買ってきたものを2人で摘んでいると、いつの間にか花火が打ち上がり始めていた。
「綺麗だな」
「ああ」
今なら言える気がする。俺の気持ちを正直に…。その時、彼がこちらを振り向いて引き寄せた。
「なぁおれさ…お前の事────────」
このコインが表だったら今日は気が済むまでゆっくりする……!!
その思いのままコインを投げた。
結果は裏。
「はぁ〜……」
大きなため息を付く。
まあ仕方ない、仕事するか。
そこに、電話がかかってきた。
古い友達のものだった。ずっと通話してたらいつの間にか時間が過ぎていく。
「〜〜うん、じゃーね」
通話が終わり携帯を見ると、30分間電話をしていたらしい。結構長電話だった。
もう仕事する気力も無くなってしまった。
いいや、やっぱゆっくりしよ。
そう思ってコインを自分で裏返して表にした。
まるで今表が出たように。
最近、恋人と会う時間が減っている。
俺は営業職で、出張が多い身ではあるし、彼氏も彼氏で毎日忙しそうに働いている。
いっそ鳥のように何も考えずに飛んでいきたいものだ。その時は、貴方も一緒に。
2人で飛んで行って、2人だけの世界を作らない?……なんて。
クスリと軽く笑うと、新しい新居の鍵を持って目の前のインターホンを鳴らした。
初めてが上手くいかなくたっていい。
時を重ねることに上手くなっていくはずだから。
今はおれに身体を預けていて。
沢山愛してあげるからね……
お前が他の人と話しているのが耐えられない。
おれだけ見ててよ
お前が悪いんだからな?
こうなったのは、全部お前のせい。
「……あははっ」
もう、お外に行っちゃ、ダメだよ?
ここは2人だけの世界なんだから。
ずーっと、おれだけ見ててね。
___ 私だけ 。