カーテンを閉めた。
私の弱いところも、
汚いところも、
誰にも見られたくなくて。
カーテンを閉めた。
私の嫌いな人も、
私を嫌いな人も、
誰も見たくなくて。
カーテンを閉めた。
どろどろの思いを抱え込んだまま
誰とも会いたくなくて。
ひとりにしてほしくて。
でも、カーテンを開けて欲しかった。
どうか気づいてくれ、と。
どうか見つけてくれ、と。
私はきっと、これからずっと、
そう思い続けるだろう。
半袖
毎年、この時期になるとだんだん暑くなってくる。
半袖にしようか、長袖にしようか…
毎年、この時期になると少し迷う。
自分は暑く感じるんだし、半袖にしよう。
まだ長袖の人も多いし、周りに合わせよう。
脳内には天使と悪魔…とは違うけれど、相反する考えを持つ2人が現れる。
結局、長袖にした。暑くなったら袖でもまくればいい。
…と朝は思っていたが、想像以上に暑くなってしまった。
袖をまくっても暑い。ボタンを少し開けても暑い。
嗚呼、やっぱり半袖にするんだった…
これが先週末の話。今週こそは、失敗しないぞ…!
と意気込んだ。朝は少し冷えるが、日中は暑くなると昨日の天気予報で聞いた。今日は半袖にしよう。
…と、朝は思っていた。そして、後悔した。…想像以上に涼しかったのだ。
肌寒くて、少しだけ腕をさする。天気予報は当てにならなかった。
うぅ、やっぱり長袖にするんだった…
どっちにしろダメな時はダメ。それなら…
両方持っていけばいい!
そうだわ。なんで思い浮かばなかったんだ。
ということで、明日は両方持っていくぞ!
今度こそは絶対大丈夫だろ!
そう考えながら帰路に着く。
…明日にはそう考えたことをすっかり忘れ、また失敗してしまうなんて、私は思ってもみなかった。
「明日世界が終わるなら」
今日眠って、明日目覚めることなく世界が終わったら。
わたしは毎晩そう考える。
辛くて悲しいこの日々も、一瞬で終われば楽だろうな。
最期をみんな一緒に迎えられたら、寂しくないだろうな。
きっと今日眠っても、平然と明日を迎えるんだろう。
幸せなんてない明日を、わたしはどう過ごせばいい?
希望という名の光はとうの昔に消え去っていて、
絶望とはいえない、仄暗い未来だけがそこにある。
明日世界が終わるなら。
それは誰かの絶望で。
それは誰かの悲しみで。
それでも誰かの、最上級の幸福なんだ。
時計の針は残り90秒。
地球の寿命はまだまだ先。
世界がなんで終わるのかは分かんないけど。
せめて、最期のときだけでもきれいな世界になってれば。
わたしはそれだけで十分幸せ。
「君と出逢って」
ものすごくけたたましい音が辺りに鳴り響いた。
え、何?うるさいんだけど、と思いつつ、気になって外に出てみた。そしたら、思いがけない光景が広がっていた。
UFO。UFOが墜落していた。…………?理解が追いつかない。
「ゆ、夢…だよね?」
頬をつねってみたけど、めっちゃ痛い。ということは、これは現実…?
えーっと、コレ、どうしよう…
少し悩んでみた結果、中を覗いてみることにした。もしかしたら、宇宙人とか乗ってるかもだし。ドアらしきものを開けてみる。すると、中には1人の女の子が乗っていた。ティファニーブルーのナチュラルボブで、白を基調とした、蛍光色のラインが入ったパーカーを着ている。どうやら気絶しているようだ。…このままにしておくのも何だかなぁ。
…とりあえず、家に入れよう。
自室のベットに寝かせる。いつ目覚めるか分からないが、まだここに居た方がいいだろう。
――――30分後。
「…んぅ、よく寝た…ってアレ!?ここどこ!?」
どうやら目が覚めたらしい。ひとまず安心だ。
「おはようございます。あなたが乗っていたUFOが家の前に墜落して、あなたは気絶してたんです。それで、1度私の部屋で寝てもらってました」
「UFO…宇宙船の事だよね!そうだったんだ…ありがとう!あなた、親切なんだね!あたし、ステラっていうの!あなたは?」
「佐藤葵です」
「葵ちゃん!よろしくね!あ、ところで、あたしの船、見てもいいかな?」
「もちろん。案内しますね」
「ありがとー!」
私たちはUFOのところへと向かった。
「あちゃー、これは修理が必要だー…」
やってしまった、というような声だ。
「これって、どのくらいで修理できそうです?」
「うーんと、最低でも1ヶ月はかかるかな…幸い、修理に必要な道具は持ってきてたから部品とかはあるんだけどね、直さなきゃいけないところが多すぎるなぁ…」
「そう、ですか…一応聞きますが、頼りにできる人はいますか?」
