「夜(よる)、聞いてください。明日200年に一度の流星群が見られるんです。見ませんか?」
吹雪(ふぶき)は充電中に、姿勢を正して夜に話しかける。
「吹雪、僕達は与えられた役割をこなす必要があります」
「いいじゃない、ですか。時には、休みも必要ですよ」
「否、機械に休みは必要ありません」
「そんなこと言わずに、一緒に見、ましょう」
にこっ、と吹雪は夜に笑いかける。
「吹雪、声帯に異常あり。検査をオススメします」
「確かに最近調子、が悪いんですよね。風邪でしょ、うか?」
「否、機械は風邪を引きません」
「それ、もそうですね」
ふふふ、と吹雪は手を口に当てて笑う。
「とりあえず、明日一緒に見ましょ、う。流星群」
「何故一緒に見ないといけないのでしょうか。一人で見ても、二人で見ても変わらないはずです」
「人は誰と見るかで見方が変わるそ、うですよ」
「否、僕達は人間ではありません」
「しか、し僕達は人間と似ています。なら、人間の真似事をしたって、いいじゃないですか?」
吹雪はこてっ、と首を傾げる。その首を自分の手で戻すのを見なければ、可愛いものなのだが。
「わかりました。吹雪の要望に応えましょう」
「ありがとうございます」
あ、充電終わりました、と吹雪は背中からコードを抜いた。
お題 「君と一緒に」
出演 夜 吹雪
「ねぇ葉瀬(ようせ)、幸せってなんだと思う?」
ゲームをしている玲人(れいと)は目線を画面から葉瀬へ移して話しかける。
「え?幸せ?うーん…」
少し驚いた葉瀬と目が合う。
「幸せかぁ...難しいね......人によって幸せって違うもんね」
「葉瀬は...どう思う?」
「私は...」
葉瀬はコントローラーを持っていない方の手を顎に置く。
「わからないけど…嬉しかったり、心地よかったりするのが幸せなのかな?」
(「じゃあそれが葉瀬の幸せってことなの?」って聞いたら、そうなのかなぁ?って昔返されたっけ…)
と、あの日と同じゲームをしながら玲人は葉瀬に再び質問する。
「なぁ葉瀬」
「何?」
「幸せって何?」
「んぇ?幸せ?なんで?」
「なんとなく」
互いに画面から目線を離さず、前だけを向いて会話を続ける。
「葉瀬にとって何が幸せなの?」
「えー...?んー...」
カチカチ、とボタンを押す葉瀬。
「......今、かな」
「ん?今?」
玲人は気になって一度操作が止まる。葉瀬はぼんやりと画面を眺めながら、続けて答える。
「うん、今。玲人とゲームしてるこの時間が、私にとっては幸せ」
玲人は驚いてバッ、と葉瀬の方を見る。葉瀬は相変わらずボタンをカチカチと押して、画面を眺めていた。
「......それは、ゲームしてる時間が幸せなの?」
「ううん、玲人とゲームしてるから幸せ......あ、いや玲人と居られるから幸せなのかな」
そう言って葉瀬がチラリと横を見ると、玲人がコントローラーで顔を隠していた。
「ちょっと、何してんだよ」
「.........今、ちょっと顔見られたくない」
「なんだと。顔見せんか」
「やめろバカ」
頑なに顔を隠そうとする玲人の腕を、葉瀬は引き剥がそうとする。
「...玲人顔真っ赤」
「だからやめろって言ったんだろ阿保っ...!」
「あだっ!」
がすっ、と葉瀬の頭に手刀が落ちてくる。良いところに入ったのか「いてぇ」と頭を押さえてうずくまった。
「そーゆー玲人はどうなんだよ。何が幸せなの?」
「俺は......えっ...?なんだろ......ふわふわで甘い時が幸せ?」
「そーーれ......うん、いいと思うよ」
葉瀬は何か言いかけたが、言葉を飲み込むことにした。
「ふわふわで甘い時かぁ......あれ...なんか、幸せの話って前もしなかった?気のせい?」
「んー、したかもね」
「やっぱり?なんて話したっけ」
「覚えてない」
「えー、思い出してよー」
「うーん、嬉しかったり心地よかったりするのが幸せって答えてた葉瀬なら覚えてるんけどなぁー」
「いやそれじゃん。覚えてんじゃん」
お題 「幸せとは」
出演 葉瀬 玲人
