小さな幸せ
今日は金曜日。明日は学校も部活もなく、完全オフの日だ。今週もやりきったぞー、という達成感を感じながら帰路につく。少し寂しげな夕焼け空に、烏の黒がよく映える。
歩いていると、コンビニが目に入る。…あれ?何か忘れているような?…そういえば、今日は新作スイーツの発売日!楽しみにしていたのに、忘れるところだった。危ない…
コンビニに入って、スイーツのコーナーを見に行く。お目当てのものは…あった!商品をかごに入れ、ついでに今日の晩御飯も見てみる。すると、私の大好きなオムライスが最後のひとつ、というところだった。すかさずこれもかごに入れる。
そして会計を済ませ、店を出る。ああ、今日はラッキーだったな。オムライスとスイーツ、早く家に帰って食べたいなあ。そんなことを考えていたからか、何時もよりご機嫌な帰り道だった。
記憶
ある女の子がいた。その子は優しくて、頑張り屋さんで、笑顔が素敵なクラスの人気者。いつもたくさんの友達に囲まれていた。
対して、私は地味で、いわゆるモブみたいな存在で。友達なんて一人もいなかった。
ある時、彼女が私に話しかけてきた。
「あの、ちょっといいかな?突然ごめんね、ここの問題が分からなくて…教えてもらいたいんだ」
彼女が指さしたのは先程の数学の時間の応用問題。私は勉強だけは得意だったので、授業中に解き終えて、余った時間で次の授業の予習をしていた。休み時間もほぼ読書か勉強に費やしているので、周りからも勉強が得意だと思われている。だからこそ、彼女は私に声をかけたのだろうな、と思いつつ、私は、
「えっと、ここの問題はまずこの図形を二つに分けて…」
と、解き方を説明する。
「…あー!そういう事かあ!ありがとう!」
彼女は明るくそう言った。
「どういたしまして」
私はそう答えた。
「ねぇ、もし良かったらまた教えてくれないかな?わたし、数学あんまり得意じゃなくて…あなたの説明、すっごく分かりやすかったから!」
無邪気な笑みを浮かべ、彼女はそう言った。
「わ、私で良ければいつでも聞いてください…!」
必要以上の会話をするのは久しぶりだった上、相手はあの人気者。少し緊張しつつ、そう答えた。
「うん、よろしくね!」
それ以来、私と彼女は話すことが増えた。最初は分からない問題のことだけだったが、だんだんそれ以外の会話も増えてきて、距離が近くなっていった。彼女と過ごす時間は楽しく、心があたたかくなるのを感じた。私たちの関係を、「友達」と呼びたいと、そう思うようになっていった。
…だからこそ、辛かった。どれだけ彼女と話しても、仲良くなっても、彼女にとって、私は沢山いる友達のひとりにすぎない。彼女が一番幸せな顔をしているのは、他の子達と一緒にいるときだ。私は、特別なんかじゃない。私は、彼女の一番にはなれない。痛む心を隠しながら、彼女と笑いあった。
そうして過ごしているうち、あっという間に卒業式を迎えた。なんの偶然か、彼女とは三年間クラスが一緒で。彼女との仲が途切れることはなかった。
私の思い出には、ずっと彼女がいた。つまらなかった日々が、彼女によって彩られていた。彼女は、私にとっての一番だった。特別だった。
ここを卒業したら、彼女とはもう、話すことはないだろう。悲しいけれど、それでいい。きっと、彼女の記憶に私は残らないけど。彼女との日々は、宝物として、胸の奥底にしまっておこう。
彼女とは違う道を、一歩踏み出す。歩いているうちに見えた、どこかのうちの庭に咲いた、スイートピーが綺麗だった。
カーテンを閉めた。
私の弱いところも、
汚いところも、
誰にも見られたくなくて。
カーテンを閉めた。
私の嫌いな人も、
私を嫌いな人も、
誰も見たくなくて。
カーテンを閉めた。
どろどろの思いを抱え込んだまま
誰とも会いたくなくて。
ひとりにしてほしくて。
でも、カーテンを開けて欲しかった。
どうか気づいてくれ、と。
どうか見つけてくれ、と。
私はきっと、これからずっと、
そう思い続けるだろう。
半袖
毎年、この時期になるとだんだん暑くなってくる。
半袖にしようか、長袖にしようか…
毎年、この時期になると少し迷う。
自分は暑く感じるんだし、半袖にしよう。
まだ長袖の人も多いし、周りに合わせよう。
脳内には天使と悪魔…とは違うけれど、相反する考えを持つ2人が現れる。
結局、長袖にした。暑くなったら袖でもまくればいい。
…と朝は思っていたが、想像以上に暑くなってしまった。
袖をまくっても暑い。ボタンを少し開けても暑い。
嗚呼、やっぱり半袖にするんだった…
これが先週末の話。今週こそは、失敗しないぞ…!
と意気込んだ。朝は少し冷えるが、日中は暑くなると昨日の天気予報で聞いた。今日は半袖にしよう。
…と、朝は思っていた。そして、後悔した。…想像以上に涼しかったのだ。
肌寒くて、少しだけ腕をさする。天気予報は当てにならなかった。
うぅ、やっぱり長袖にするんだった…
どっちにしろダメな時はダメ。それなら…
両方持っていけばいい!
そうだわ。なんで思い浮かばなかったんだ。
ということで、明日は両方持っていくぞ!
今度こそは絶対大丈夫だろ!
そう考えながら帰路に着く。
…明日にはそう考えたことをすっかり忘れ、また失敗してしまうなんて、私は思ってもみなかった。
「明日世界が終わるなら」
今日眠って、明日目覚めることなく世界が終わったら。
わたしは毎晩そう考える。
辛くて悲しいこの日々も、一瞬で終われば楽だろうな。
最期をみんな一緒に迎えられたら、寂しくないだろうな。
きっと今日眠っても、平然と明日を迎えるんだろう。
幸せなんてない明日を、わたしはどう過ごせばいい?
希望という名の光はとうの昔に消え去っていて、
絶望とはいえない、仄暗い未来だけがそこにある。
明日世界が終わるなら。
それは誰かの絶望で。
それは誰かの悲しみで。
それでも誰かの、最上級の幸福なんだ。
時計の針は残り90秒。
地球の寿命はまだまだ先。
世界がなんで終わるのかは分かんないけど。
せめて、最期のときだけでもきれいな世界になってれば。
わたしはそれだけで十分幸せ。