このコインが表だったら今日は気が済むまでゆっくりする……!!
その思いのままコインを投げた。
結果は裏。
「はぁ〜……」
大きなため息を付く。
まあ仕方ない、仕事するか。
そこに、電話がかかってきた。
古い友達のものだった。ずっと通話してたらいつの間にか時間が過ぎていく。
「〜〜うん、じゃーね」
通話が終わり携帯を見ると、30分間電話をしていたらしい。結構長電話だった。
もう仕事する気力も無くなってしまった。
いいや、やっぱゆっくりしよ。
そう思ってコインを自分で裏返して表にした。
まるで今表が出たように。
最近、恋人と会う時間が減っている。
俺は営業職で、出張が多い身ではあるし、彼氏も彼氏で毎日忙しそうに働いている。
いっそ鳥のように何も考えずに飛んでいきたいものだ。その時は、貴方も一緒に。
2人で飛んで行って、2人だけの世界を作らない?……なんて。
クスリと軽く笑うと、新しい新居の鍵を持って目の前のインターホンを鳴らした。
初めてが上手くいかなくたっていい。
時を重ねることに上手くなっていくはずだから。
今はおれに身体を預けていて。
沢山愛してあげるからね……
お前が他の人と話しているのが耐えられない。
おれだけ見ててよ
お前が悪いんだからな?
こうなったのは、全部お前のせい。
「……あははっ」
もう、お外に行っちゃ、ダメだよ?
ここは2人だけの世界なんだから。
ずーっと、おれだけ見ててね。
___ 私だけ 。
『キキーッ!!!』
車の大きなブレーキ音が聞こえたかと思い聞こえてきた方を振り返る。
その車は俺の右側から此方へ突っ込んできた。
(あ、これ死んだな)
そう思うと、急に時が止まったように世界が変わった。頭の中に流れ込んでくるのはあの遠い日の記憶たち。保育園の記憶から、小学生、中学生、大変だった高校生の記憶がフラッシュバックする。
頭の中に鮮明に映るのは、俺が所属しているアイドルグループのメンバー。高校生で暗い世界に居た俺を、救ってくれた2人。仲間のアイドル達も浮かび上がる。
(……また、迷惑かけちまう)
時の止まった景色が再度色を増してくる。そして、俺は初めて車に轢かれた。頭に強い衝撃が走る。
(ファンの笑顔をもっと見ていたかった……)
俺は諦めたように目を閉じた。