「良いお年を~」と振り返り、同じくこちらを見ている友人に手を上げて帰路に着く。
以前まであんなに暖かかったこの道は、今では一面雪景色と化していた。ぼぅっ、と息を吐けば目の前で煙に変わって消える。無防備な手をポケットに突っ込んで、肩を縮めて歩いた。
今年は忙しすぎて、去年より行事や年末を気にする余裕が無かったように思う。
この忙しさが終わったら、止まっていた小説を書こう。
来年こそはコタツでゆっくりみかんでも食べて紅白を観たいなと、そう思った大晦日だった。
お題 「良いお年を」
皆様、良いお年を。
「おはようごぜーます」
我に返ると黒い髪の少年が、寝そべっている俺を上から覗き込んでいる。
「お元気でしたかー?いや、お元気もくそもないか。誕生日おめでとう玲人(れいと)、君にプレゼントだよ。ちょっといいリンス...今はコンディショナーって言うか、それをあげよう。枕元に置いておくのはちょっとあれだから洗面台の下に入れといたよ。あ、一応どこで買ったかの紙も入れといた」
彼はピッと何もない白い空間を指差す。
勝手に一人でぺらぺらと話を進める少年。用件だけ言って早く帰ろうとしているのがひしひしと伝わってくる。
「え、誰?」
「言うと思ったよ~」
そう言って少年は話を逸らした。
「不変こそ美って言うじゃん?」
「えっと...何の話...?」
「でも変わらないものって無いと思うんだよね。君だって変わってるし」
変わってるってどういうことだろう、と考えていると少年は続けた。
「だって前の君なら『え、誰!?』か『...誰』って言ってたし。まぁ自分が丸くしただけなんだけどね~」
今なんかとんでもないことを少年は言った気がする。
「まぁ君は変わって当然なんだよ。なんたって今いる中で四番目くらいに生まれてるんだから」
「...一番目は...?」
「一番目は、氷華(ひょうか)ちゃん。あの娘も色々変えてるんだけどね。ちなみに君の前は葉瀬(ようせ)だよ」
どう?嬉しい?と少年はわくわくしながら聞く。
「えっと、おかしいでしょ。葉瀬は俺より年下なんだけど」
「...そうか。今のはメタいか。この話止めよ」
止め止め、と少年は俺の顔の前で手を払う。
「とりあえず誕生日おめでとう。早く起きて彼女の顔見てあげなよ。前の君なら、想像出来なかった事でしょ?」
「...あ、玲人起きた」
そんな声がして目を開けると、近くに葉瀬の顔があった。
「おはよう。誕生日おめでとう玲人」
「おはよ......近い…」
俺は葉瀬の顔面を手で押し返す。ぐえっ、と変な声が聞こえたが気にしなかった。
お題 「変わらないものはない」
出演 玲人 葉瀬 氷華(名前のみ)
玲人(れいと)はソファに座って、葉瀬(ようせ)が風呂から上がってくるのをスマホを眺めて待っている。
玲人は旧ツイ○ターの画面を行ったり来たりとエンドレスしていた。だんだんスクロールをするのが億劫になって、指が動かなくなってくる。暇だから見ているのにそれすらなんだか怠く辛くなってきた。
ぼー...っと画面を見て何を思ったか文字を打とうとする。しかし、頭が動かないのか文字が進まない。変だな。
考えても考えても、文字が頭に浮かばない。
とりあえず文字を打とうとした時だった。
「ちょっと、なにしてるの」
その声と共にスマホは手から離れ、空に移動する。
「葉瀬?もう上がってきたの」
「...声かけても返事無かったんだけど、何?」
「え、ごめん」
玲人が少し申し訳なさそうに謝ると、葉瀬は玲人の額と項辺りに手を当てた。
「...うん、熱いな」
「?」
「ちょっと待ってて」
葉瀬はリビングにある棚から、体温計を持ってきて玲人に計るよう言った。玲人は言われるがまま体温を計ると体温のパネルはゆうに38℃を超えた値を表示していた。
「...熱出てんね。だるい?」
玲人は何も言わずにぼんやりと頷く。葉瀬は一つ息を吐いて、玲人に聞く。
「ベッドまで歩ける?」
「...うん」
「じゃあ行こう。起きて」
葉瀬は玲人の手を取ると、ふらつく玲人の体を支えて寝室へと向かった。
お題 「風邪」
出演 玲人 葉瀬