「実はさ、今日下駄箱にこれが入ってたんだ」
お昼休み、屋上でご飯を食べながら陽太(ひなた)は俺の前に一枚の封筒を見せる。
「...それが何?大事な物なの?」
「も~🐄真人(まひと)クンわかってないなぁ~(^o^;)そんなんじゃ駄目だゾッ❗陽太クンがメッ❗してあげるヨ☺️」
「無視して良い?」
「ごめんって!冗談だよ!」
俺は慌てる陽太を横目で見る。
「それで?...その手紙がなんなの?」
「これね、ラブレターだったんだよ。しかも匿名の」
「へぇ」
「もっと乗り気で!!SAY COME ON!それでそれで~!?」
「......それでそれでー」
「心のこもってない返事っ......まぁ宜しい。手紙にね『好きです。もし付き合ってもらえるなら、昼休みに校舎裏に来てください。』って書いてあったんだー」
「...今昼休みだけど良いの?」
「うん。俺、誰か分からない告白は最初から振るって決めてるんだ」
「なんで?」
「だって、誰から貰ったか分かるからこそ!その人から愛を受け取ったって感じるんだ~」
「の割りには誰からの告白も受けてないくせに」
「ギクッ。だ、だって好きな人いないし...」
「なんだそれ。じゃあそのラブレターの愛、俺に半分わけろよ。あと適当に彼女作れよ」
「それは駄目!俺の美学に反する!」
「めんどくさ」
「まぁ真人も告白されたら分かるよ。誰か分からない愛なんて、受け取っても手から溢れてるように感じる状況」
...それが、まさしく今なのか。
俺は今日の昼休み、大学の中庭に呼び出された。目の前で頬を赤らめた女性が何か言っている。
「あの...だから......私と付き合ってください!」
“誰か分からない愛なんて、受け取っても手から溢れてるように感じる状況”
本当、まさにその通りだ。
「...ごめん、付き合えない。というか君は誰?」
「お前、また振ったのかよ~真面目だよな~」
実(みのる)が俺に話しかける。
「一回くらい女の子と遊んでみたいとか無いわけ?それに、別に一回くらいならいいんじゃない?まぁお前が振ってくれるお陰で俺は女の子と良い感じになれるんだよなー.........っておい、無視すんな」
「......そういう実こそ、恋人大事にしないといけないんじゃないのか?いつか捨てられるぞ」
「それはないな。俺がいくら遊んでもアイツ怒んねぇし」
実は自信満々に答える。
「...俺、次の講義あるから行く」
「お、じゃーなー」
俺はコイツみたいにだけはなりたくない。
陽太の美学に、俺も反したくはないから。
お題 「Love you」
出演 真人 陽太 実
「え!?雪(ゆき)いつの間にアイツと別れたの!?」
「シィーッ...!!声が大きい...!」
「あ、ごめん」
居酒屋の一室、私は久しぶりに雪と飲みに来ていた。雪と私は友達で大学のサークルの飲み会で知り合った。偶然隣に座ってて、話すと似た者同士だったから意気投合したのがきっかけだったはず。
ちなみにアイツというのは雪の彼氏......現在は元カレである。名前は実(みのる)。
「...でも、あんなに言っても別れてくれなかったのになんで?...あ、ごめん。言いたくなかったらいいよ」
「ううん、聞いて欲しくてさ.........俺さ、大学で話してた時の実が超タイプでさ、もう本当に付き合いたいぐらいだったんだよその当時。でもな」
雪がグラスを回すと、氷がカラカラと音を立てる。
「…確かに葉瀬(ようせ)に言われた通り、夜遊びが超酷かった。でも俺好きだったから許してたんだよ...」
「あ、雪の悪いとこ出たよ。自分に悪いことされても、好きな人には強く言えないとこ」
「うぐっ...」
「で、それで?」
