大切なもの、と言えるかどうか。
小学校の頃に仲良しだった友だちが引っ越すときにくれた石がある。みかん2つくらいの大きさで1センチくらいの穴がいくつか空いていて中でつながっている。紐を通したりして遊んでみたが不思議な形というだけで面白くはない。彼の宝物だったのだが、どうしてもくれるというのでもらったのだ。
その友だちは、あまり恵まれずに両親が離婚して引っ越したと後から母親に聞いた。そんな暗いことなど感じさせず、いつも大きな声で笑いあった仲だった。今にして思えば僕と遊ぶ時だけ辛い環境から解放されていたのだろう。楽しく遊んでいたことばかりが思い出される。
その石は不思議なことに鳴ることがあった。
貝殻を耳に当てると海の音が聞こえるとかあるがそんな感じで、この穴が鳴るらしい。小さい時はそういうものだと思っていたが、風のない家の中でも時々鳴るので、だんだん気味が悪くなってきた。そして、何か友だちの叫びか伝わってきている感じがした。母から事情を聞いたからそう考えたのかもしれない。
でも楽しかった子どもの頃の思い出があり捨てられず、机の奥にしまい込んでいた。
それでも微かに音が聞こえる時があった。
ある時、都会で殺人事件があり犯人はその場で逮捕された。何人かが亡くなり、大勢が怪我をした。そのニュースを見てびっくりしたのは、男の名前がその友だちと同じだったからだ。年齢も同じくらい。表情は上着を被っていてよくはわからない。
心臓がバクバクした。
自分の部屋に行くとあの石が鳴っていた。
うぉーん、うぉーんといつもより激しく鳴っており、僕にはどうすることもできなかった。
4月2日は泥棒の日なのだそうだ。
嘘つきは泥棒の始まり、誰しも子どもの頃に言われたことだろう。
エイプリルフールの嘘をそのままにしておいてはいけない。翌日に泥棒になってしまうから。
だから、この雑文も気をつけないとね。
幸せになる、幸せにならない、
花びら一枚と引き換えに運命が決まる。
幸せになる、幸せにならない。
花びらは尽き、がく片も試す。
幸せになる、幸せにならない。
おしべもめしべも試し、茎まで数えて……
……無かったことにした。
彼女の一挙一動に注目して何気ないふりをする。ここで目立ってはダメだ。それでなくとも少し気づかれてるっぽいのだ、用心、用心。
例えば目の前の彼女が立ち止まるとする。もし振り返ったらアウト、何気なくスマホを取り出してポチポチしてみたりする。その時、彼女の目に慌ててスマホを触り出したと見られたらこれがアウト。止まった時点からスマホを始める。
例えば電車に乗る。
目的地はわからない。車両の反対側に立つが、次の駅か? 降りるのはどの駅か? 推理しながら遠目に観察する。
相変わらず美しい。俺のこと好きなのに何気ないふりをしているところが、また可愛い……。
彼女はこちらをちょっと見た。
見られた。
彼女は別の車両に移動したようだ。
ここで深追いしては続かない。
今日も、ちゃんと気づいてくれてる。
人類と死神がWin-Winの関係になるように生み出された神がハッピーエンドの死神である。つまり、幸福の絶頂で命を刈り取る神なのだ。
死神だって人の命を奪うだけではだんだん嫌になってくる。元々人間だった頃の感情がちょっと思い出されたりするそうだ。
そこでハッピーエンドの死神が生まれた。幸福の絶頂で命を刈り取るのだ。それなら悲しみはない、悲しみを感じる暇がない。死神もその担当になると生き生きしてくるらしい(死神なのに!)。
ある資産家が大儲けしたタイミングでやってきたハッピーエンドの死神、ここぞとばかり命を刈り取る。
その資産は自動的に一人息子の元へ。天文学的な資産が手に入り幸福の絶頂! そこにハッピーエンドの死神がやってきて、スパッとひと鎌。
資産は孫の元へ。
スパッ。
そして、ひ孫の元へ。
しかし、ひ孫は生まれたばかりで資産なんてわからない。
ただ毎日大泣きである。
これでは命を刈り取れない。育つのを待とうと死神はひ孫のまわりを行ったり来たり。命を刈るタイミングまで手出しはできない。
早くに親を亡くしたひ孫は、それでも資産を元に人生を謳歌する。全てが叶う人生である。
ハッピーエンドの死神は、このひ孫の人生を見守り、幸せの絶頂を探す。人生一喜一喜、憂うことなどほとんどなかった。今か今かとチャンスを伺うが、だんだん情が移ってしまう(死神なのに!)。
人生の絶頂はいつか?
気づくとひ孫は老人になっていた。
人生を振り返りながら、静かに日々を過ごしている。
「あの頃が、一番幸せだったな」
ハッピーエンドの死神は、今しかないと考えるが、しかし絶頂はすでに過去に過ぎ去っている。これでは俺の役目として命を刈り取ることはできない(死神なのに!)。
死神はそっとうなずき、鎌から手を離した。