愛する、それ故に 黙る。
相手の言いたいことを、否定も反論もせず、自分の意見も言わず、ただ聞いている。
ある意味、間違っているだろう。
それでも私は、今日も黙る。
人間、必ず良くも悪くも思い出を抱えていく。
忘れてしまった思い出も、今の自分を作る栄養となっているのだから……まぁ思うところがある。
育った結果だけを持って、嫌な思い出は完全に忘れてしまえればいいのに。
外で倒れて病院に搬送された叔母。
いつまで経っても意識が戻らないまま、遂に酸素マスクを切られることになった。
私はざまぁみろと思った。
昔から、私をいじめていた人だったから。
なんで悲しまなきゃならないんだと。
こいつのために流してやる涙なんか、どう頑張ったって出てこない。
叔母の姉である母は、装置が切られてもその叔母の手に触れていた。
ずっと、握っていた。
「…冷たくなってきた。
この感覚は、一緒忘れないんだろうな…」
母は、ずっと私達に迷惑をかけてきた叔母として、それを見ていなかった。
淡々と、死にゆく生き物として見ていた。
私は、それがなんとなく忘れられずに今を生きている。
引っ越しのトラックを前に、寂しそうにする子どもがふたりいる。どちらも今日、引っ越していくらしい。2件離れた向こうでも、業者が荷物を運んでいくのが見えた。一人はそこの子だ。
自分はこの子どもたちと面識はないが、ふたりを繋ぐ手から離れたくない想いが汲み取れる。
やがて、一人の子が呼ばれた。涙を拭って手を放す。
トラックの前に行き、親の車に乗った。
残った方は、声を張り上げた。
「勝負はついてないからな!
オレのほうが美人と結婚するから!」
声が届いたのかどうかは知らないが、一行は町を去っていき、またこの一行もトラックを走らせる。
子ども同士の別れというものは、どうにも切ない気持ちにさせてくる。
これからの人生で、様々なことに対面していく。その間にあの子を忘れるほども困難や喜びに当たることもあるだろう。再会のきっかけもあるかどうか。
ただの通りすがりである自分は、今のやり取りを茶化すことしかできないので、雰囲気を壊さないように足早に去った。
目の前に、クラスメイトが2人いる。
一緒に帰っているはずなのに、自分を外した2人でいつまでも喋っている。
正直、話に入っていけない。
話の内容に興味がない。
なぜ一緒に帰ることになったかといえば、昨日見たバラエティ番組のことで話が弾んだからとだけ。
それ以外の話題となると、コスメやら推しのグループやら、自分に興味がないものの話題になっていく。それが相手にはつまらなかったのだろう。
私はそっと、2人から離れた。
担任は言った。「自分から話題に入りなさい。相手の趣味を理解しろとは言わない。知っておきなさい」。
私は心で反論する。「それなら、なんで向こうは話しかけてこないんですか!?向こうはこっちの趣味を知っているんですか!?」
だってそうだろう。
お互い様ってやつだ。
お互いに、趣味じゃないものを知るための努力なんてしたくない。仲良くしたくない。こういうことだろう。
いいじゃないか。
分の時間を自分で好きなように使うんだ。
だから私は、独りでいたいんだ!