「......許してたんだけど、この前の一年記念に俺とした約束守ってくれなくて。俺、気づいちゃって。『あーあ、俺が好きなのは付き合ってる実じゃなくて、憧れてた実だったんだな』って。そこからなんか...さ...」
雪はそのまま机に顔を突っ伏した。
「......そのまま別れよう、って言って飛び出してきちゃった」
「あー、雪の良いところ出たよ。そうと決めたら思い切るところ。私は好きだよ」
私はそう言って突っ伏したままの雪の隣に座って、背中をとんとん、と優しく撫でた。
「...未練あるんだけど......」
「忘れなーーあんな屑野郎。男なんてね、星の数ほどいるんだから。雪は顔も良いし、何でも出来るし、きっと次は上手くいくよ」
「......本当か?」
「逆になんだと思ってるんだよ。私より顔良いんだから、ふんだんにそれ使いなー」
そうやって暫くぽんぽんと撫でていると、雪は落ち着きを取り戻したのか机から起き上がった。
「お?」
「...メイクする」
「ん?」
雪はすっ、と立ち上がる。そして
「俺メイクしてめっちゃ顔良くして実に『あんな素敵なやつに振られちゃったんだ』って思わせる!!」
と高々に宣言した。
「おー!なんでそうなったか分からないけどそのいきだー!応援するよー!!」
「流石俺の友達!!今日は飲も~!!」
「いえーい!」
なんでこうなったのか分からないけど、雪が元気になってくれて良かったと思った。
お題 「同情」
出演 葉瀬 雪
「う゛......寒...」
買い物帰り、突然吹いた風に彼女はスーパーの袋を持って身を縮こませている。
「...あ、見てみて~」
彼女はしゃがむと一枚落ちた葉っぱをつまみ上げる。
「玲人(れいと)とおんなじ色~」
そうやって見せてきたのは茶色の乾燥した葉っぱ。俺の髪色と似ていた。
「似てるね~」
「でしょ~持って帰る」
そう言って彼女は葉っぱをコートのポケットに突っ込んだ。俺が気づいた時には遅く、彼女のポケットから、クシャッと音がした。
「ん?」
ポケットから手を取り出すと、それはまぁ粉々でばらばらと溢れ落ちてきた。
「...!......!...!」
あまりにもショックだったのか口をぱくぱくとさせるだけで、なんだか可哀想に見えてきた。
「せ...折角拾ったのにっ......」
「あ、はは......」
「うわぁ、コートのポケットが......」
次にコートのポケットを見て絶望していた。
「乾燥した落ち葉は割れやすいんだよ」
「......忘れてた...」
「こういう乾燥した落ち葉で焼き芋とか焼いてたよね」
「あぁ、懐かしい」
「懐かしいっていつの時代だよ」
「弥生」
「そこは縄文じゃないのかよ」
軽口を叩きながら並木通りを歩いた。
そこで再び風が吹く。
「うぇっ、寒」
「うぐっ」
マフラーに顔を埋め、また身を縮めている。この時だけ、俺は身長で彼女に勝てる。
「......寒い」
「そうだね」
「.........手繋いで帰った方がいいんじゃない?」
「......え?」
驚いて俺が向くと、頬を赤くした彼女がいた。じっ、とこっちを見つめてくる。これは、稀に見る彼女のデレ隠し。普段こんな風に甘える事がないからちょっと嬉しい。
「...そうした方がいいかもね。はい」
「え、本当?わーい、寒いからポケットに入れるね~」
彼女は嬉しそうに俺の手を取ってポケットの中に二人分の手を入れた。
ガサッ、と音がした。
彼女は静かにポケットから二人分の手を出し、俺のコートに入れた。
「わーあったか~」
「今無かったことにしたよね?」
「ん?」
「いやおい」
ツッコミを入れて、俺達はそのまま並木通りを歩いていった。
お題 「枯葉」
出演 玲人 葉瀬
今日まで、俺には彼氏がいた。
でも振られた。というか振った。
気づいちゃったんだ。
俺が本当に好きだった彼の事。
彼氏と彼はイコールだよ。
本当だよ。
彼氏は付き合ってる間。
