陽葵

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11/25/2023, 10:34:06 AM

#太陽の下で

「ねえ、まってよ〜」

「もう、しょうがないなぁ」

ある晴れた日、近所の子ども達の声が聞こえてくる。
ねえ、昔の私達みたいじゃない?

しっかり物な私と、鈍臭いあなた。
子どもの頃は私の方が背が高くて、
いつもあなたは年下だと思われていたわね。

あの時から私の事が好きだったあなた。
男らしく見られない事が悲しくて、家で泣いていたって
結婚式でお義母さんから聞いた時は笑っちゃった。
あなたは隣で照れながら怒っていたけれどね。

あなたが隣からいなくなって、もう5年。
最初の1年は悲しくてしかたなかったけれど、
アルバムから出てきた、見た事のない
あなたの変顔写真に元気をもらったわ。
これ、いつ撮ったの?

付き合い始めは変顔写真ばかり撮っていたのが
懐かしいわ。
まさか、いなくなってからおじいちゃんになった
あなたの変顔写真を見る事になるとは
思わなかったけれどね。

ねえ、そっちの天気はどう?
こっちは良い天気よ。
早くあなたの隣にいきたいって思っていたけれど、
もう少し先になりそうよ。
だってこんなに良い天気なんですもの。
久しぶりにお弁当を作っているのよ。
太陽の下で食べるお弁当は美味しいから。

私がそっちに行ったら、一緒にお弁当食べましょうね。
あなたがいる所は太陽の上かしら?

11/24/2023, 12:10:52 PM

#セーター

"今年の冬は記録的な寒さになるでしょう"

朝、寝ぼけた目を擦りながらニュースを
流し見しているとそんな言葉が聞こえた。

嫌だなぁ、寒いのは苦手なのに。

単純に寒さに弱いだけもあるけれど、
今年の冬は1人で過ごさないといけないから。

2年前に同棲を始めた彼は、
今年の夏に仕事でパリへ行ってしまった。

来年の夏には帰って来るけれど、
同棲して初めて1人きりで過ごす冬。
そんな年に記録的な寒さだなんて。

「もう、早く帰ってきてよ…」
思わず漏れた声をかき消すかのように
チャイムがなった。

「え、こんな朝早くに誰…?」

「すみません、速達です」

「あ、ありがとうございます」

誰からだろう…。しかもこんな時間に。

「嘘…」
宛名を確認すると彼からだった。

思わず袋を破ると、中からセーターが出てきた。

"今年の冬は一緒に過ごせなくてごめんね。
 君がいなくて、パリで凍えそうだよ笑
 お揃いのセーターを買ったから送るね。
 来年の冬は一緒に過ごそうね。大好きだよ"

手紙と共に、同じセーターを着た
彼の写真が入っていた。

「もう、私も凍えそうなんだけど…笑 大好きだよ」

さっきまで寒さで震えていた体が
彼の笑顔とセーターで温まった気がした。

11/23/2023, 11:26:44 AM

#落ちていく

"あんな奴、やめなよ…"

そう、何度言われただろう。

自分の機嫌だけで、私の事を振り回す彼。
夜中だろうが、会いたいと着信が来る。
でも、私が会いたいと言った時に
彼の都合が悪いと怒鳴られる。
いつも彼の顔色を伺いながら、私はなんて事ない顔で
彼に笑いかける。

所詮、クズ男と呼ばれる部類に彼は属するだろう。
彼と付き合うまで、私は友達の立場だった。
何で別れないの?今、泣いているじゃない。

そう、友達に言った事さえある。
彼女達は揃って
でも、だって、と彼氏の優しさを話し始めていた。
第三者が何度別れろと言った所で結局は好きな気持ちがなくなる事はなく、別れる事は選ばなかった。

あの時は彼女達の事を理解する事ができなかった。
でも、今なら分かる。

彼の事が好きなのだ。
他人には無愛想な彼だから、
私にだけ心を許してくれているかのような笑顔が
愛おしくなる。
普段は怒鳴ってばかりいる彼だけど、何でもない日に
感謝の言葉と共に渡される一輪の花に胸が高鳴る。

私だけが彼を愛する事ができる。
私だけが彼の全てを知っている。

冷静になれば、
別れた方が正解だと言う事も分かっている。
それでも、彼の優しさに、笑顔に、
今度こそ別れ話をしなければという決意が消えていく。
これを依存というのだろうな。

朝の光に照らされ、
キラキラと輝く彼から貰ったひまわりの花に
彼の笑顔を思い出し、今日も私は彼へと落ちていく。


11/22/2023, 11:05:16 AM

#夫婦

「もうすぐ誕生日だろ?今年はプレゼント何がいい?」

付き合って3年になる彼女。
友達からの付き合いで誕生日をお祝いするのは
今年で5回目。

毎年好きな物をプレゼントしていて
去年はお揃いのピアスだった。

恋人になって3年目。
彼女には秘密だが、
誕生日にはプロポーズもしようと思う。
俺らも結婚適齢期と言われる27歳。
いい夫婦と言われる日を結婚記念日にする予定だ。
同じ日に結婚した俺の両親。
こっちが恥ずかしくなるくらい
いつまでも仲の良い両親は、息子の俺が言うのも何だが理想の夫婦だ。

「えっとね…何でもいい?」

「ああ、何でもいいぞ」

何でそんな事聞くんだろう。
毎年好きな物を送りあっているじゃないか。

「えっと…、その…、あなたの苗字が…欲しいな」

「……っ! 他にはないのか」

「…っ。ごめん…」

「ああ…!違う違う、
 それはすでにプレゼントする予定だからさ。
 他にはないのか?」

「えっ……!」

「ったく、サプライズの予定だったのに…」

「んふふ…、ごめんね」

「いいよ、プロポーズの返事もらったし。
 でも、誕生日プレゼントは別で渡したいから欲しい物   
 考えておいてな」

「うん…!ありがとう」

「あ…、恋人最後の誕生日だからさ。
 やっぱりサプライズにしようかな」

「それ、今言う?」

「おいおい、それはこっちのセリフなんだが…?」

「あはは、本当だね!ごめんね…。
 あなたから貰う物なら何でも嬉しいよ。
 楽しみにしているね」

「もちろん、最高の誕生日にするよ」

サプライズは不発に終わったが、
両親のような
いつまでも仲の良い、いい夫婦になれそうな気がする。
 

11/21/2023, 10:27:01 AM

#どうすればいいの?

認知症の祖母。
毎日怒鳴り声を上げながら祖母の面倒を見る母。
自分の親だけど無関心な父。

大声で祖母への怒りを叫ぶ母。
何もしない父への怒りでもある。

それなのに父へは本音で話さない母。
大声で叫ぶ母の声なんて聞こえているはずなのに
何もしない父。

夫婦なら本音で話せばいいのに。
本音で話せないから大声で叫ぶしかないんだろうな。

「きちんと話さないと伝わらないよ」
私の言葉に静かにしなさいと言う母。

意味分からない。何故?どうして?

他人と暮らすって面倒。
他人と家族になって幸せになれると思わない。
他人と家族になると面倒な事しかないのに、
何故周りは他人と結婚したいと思うのだろう。

恋愛したり、失恋したり。
小説を書く私は、いくつもの恋をしているのに。
どうして現実の私は、恋をして
結婚をする事に幸せを感じられないのだろう。

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