この町の風懐かしいな
潮の香り緑の香り
ふとした出来事が重なって
届かないほど離れていたね
今も思い出すのは
少し寂しそうなあの横顔
うろこ雲の空を見あげながら
少しだけ歩いてみる
ラララ〜ラララすれ違いのシンフォニー
僕らが奏でた哀しき音色さ
ラララ〜ラララどこまでも遠く
果てない世界に君を想いながら
澄んだ水色の空に
野鳥が渡っていく
こんな晴れた日には
思い出すよ廊下の窓から
見上げていたまだ高校生の僕
何も知らない子供のままで
生きていくのは難しいけれど
僕は誓うよ
僕は僕と真っ直ぐに向き合い
あの日の僕に恥じない自分でいることだけは
秋晴れの澄んだ水色の空に
光優しい陽射しのなかに
静まり返った湖面に
僕らは小舟を浮かべて
釣り糸を垂らした
君と僕はずっとずっと
戦って来たのだから
これは必要な休息だ
君は言う忘れたくても忘れられない
誰かの言葉を
だけど今日は目の前の
釣果を気にするだけでいいんじゃないか
少し肌寒い秋の風に
手を伸ばせば届きそうな
君の横顔をそっとぬすみ見ながら
粉雪が舞う
夕暮れに
雲が切れて
やわらかな光が
犬が空を見上げて
目を細めている
僕はそれを見ながら
目を細めた
繰り返す日々に
代わり映えはないけれど
昔よりは少しだけ
楽に生きているから
だから今はそれでいい
それだけでいいと思うよ
チョウゲンボウがホバリングしていた
鋭い眼差しで
僕の家の近くの田んぼ
時々見かけてカメラを覗いた
何度もシャッターを切った
心底惚れていた
そのあたりにショッピングモールが建つと
計画されていた
寸前までそこに姿を見せた
そして工事が始まった
多くの人は喜んでいた
人間ってそんなもの
僕だけは少し悲しかった
だって気づいていた
ここ数年であっちもこっちも野鳥の住処は
奪われていった
人は歩みを止めることは出来ない
歩みを止めたとき終末なのかもしれない
そして私が不思議なのは
ほとんどの人がそこに痛みを感じていないこと
空はあの日のままの青空
けれどそこにはもういなくなった
いつのまにか夕暮れが
アスファルトを赤く染めていた