寒くなってきたので、お母さんが冬物の服を出してくれた。コートや手袋、あったかい靴下。
一番のお気に入りはおばあちゃんが編んでくれた真っ白なニットのワンピース。
これを着ていると雪の妖精になれる。雪が降る日でも私を暖かく包み込んでくれる。このワンピースを着られるから、冬が楽しみ。
早速着てみる。なんだか袖が短い。去年までのふわっとした感じがなくなっている。
「背が高くなったからね、今年はもう着られないかな」とお母さんは言う。
まだ着たいよ。このワンピースがあるから、寒い冬も楽しく過ごせるのに。
私はおばあちゃんに相談することにした。私のおばあちゃんは魔法使い。おばあちゃんの作った服を着ると私は何にでもなれる。春は蝶に、夏はひまわりに、秋は森の妖精になった。
ワンピースを持っておばあちゃんの家に行く。
「任せておきなさい」とおばあちゃん。
おばあちゃんの手は魔法の手。まずはワンピースの先をつまむ。するするするっと毛糸が解けていく。ワンピースだった毛糸はうねうねと波打っている。それをアイロンのような形をした機械にセットする。するとうねうねの毛糸は真っ直ぐな毛糸に早変わり。それを玉巻き機にセットする。玉巻き機をくるくる回すと綺麗な毛糸玉ができていく。するするする、くるくるくる、するするする、くるくるくる。おばあちゃんの魔法の手で5つの毛糸玉が出来上がった。
「さあ、今日はここまで。続きはおばあちゃんがやっておくよ」
数日後、おばあちゃんから家にいらっしゃいとお誘いがあった。おばあちゃんが出してくれたのは、雪のような真っ白なセーター。アラン模様のセーター。着てみるとフワリと暖かい。ワンピースの時より暖かさが増したようだ。
素敵。これで雪の日も暖かく過ごせる。
「おばあちゃん、ありがとう」
そう言う私にもう一つと言って、同じ毛糸の帽子を取り出した。てっぺんに大きなポンポンのついた真っ白な牧師。ポンポンがうさぎのしっぽみたい。
「おばあちゃん、ありがとう。さようなら」
私はうさぎの妖精になって家路を急ぐ。
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お題:セーター
誰かの発した一言で気持ちが落ちていく。
その言葉が頭の中で渦巻いて落ち込んでいく。
それ以前の言葉や態度を思い出して落ち堕ちていく。
全てを思い出して落ち着いた。
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お題:落ちていく
未来が決まる瞬間というものがある。
短い未来の時もあるし、遠い未来の時もある。
新学期のクラス替え。これからの一年が決まる。
受験の合格発表。これからの数年が決まる。
自分の意思や努力だけではどうにもならないもの。
仕事を選ぶ瞬間。パートナーを選ぶ瞬間。
自分の長い未来を決める瞬間もある。
やはり、自分の意思や努力だけではどうにもならない。
そこにあるのは、言い古された言葉ではあるが、やはり『縁』なのだと思う。
自分の意思や努力だけではどうにもならない。
その『縁』を『良縁』にするのか『悪縁』にするのか。
それは自分の意思や努力が重要になる。
全ての人間関係に共通することなのだろうけど。
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お題:夫婦
フワリが帰った後もフウタは風の丘に座って星空を眺めていた。
フウタはわかっていた。今日、フワリと一緒に星空を眺められたのは、流れ星にお願いしたからではない。フワリが勇気を出してお父さんに話をしたからだ。
フワリと一緒にいるのは楽しい。フワリと一緒に野原を駆け回る時、ボクとフワリは風になる。こんな遊びができるのはフワリとだけだ。フワリと話をするだけで元気になる。フワリはボクの親友だ。
でもフワリと遊ぶ時、ボクはこっそり抜け出している。帰る時もいつもドキドキしながら帰る。「何をしていたの?」と家族から聞かれてもいつも「別に」って答える。いつかみんなに知られてしまうのだろうかとビクビクしている。フワリにも家族にも申し訳ないって思う。
フワリとはこれからもずっと一緒に遊びたい。家族にフワリを受け入れてもらいたい。ボクはどうすればいいの?