彼は付き合う前。
俺は彼氏が好きなんじゃない。
彼が好きだったんだ。
思い出したら笑っちゃうよね。
笑いすぎて枕びちゃびちゃ。
「____忘れよう」
彼氏の事はきっと寝たら忘れる。
今日は昨日になる。
過去になれば、きっと忘れられる。
だから今日と別れなくちゃね。
さよなら、今日。はじめまして、今日。
お題 「今日にさよなら」
出演 雪
「お疲れ~」
「おつー」
「お疲れ様~」
各々の楽屋に皆戻る。ファンの歓声がまだ耳に残っている。
今日は俺の所属しているグループ『hope』のバレンタインライブイベントだった。バレンタインならではの恋愛ソングや失恋ソングを歌ったり、握手会を開いたり等々、俺達は今日凄く忙しかった。
「直樹(なおき)君お疲れ様~」
「海里(かいり)もお疲れ」
俺の楽屋に入ってきたこの人は、海里。グループの中でも一番の人気を誇っている。ライブでの団扇の数も、握手会に来ていたファンの人数も、断トツでトップ。顔だけがいいんじゃなくて性格までいいのだから人気があって当たり前なのだが。
「あ、そうだ。海里、はい」
「............え?」
「え?って。今日バレンタインだろ?だからチョコ」
俺は海里に紙袋を渡す。海里はまじまじとその袋を見ていた。
「............もしかして嫌だったか?」
「え!?いや嬉しい、ありがとう...!!これ...直樹君の手作り?」
「うん、まぁ」
「凄い!家宝にするね!!」
「家宝にしなくていいから食べろよ」
海里は何かこういうところがちょっと変というか何というか。不思議だな、と俺は思う。
「嬉しい......あれ?直樹君、なんで他にもこんなに袋があるの?」
海里は机に置かれていた紙袋達を指差した。
「他のメンバー用だよ。あとスタッフさんとか」
「.........ふーん」
「じゃあ俺、行くから。海里も自分の楽屋でゆっくりしろよ」
俺がそう言って出ようとした時、ガッと腕を掴まれる。
「海里?」
「ねぇ、それも手作りなの?直樹君の手作りを他の皆にもあげるの?」
「そうだけど?」
「......別に手作りじゃなくてもいいじゃん。市販のとかでもさ」
「海里にだけ特別とか出来ないだろ」
「...............」
「ほら、俺もう行くから離せ。海里。ほら」
「............」
海里は一向に手を離そうとしない。こうなった海里は凄く面倒だ。拗ねてる理由が解決しないとずっと駄々こねるやつ。いつも本当にわからない。
今回は本当になんでか分からないから面倒だ。
「...はぁ、もう。じゃあ今度から海里に特別にお菓子作ってあげるから」
「本当?」
「本当。わかったら手離せ」
「絶対だよ?絶対だよ?」
「はいはい絶対絶対」
俺は半ば呆れたように答えた。
「...なら許す」
そう言って海里は俺の手を離してくれた。
「ありがとう。じゃ、またな」
「...また」
そうして俺は楽屋を出て、お菓子を配り歩き始めたのだった。
お題 「バレンタイン」
出演 直樹 海里
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【お知らせ】
初めましての方は初めまして。ご存知の方はお久しぶりです、hot eyesです。
実は更新が止まってしまった日、アカウントのデータが突然消えてしまい初期状態となってしまいました。問い合わせをしましたが、どうにもならず勝手ながらショックで暫く休んでいました。
現在、新しくアカウントを作り直し、投稿を再開しています。
しかし私生活が暫く忙しくなる為、1~2週間程お休みをします。その中で時間が出来次第、更新していく予定です。誠に勝手ながら申し訳ありません。
これからもhot eyesを引き続き、よろしくお願いします。