路地裏に捨てられていた、子猫を拾った。
丸くてキラキラした目をした、純粋無垢な子だった。僕はその子を連れ帰って、綺麗にしてあげた。幸い怪我も病気も無いようで安心した。僕はその子を飼うことにした。名前は、マリ。そう名付けた。首輪をつけて、檻に繋いだ。マリはすくすくと成長した。それと同時に、僕にとても懐いてくれた。僕はマリと四六時中一緒にいた。身の回りの世話は全てやってあげて、ここにいたらマリは何もしなくていいんだと教えた。それと、マリには特別な教育をした。ある日、マリにお家に帰りたいかと聞いた。マリは黙って首を横に振った。かつてキラキラしていた目は、虚ろに僕だけを写していた。マリは僕に心酔していた。だから、僕らは結婚した。いつまでも愛しているよ、マリ。
11.15 子猫
秋風が、暖かい夏と一緒に
貴方の心も冷ましてしまった
11.14 秋風
「また会いましょう」
そう言ってアイツは自殺した。
髪が長くて声が小さい、いつも縁の太い眼鏡をかけていたアイツ。俺はアイツが気味悪くて、いじめていた。初めは泣いたり失禁したりして面白かったのに、だんだんと反応が薄くなっていった。他のヤツらはそれがつまらなくなってやめてしまったけど、俺だけはいじめ続けていた。やがてアイツから何の感情も感じとれなくなり、ある日突然死んでしまった。俺の目の前で笑って逝った。
それからというもの、毎日毎日手紙が届く。手紙には俺を呪う言葉と、自傷行為の写真が封入されている。俺は気味が悪かった。アイツは死んだ。なのにどうしてアイツの名前が書かれているのか。俺の精神は日に日に追い詰められていった。そんなある日、登校すると、いつもなら笑って話しかけてくる友人が誰1人話しかけてこなかった。それどころか、俺を避けているようにさえ感じられる。その日の放課後、先生に呼び出され、いじめについて言及された。俺は何も知らないと答えた。後から知ったことだが、クラス全員の家にアイツから手紙が届いていたそうだ。その手紙には、俺を呪う言葉が書かれていたらしい。だから、みんな俺を避けて無関係になろうとしたのだ。
日を追う毎に、俺の居場所は無くなっていった。ついには、両親にまで話が伝わってしまった。泣きながら俺に説明を求める両親に、俺は何も言えずただその場に立ち尽くしていた。すぐに俺は地域の有名人になった。歩いていれば、知らない人でも俺を避ける。俺には居場所が無くなった。部屋に籠った。明かりすらも俺を嘲笑っているように思えて、電気をつけるのを辞めた。寝ているのか寝てないのかもよく分からない。家族も俺と顔を合わせようとしない。毎日届き続ける手紙は、ついに部屋の一角を占拠した。吐き気が止まらない。食事が喉を通らない。死にたかった。
ふと、窓を見た。久しぶりにカーテンに手をかけ、そっと開く。光が一斉に入ってきて、目が眩んだ。やっと、救いを見つけた。
次に目が覚めたら、俺を見下ろすアイツがいた。
「また会いましたね」
アイツは笑っていた。
11.13 また会いましょう
人生は上手くいくことばかりではない
むしろ上手くいかないことの方が多いだろう
それでも挑戦を続ける人々が居る
そんな人たちが掴みたいものを掴んだ時
人生大逆転の美しいお話が生まれる
成功者には不思議とそんな人が多い
教科書通りに生きるのではなく、
自分の興味に従って、挑戦的に生きる
そんな人生が格好いいと思う
11.12 スリル
生まれつき、多くの障がいを持って産まれた私は、とても人間としての生活は送れませんでした。長くない一生涯を病室で過ごすことが確定していました。やがて、家族にも愛想をつかされ、見舞いに来る人は誰もいなくなりました。私は未来に希望を持つことがありませんでした。なぜ息をしているのかも分かりませんでした。
そんなある日、窓辺に1匹の鳥が落ちてきました。無知な私は鳥の名前が分からず、看護師さんに尋ねました。この鳥は雀と言うそうです。怪我をしていたので手当をしてあげたいと看護師に頼みました。看護師は眉をひそめ、少し困った表情を浮かべましたが、私の切実な態度を見て、渋々了承しました。しかし、菌があるといけないと言い、私が手当をすることは許諾してもらえませんでした。
私は体力が無いので、よく寝てばかりいました。半刻ほど寝ていたでしょうか、雀を手当した看護師が入ってきました。雀は片翼に包帯のようなものを巻かれて、よちよちと歩いていました。人間が怖いようで、私が手を伸ばすとビクビクと震え、机上でじっと固まってしまいました。看護師が、外に逃がしますと言いました。私は毎日この病室で、白い天井だけが友達でした。だから、こんなにも近くに生命体が存在していることに感動しました。私は看護師を必死に止めました。寂しいから、この病室で飼わせてくれと懇願しました。看護師が一瞬、哀れみと嫌悪の対象として私を見たのを、私は見逃しませんでした。看護師は許諾してくれました。
幸い、その雀は驚くほど鳴きませんでした。きっと喉に何らかの異常があるのだと思わせるほどに、鳴くことは1度もありませんでした。小さな病室で、2人の静かな生活が始まりました。私たちはお互いに欠陥があり、お互いに慰め合いながら生きました。雀の片翼は、傷が治っても飛べるようにはなりませんでした。それを知り、私は少し嬉く感じてしまったことは、胸の奥底にしまいました。
私の身体は日に日に弱っていきました。身体を動かすことがとても重労働に感じました。食欲が減り、身体はみるみるうちに痩せこけていきました。重い重石を乗せられているかのように、一日中眠っている日が多くなりました。
雀は、いつも私の傍に居ました。私を小さな身体で温めてくれました。
最期の日。とうとう私の元には、家族は訪れませんでした。その代わり、私の傍には雀がそっと寄り添ってくれていました。この小さな生命体と、人間では無い私。飛べない翼を持つもの同士、支え合って、精一杯生きてきました。短い人生。生まれた意味も分からない無意味なものでしたが、こんな私でも愛されたことをここに記しておきます。
11.11 飛べない翼