真夜中。
主に深夜を指す言葉だが、私は感覚で別の捉え方をする。
それは、真っ暗の中。
月も星もなく、ただただ暗い空間が私にとっての真夜中だ。
そこは本当に独りだけの場所で、当然話しかける人も、同じ場所にいるだけの人もいない。
誰にも会わず、誰のことも考えなくていい。
それが私にとっての真夜中。
私だけが漂っていればいい場所。
「好きです!」
強い風が吹く屋上で、タカノリは目の前のクラスメイトに声を張り上げた。
ユキナは風に声をさらわれまいと大声を出すクラスメイトに向かって、ふわりと微笑んだ。
小学生の頃から、よく同じクラスになったものだ。
何度同じクラスになっても、特に仲良くした覚えはない。
一体いつ、そう思われるようになったというのか。
ユキナはタカノリの耳元で囁いた。
「愛があれば、何でもできると思う?」
タカノリは筋少した面持ちで、一度だけ強く頷いた。
ユキナはそれを見て、屋上の柵を指した。
「飛び降りて」
信じられないという目に映るユキナの笑顔は、今まで見たどの顔よりも……冷たかった。
「あんた、私の給食のミカンを盗んだよね?
体育の授業で、足を引っ掛けて転ばせたよね?
私を階段から突き落としたこともあったよね?
調理実習で使う割烹着を、男子トイレに投げ込んだよね?
それで、あんたの口先だけの愛とやらが、私を癒やしてくれるの?」
飛び降りたところで、私にはなんにもならないんだけど。
ユキナの冷たい瞳は、青ざめるタカノリを見据えるばかりだった。
後悔はしている
なぜ安全を最優先にしなかったのか
早く起きられたからといって、手の込んだ物を作らなければよかった
食べるところをよく見ていればよかった
それでも全体の三分の一程度ではあったが、もう疲れたと思っている部分もあった
心全てで後悔しているといえば、私は否定する
悔いていないといえばそれは嘘だ
せめて本人から幸せだった。ありがとうの言葉があれば、この気持ちは治まるだろうか。
失われた時間
それはとある人の未来。
未来と言っても、70代の人のものだ。
まだ外を歩きたかったろう。
まだ見たいものがあったろう。
まだ遊びたかったろう。
娘のキヨミだって、まだ一緒にいたかった。
一緒に遊びに行き、同じものを見、写真を撮って、こんな事があったね、楽しかったねと笑い合いたかった。
それでも、人の命はあっけなく終わる。
ふたりのこれからの時間は、もう訪れることはない。
一年後、私はどうなっているだろうか。
ガチな話、自分の創作世界になにか進展があればいいな。
どうせ独りになって終わる人生、やりたいことだけで頭を満たしていたいよほんと。