たまごぱんおにぎり

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11/27/2024, 5:03:08 AM

   微熱

 玄関先で爆睡して、起きた時にはもう遅刻だった。つけっぱなしの腕時計を見て、ため息を吐いてから、やけに揺れる視界に違和感を覚える。
「にゃお」
 横から声がしたので振り向くと、灰色の塊が動いて、早く飯を出せ、と言いたげにこちらをじっと見つめていた。
「ちょっと待ってね。」
 立ちあがろうとすると、くらり。また床に突っ伏してしまった。この感覚には覚えがある。まさか熱?無理をしすぎたのだろうか。
 またため息を吐いて、寝転んだままで横を見た。猫が、えもいわれぬ目つきで佇んでいる。
「ごめん。ご飯とってこれる?」
 まあ無理だろうな。そう思いながら神頼みで呟くように言うと、しっぽの先が少し揺れて、キッチンの方へ歩いて行った。
 驚きながら帰りを待つと、がさごそ、ガタンと音がなって、袋を咥えて帰ってきた。
「ふはっ、それ、私のお菓子だよ……。」
 持ってきたのはポテトチップス。私のご飯を取って来いって言ったんじゃないんだよ。愛おしくて目を細めて笑うと、その子はポテトチップスを床に置いて、なんにもわかってなさそうな顔をしていた。

11/25/2024, 12:01:35 PM

   太陽の下で

 嫌なことがあった。だから逃げた。
 よくないことほど頭の中で繰り返されてしまう。目のまわりにじわじわと何かが溜まってくるのを感じて、思わず君のいる教室に飛び込んだ。
「なに、どうしたんだーい。」
 そうおちゃらけて笑う君は、何よりもあたたかかった。
 もう放課後で、自習用に開放されてはいるが、人もまばらな教室。窓際にいる君の足元にしゃがみ込んで、涙が頬へ流れるのを感じる。
「えぇ?……撫でてあげよっか?」
 さらさらと、不器用な手つきで髪を撫でてくる。自分の手より遥かにあたたかい温もりが伝わる。泣いている友達の頭を撫でる、って、どうなんだろうか。普通、背中をさするとかじゃないのか。
「ふはっ」
 泣いてる人の慰め方も、君へのこの感情も、何もかも、君は知らないんだと思うと、面白くて仕方がない。堪えきれずに吹き出すと、「おい、笑うな!」と君は怒った。

11/24/2024, 1:19:47 PM

   セーター

 最近の空気は冷蔵庫の中くらい冷えている。うちの学校の教室はなぜかまだ暖房をつけてくれないので、仕方なく通販でスクールセーターを買った。
 届いた。せっせと開封し、出てきたのは、灰色でワンポイントもない、地味なセーター。画像通りだ。手触りはなかなか良い。いい買い物をしたなあと思い、無心で撫でていると、このセーターを上回る手触りが私の肌に触れる。
「にゃあ」
 手の動きを止めようと、頭を擦り付けてくるうちの猫。たんぽぽみたいな色の瞳がたびたび私を射抜いて、もしかして嫉妬したのかな?と生暖かい目になる。
 セーターと同じ灰色の体を撫でる。そうすれば、満足したかのように、小さな声で「にゃ」と言った。