「ねえ、玲斗君ってば! お話してるんだから目を合わせてよ」
喫茶店に私の大きな声が響き渡る。
いつも玲斗君とは目が合わない。
もしかして……私のこと嫌いなのかな……
「なんで目を合わせてくれないのよ」
玲斗君は、顔を赤くしながらもやっと私の目を見た。
「目が合わせれないのは……琴美が可愛すぎるからなんだ! 目を合わせたら顔が赤くなるんだっ!」
え……? 嫌いになったんじゃなかったの……?
つい目が点になってしまう。
私の方も顔が赤く、りんごのようになってしまう。
「な、なんだ。そういうことか〜」
お会計をしようと立ち上がったおばあちゃんが私たちに声をかける。
「あらあら、二人してお顔が赤くなってるわ。かわいいカップルさんね」
にこやかに微笑み、去っていく。
それにより、私たちはより赤面になるのだった。
■■■
彼女たちはまだ知らない。
半年後、結婚をすることを……
めでたし、めでたし。
こっち恋 愛にきて
「38度……」
私は寝転びながら、手に持っている体温計を見た。
『ごめん。風邪ひいちゃったから明日のデート行けないかも。私が元気になったら一緒に行こうね』
彼氏の春斗にスマホでメッセージを送った。
明日は水族館に行く予定だったのだが、熱が出ているのならしょうがない。
「久しぶりに会えると思ったのに……」
最近は仕事が忙しく、あまり会えていなかった。
思わずため息をついてしまう。
ピンポーン
チャイムの音が家に鳴り響く。
「体調大丈夫?」
春斗がやってきてくれた。
私がこっち恋、愛にきてと思ったのが通じたのかもしれない。
「……どこへ行こう……」
私は今、人生最大の選択をしているかもしれない。
なんの選択? 結婚? それとも引越し?
いいえ、《どこの異世界へ行くか》です。
「どこの異世界へ行くのじゃ? 迷ってないで早くしておくれ、鈴歌殿」
神様はソファーに座り、ポテトチップスを食べながら聞いてくる。
「悪役令嬢になれる世界、聖女になれる世界、どんな人からもモテる世界、などなど色々あるぞ? さて、どれを選ぶのじゃ?」
どの世界にも魅力を感じない。
そんな世界よりも……
私は拳に少し力を入れて、神様に言った。
「私の彼氏だった“律”と、もう一度……もう一度会える世界はありませんか?」
律とは幼馴染であり、彼氏だった。
だが、事故に遭い亡くなってしまった。
数日前までは一緒にご飯を食べたり、笑い合いながら話していたのに。
「では地球に似た異世界に行くよう手配しよう。その世界には律の“生まれ変わり”がいる。生まれ変わる前の 記憶を蘇らせておくから安心せい」
もう一度会える……
そう思うと一筋の涙が頬を伝った。
神様、ありがとうございます。
「鈴歌を異世界に行かせよ‼︎」
神様が黄金に光る杖を鏡に向かって振ると、とても眩しい光が私の目を射る。
そして、何かに吸い込まれる感覚がした。
おそらく、今は異世界に行っている途中なのだろう。
「次こそ2人で幸せになるが良い」
小さな声だが神様の声がした。
……はい、幸せになりますよ。
……もう一度機会を与えてくださり、ありがとうございます。
私は心の中でそう呟いた。
「愛してるよ、柚葉。ずーっと一緒にいようね」
私の彼氏朔也は愛が重い。
良く言えば一途と言うことになるだろう。
私は幼馴染の優真と影絵を見に行った。
影絵を見るのは何年振りだろうか。
おそらく幼稚園以来だろう。
「あ、もうすぐ始まるよ」
声をかけると優真はすぐに振り向いた。
顔と顔がぶつかりそうなくらい近い。
恥ずかしくて顔が爆発しそうだ。
思わず顔を背けてしまう。
「琴、もう影絵が始まったよ」
優しく声をかけられる。
よし、今は影絵に集中しよう。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
集中したいのにどうしても、隣が気になってしまう。
「ぼーっとしているけど大丈夫?もしかして体調が悪いの?顔が赤い気もするし‥……」
不意におでこに手を触れられる。
彼の手の体温を感じ、動悸がしてきた。
この感情は何なのだろうか。
■■■
これは2人が結婚することをまだ知らない時の過去のお話。