流れ星の数はどんどん少なくなってきた。フウタは最後の流れ星にお願いした。
「ボクに勇気をください」
そして、すくっと立ち上がり家に帰る道を風のように駆けて行った。
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お題:どうすればいいの?
子ぎつねのフウタと子うさぎのフワリは秘密の友達。
きつねはうさぎの天敵だから、フワリが「きつねの子と友達になった」なんて言ったら、みんなに「やめなさい。あなただけじゃなくて、家族もきつねに意地悪されるわ」って言われるんだろうな。うさぎはきつねを乱暴で意地悪だと思っている。
フウタだって「うさぎの子と友達になった」なんて言ったら、みんなに「やめろよ。あんな臆病者と遊んでも楽しくないだろ」と言われるだろうな。きつねはうさぎを臆病な嘘つきだと思っている。
フワリは知っている。フウタがとても優しいことを。
フウタも知っている。フワリがとても勇敢なことを。
フワリとフウタが遊ぶのは風の丘だ。きつねは風の丘には何もなくてつまらないと言うし、うさぎは風の丘は隠れる場所がらなくて危険だという。だから、ふたりにとって風の丘は誰にも見つからずに遊べる最高の場所だ。
「ねぇ、フワリ。明日の夜、風の丘に来れない?」
「え?うさぎは夜は寝るのよ?」
「うん、知っているよ。でも、きて欲しいんだ」
その日の夜、フワリは寝床で考えた。夜の世界ってどんな世界だろう。フウタがあんなに誘ってくれるんだし、行きたいなぁ。でも、お父さんもお母さんもきっと許してくれないよな。夜中に抜け出すなんてできないし。どんなに考えてもいいアイデアが思い浮かばない。
フワリは寝床から起き出して、お父さんとお母さんの所に行った。フワリの深刻な表情にお父さんとお母さんは驚いている。
「フワリ、どうしたの?どこか痛いの?」とお母さん。
フワリは頭をふる。
「お父さん、お母さん、明日の夜お出かけしたいの」
お父さんもお母さんもさらに驚いた顔をした。
フワリはお父さんとお母さんに全てを話した。仲良くなった友達に夜、遊びに誘われたこと。その友達がきつねであること。でも、とても優しい友達であるということ。
お父さんはしばらく黙って何か考えていた。
「フワリ、夜にひとりで遊びに行くのを許すことはできないよ。やはり夜の森は危険だからね。私が一緒に行くことにしよう」
フワリの顔がぱあっと明るくなった。
「お父さん、行ってもいいってこと?ありがとう」と言ってフワリはお父さんに飛びついた。
「フワリがきちんと話してくれて嬉しいよ」とお父さんは言った。
いよいよフウタとの約束の日。
初めて夜の森に出る。夜の森は恐ろしい程静かで真っ暗だ。フワリはお父さんと離れないようにぴったりとくっつく。
森を抜けると途端に夜空が広がった。空一面の星にフワリは息をのむ。風の丘に着くとすでにフウタが待っていた。お父さんが「行っておいで」と微笑む。
「フウタ〜」
フワリの声にフウタが嬉しそうに手を振る。
「フワリ、向こうの空を見ていて」とフウタ。
すると、すーっと星が流れた。びっくりしていると、次々に星が流れる。
「うぁー、すごい!」一言そう言ったきり、フワリは何も言えなくなった。30分程見入っていると徐々に流れる星が少なくなってきた。
「フワリがくる前に流れ星にお願いしたんだ。フワリが来ますようにって。そしたら、フワリが来てくれたんだ。ありがとう」とフウタ。
「フウタ、ありがとう。私、全部お父さんに話したの。そしたら、お父さんが連れてきてくれたんだ」とフワリ。
フワリはフウタと別れてお父さんの所へ走って行く。
「すごかったなぁ。フワリ、いい友達だな」とお父さん。
フワリは自分が褒められた様に嬉しくなった。
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お題:宝物