どこかに行きたい。
どこかに向かっていたはずなのに、
目の前の羅針盤は回りっぱなしだ。
このまま、嵐にでも突っ込んでいけたら、
少しは楽になるだろうか?
少しは必死になるだろうか?
俺は風来坊。
1ヶ所には留まれない。
ずっとどこかに行きたいと
思っていたわけじゃない。
俺だって、ここにいたいと
思うことがなかったわけじゃない。
ずっと昔、俺を唯一必要する人間がいた。
そいつといた時だけは、
ここにいたいと強く願ってた。
邪悪な神とやらが、
その人間を始末するまでは…。
俺をどうしても1ヶ所に
留まらせたくなかったんだろう。
俺にとって代わりなんかいない人間を
いとも簡単に消しやがった。
俺が荒れ果てて、
すべてのものを破壊してく様を
楽しそうに笑ってやがった。
それから俺は、また流れた。
風が吹くように、どこにも留まることなく。
俺がいる場所には、花が咲き、作物はよく育つ。
俺の心とは裏腹に…。
毎日同じような日々。
頑張っても頑張っても何も変わらない気がする。
明日に向かって歩く、でも
たまには立ち止まってもいい。
立ち止まったら、大きく息を吸って、
思いっきり吐く。
嫌なことをいっぱい乗せて。
つらい気持ちも乗せて。
また前を向いてある時には、
ちょっとだけ楽になるように。
また歩き出す。
明日はいい日に続いてると願って。
立ち止まる。
吐いた息が、真っ暗な空に吸い込まれていく。
明日は雪だろうか?
星の見えない空を眺めて思う。
歩き続けることに疲れた。
もう何もかもどうでもよくなって、
生きるのさえ投げ出したいと思った。
自分が単純なやつなのは知ってた。
誰かに必要だって言われれば、
何でも頑張れる位。
誰かに棄てられれば、
もう誰も自分なんかいらないと思う位。
難しく考えたって、
自分にはよくわからない。
ただ一緒にいたかった。
なにものでもなくていい。
恋人でも友人でもなくていい。
自分が誰かの何かになるのは怖い。
どうせすぐに他人に戻るのなら、
名前のあるものになりたくない。
ただ誰かと一緒にいたい。
それはわがままなんだろうか?
自分を受け入れてくれるなら、
何でもできるかと言われたら
できないと言いきれる。
そんなに興味はない。
それなら、ひとりでいればいいのに?
たしかにそうなのかもしれない。
天邪鬼な自分に呆れてくる。
未来への鍵があったら?
たぶん探しにも行かない。
過去も今も未来もそんなに変わらないから。
とりあえず、帰るか。
手先が冷えて痛くなってきた。
何でもないないフリをして過ごす。
それで、彼の気持ちが収まるなら…。
そう思って、自分の気持ちを削っていく。
少しずつ、少しずつ。
自分の存在価値まで削っていく。
消えたいなぁ。
死にたいではなくて、消えたい。
死ぬと消える、何が違うのか?
消える方が楽そう。
死ぬのは苦しそう。
ある時、ふと思った。
どうしてそんなに執着するのか?
考えた。
世の中には彼以外も存在してて、
自分を見てくれる人もいる。
自分を必要と言ってくれる人もいる。
その人たちに背を向けて、
彼を追いかけるのに意味はあるのか?
自分が見えなくなってしまった人を
追いかけて何がしたいんだろう?
ある時、彼以外の人から、
彼と同じことを言われた。
何かを隠してるわけじゃない。
何を話しても興味がなさそうだった。
ずっと一緒にいられると甘えて、
わがままばかり言って、
話しも聞かない人と
自分はどれ位一緒にいられるだろう。
きっとすぐにどこかに行ってしまうと思った。
何でもないフリをして過ごす。
誰も自分を認識してくれなくても。
何でもないフリをして過ごす。
もう誰も傷つかないように。
消えたいなぁ。
そう思いながら…。
太陽の下で君とまた逢えたら、
僕は他に何も望まない。
君とまたいろんなところへ行って、
いろんなものを見る。
そんな夢のようなことを考えてしまう。
もう君の隣には別な人がいて、
僕はもう過去なんだと知っても、
奇跡が起こらないかと思ってしまう。