「残念ながら…通信機があるから、あたしの星の人に繋がるかもしれないけど…地球には頼れる人、いないんだよね」
「…UFOが直るまで、うちに泊まりますか?」
「っえ、いいの?家族の方とかは?」
「今、両親は出張してて、しばらく帰ってこないんです。兄弟もいないし、あなたさえ良ければ、うちに泊まっていってください」
「…ありがとう!それじゃ、お言葉に甘えて、泊まらせてもらいます!不束者ですが、よろしくお願いします!」
「…ふふ、なんかプロポーズみたい。こちらこそ、よろしくお願いします!」
こうして、私とステラのドタバタな毎日が始まったのだ。
「2人だけの秘密」
私は夢を見る。小さな頃から、ずっと。
夢の中には、何時もある女の子がいる。私と同じくらいの歳の子。初めてその夢を見た時から、私に話しかけてきた。一緒に遊んで、お菓子を食べて、いっぱい笑って。私が熱を出して寝込んでいた時も、夢に出てきて、私を笑わせてくれた。本当に幸せだった。たまにその子がいない時もあったが、その時は決まって手紙が置いてあった。
「ちょっとでかけてくるね!きみがすきなもの、たくさんおいておいたから、それであそんでね!」
と言った感じだ。これは私が小さい時のものだが。
そして、決まって夢から覚める直前に、
「わたしの事は、誰にも言わないでね。2人だけの秘密だよ!」
と言われるのだ。なぜそんなことを言うのかは分からないが、特に誰かに言う必要もないので、話していない。
この幸せな夢が、終わることなく続いてくれたらと、ずっと思っている。
だが、少し前に、こんな内容の手紙が置いてあった。
「ごめんね、暫く会えなくなっちゃった。お別れでは無いから、安心してね。」
それから、私はあの夢を見ていない。日常生活に支障が出るわけでは無いが、やっぱり、あの子がいないのは寂しく感じる。
そんなことを考えていたある日の夜。私は久しぶりに夢を見た。
「久しぶり〜!ごめんね、ずっと会えてなくて」
「ううん、大丈夫。何かやることでもあったんでしょ?」
「うん、まあ、ね」
…なんだか寂しそうな気がする。何か悲しいことでもあったのだろうか。そう考えていると、
「今日は、きみに大切な話があるんだ。…実はね、もう会えなくなっちゃうんだ」
…は?
「な、何で?私、何かしちゃった…?」
「ううん。きみはなんにも悪くないよ。これは、元々決まってたの。きみは明日で17歳の誕生日を迎える。その日の朝6時になったらバイバイだって、そういう運命なの」
急にそんなこと言われたって、理解も、納得も出来るわけない。
「やだよ、何で、何で…!」
涙がこぼれる。だって、17年も一緒にいたんだよ。お別れなんて嫌だ。あなたがいなくちゃ、私は、私は…!
「っ、わたしだって、わたしだってお別れなんてしたくないよ!でも、どうにも出来ないの…」
あなたの目からも涙がこぼれた。あなたの泣いてるとこなんて見たくない、と思うと同時に、なぜだか、少しだけ、嬉しいな、と思ってしまった。私のためにあなたは泣いてくれるのだと思うと、私の中で何かが震えた。
「…そっか、そっかぁ。…仕方ないんだよ、ね」
「…うん、ごめんなさい」
「あなたが謝る必要なんてない!私こそ、我儘言っちゃった。ごめんね」
「ううん。わたしだって、同じ気持ちだったから。…わたしね、きみが秘密を守れたら、きみと私のお願いごとを、ひとつだけ叶えられるようになってるんだ。だから、わたしは…いつか、きみとずっと一緒にいられるようになりたい。多分、ずっと先のことになっちゃうけど…」
「私も、あなたとずっと一緒にいたい!どれだけ先でも待つよ。あなたは、私の…親友、だもん」
「…ありがとう。…もうすぐ6時に、きみが生まれた日の朝になる。最後に言わせて。わたしの親友。わたしは、またきみと会えるまで、ずっと、ずーっと、きみのことを見守ってるよ」
「っ、うん…!待っててね。大好きなあなたのこと、絶対に忘れない!」
そう伝えると、あなたは、泣きながら微笑んで、
「─────!」
何かを言って光に包まれ、消えていった。
数十年後。私は天寿を全うしようとしている。大切な人との別れには寂しさも感じるが、それ以上に、あなたと会える喜びに包まれている。この先に待つあなたとの日々を楽しみにしながら、目を瞑った。
赤子の泣き声がふたつ聞こえる。1つは自分自身のもの。そして、もうひとつはあなたのもの。願いは本当に叶った。私たちは双子として生まれてきた。きっとこれから楽しいことも、辛いことも沢山待っている。それでも、あなたと私なら乗り越えてゆける。2人だけの秘密を、胸に抱いて。