君の背中を追って走ったら
夏にたどり着いた
君の声がして振り向いたら
秋の香りがした
君のにおいの残る場所には
冬の景色だった
君の思い出を探して見つけた先は
春が広がっていた
「花占いをしよう」
「いいね」
「好き、嫌い、好き、嫌い、
好きではないけど嫌いでもない、
嫌いじゃないけど好きでもない、
興味ない、
好きとかそういうレベルではない、
嫌い以前の問題、
好き過ぎて逆に嫌い、
嫌い過ぎて気になるから逆に好き説、
好きという言葉に収めるには感情が重すぎて無理、
好きと言うにはあまりに歪んだ欲望が」
「待って怖いどれに当たっても怖い」
雨の香り、涙の跡
「雨の香りがする」
薄曇りの空の下、彼女はそう言った。
「雨に香りなんてある?」
そう言う僕に
「都会の人間にはわからないよねえ、ふふふ」
と笑うその顔は得意げで、しかし彼女がそう言った少し後には毎回必ず雨が降るのだ。
ポツポツとまばらに落ち始めた雨は次第に雫の数を増やして、気づけばけぶるように辺りを覆う。
「田舎の人ってみんな雨のにおいがわかるの?」
「うーん、君も2年くらい住んでみたらわかるようになるかもね?」
「じゃあ……住んでみようかな」
「え?」
「結婚する?君の田舎に住むよ」
「えっ」
まるで思いつきのようなプロポーズは、実はずっと前からタイミングをうかがっていたのだけれど、今ここで言うのは自分でも予想外の展開だった。
彼女は笑った。
「田舎の暮らしに耐えられるかな?」
僕も笑った。
「慣れてみせるよ。雨の香りがわかるようになるまで」
彼女の頬を伝う雨の筋が、涙の跡のように見えた。
随分と後になってから聞いた。
あれは本当に泣いていたのだと。
「雨の香りがするね」
と僕は言う。
「君もすっかりわかるようになったねえ」
と彼女が笑う。
今日の空も、あの日のような薄曇りだ。あと少ししたら、きっと雨が降るだろう。
糸
もしも運命の赤い糸が見えたら
ビビってハサミで切っちゃうタイプ
宛先不明の住所
もう使えないメールアドレス
SNSの消されたアカウント
この世にいない貴方の写真
届かないのに手紙を、メールを、メッセージを送りたい衝動に駆られることがある
それは
届かなくても、まだ送りたい言葉があるから