星明かりに照らされた夜はあまりに静かで儚くて
まるで世界が星空の海へ沈んでいくようだった
呼吸を忘れてその昏く美しい闇色を見上げた
昼から一番遠く離れた場所にいた私たちは
数時間後には陽がのぼることなど誰も信じなかった
ずっと一緒に此処にいようと約束した言葉を嘲笑うかのように
また星がひとつ瞬いた
影絵で作ったキツネがおあげを要求してきた。
これはどうしたことか、と不思議に思いつつも、冷蔵庫からおあげを取り出して影にうつしてみる。
私が手を動かさずともキツネはおあげにばくりと食いついた。
気がつけば、私が手に持っていたおあげも消えていた。
影絵のキツネが少しだけ笑ったような気がした。
静かな情熱
足音を消して歩くこと、
大きいペットボトルからコップに注ぐ時にドボンドボンしない角度を探すこと、
ドアをそーっと音がしないように閉めること、
たまにピアノの鍵盤を音がしないように押してみること。
特に意味はない。
すごく音を気にするタイプでもないし、なんなら多動でその他の行動はガチャガチャしている。
ただなんとなく、これらの「静かな」行為に無駄に情熱を注いでいる。
遠くの声
うさぎの耳は3キロ先の音まで拾うことができて、聞こえる音の周波数の範囲も人間よりずっと広いんだって。
そんなにも優れた聴力を持つ世界は一体どんなだろう。
沢山の危険を察知できるかもしれない。
離れた場所から響く素敵な歌声を聴くことができるかもしれない。
雪が地面に落ちる音にも気付くかもしれない。
一度体験してみたいな、と思ったけれど。
窓の外の蚊の羽音に起こされるかもしれない。
そう気付いた瞬間やめておこうと決意しました。
うさぎにはうさぎの聴力。人には人の乳酸菌。
春恋
花開いた春恋は
ほんのり色づく桜色
燃え上がった夏恋は
夜空を彩る花火色
実り熟した秋恋は
風に揺られた木の葉色
吐息にゆらめく冬恋は
昨夜積もった雪の色
──そしてまた春を待つ