引っ越しのトラックを前に、寂しそうにする子どもがふたりいる。どちらも今日、引っ越していくらしい。2件離れた向こうでも、業者が荷物を運んでいくのが見えた。一人はそこの子だ。
自分はこの子どもたちと面識はないが、ふたりを繋ぐ手から離れたくない想いが汲み取れる。
やがて、一人の子が呼ばれた。涙を拭って手を放す。
トラックの前に行き、親の車に乗った。
残った方は、声を張り上げた。
「勝負はついてないからな!
オレのほうが美人と結婚するから!」
声が届いたのかどうかは知らないが、一行は町を去っていき、またこの一行もトラックを走らせる。
子ども同士の別れというものは、どうにも切ない気持ちにさせてくる。
これからの人生で、様々なことに対面していく。その間にあの子を忘れるほども困難や喜びに当たることもあるだろう。再会のきっかけもあるかどうか。
ただの通りすがりである自分は、今のやり取りを茶化すことしかできないので、雰囲気を壊さないように足早に去った。
目の前に、クラスメイトが2人いる。
一緒に帰っているはずなのに、自分を外した2人でいつまでも喋っている。
正直、話に入っていけない。
話の内容に興味がない。
なぜ一緒に帰ることになったかといえば、昨日見たバラエティ番組のことで話が弾んだからとだけ。
それ以外の話題となると、コスメやら推しのグループやら、自分に興味がないものの話題になっていく。それが相手にはつまらなかったのだろう。
私はそっと、2人から離れた。
担任は言った。「自分から話題に入りなさい。相手の趣味を理解しろとは言わない。知っておきなさい」。
私は心で反論する。「それなら、なんで向こうは話しかけてこないんですか!?向こうはこっちの趣味を知っているんですか!?」
だってそうだろう。
お互い様ってやつだ。
お互いに、趣味じゃないものを知るための努力なんてしたくない。仲良くしたくない。こういうことだろう。
いいじゃないか。
分の時間を自分で好きなように使うんだ。
だから私は、独りでいたいんだ!
その昔、宇宙遊泳する夢を見た。
宇宙服も必要なく、呼吸もできたことに対して、私は全く疑問を持たなかった。夢というものは実に都合が良く、自覚が難しい。
この宇宙では息ができるのだが、何故か太陽に顔を向けると息ができなくなる。
だから私は、太陽から完全に顔をそらしたままで無重力の中を漂っていた。
しかしやがて好奇心が頭をもたげ、遂に太陽を直視した。
目が潰れるということはなかったが、息ができない苦しみが私を襲う。
これで終わりなのか…。
布団の中で目を覚ますと、太陽があった場所にはまだオムツをしていた妹の尻があった。
寝相の悪い妹は、眠っている間に人の顔近くにまで移動していたらしい。
私はオムツに顔を突っ込んでいたようだ…。
やりたいことリスト
絵の練習。
本を読んで語彙力を上げる。
書きかけの小説(嗤)を完成させる。
TRPGを勉強して、シナリオを作る。
そうだ。
何かを作って、誰かの記憶に残りたいんだ。
それ以外にも、やりたいことはたくさんある。
時間が足りないなぁ。
「月に願いって、元ネタは何?」
遊びに来た友達は雑誌から目を離さずに、声だけをこちらに飛ばした。
「知らん。歌かなにかじゃないの?」
マニキュアを塗りながら答えると、それが彼女の気に入るものではなかったようで、「つまんないの」という声とともに読んでいた雑誌が飛んできた。
「願うと、どうなるの?」
「知らないけど、落ち着くんじゃないの?」
片手分が終わった私は雑誌を投げ返す。
ストレス発散の方法に、声を出したり言葉にして吐き出すといったものがあったと思う。
声に出すことで目標をはっきりさせるとか、諦めるとか、何かしらの納得でもするんじゃない? そう答えると、彼女は「そういう考え方ね…なるほど」と雑誌をしまう。
「私も、今度月に願ってみるわ。
好きな人との両想い」
がんばれ〜と応援すると、彼女は窓からまだ明るい空を見上げた。
次の日から、彼女はこれまで以上に一緒にいることが多くなったけど、何を願ったの。