ワタシの体は異様なほどに頑丈だった。
頑丈と言うより、治りが異様に早かった。
どんなに大きな怪我をしても、どんなに重い病気にかかったとしても次の日には何もかもなかったかのようにすべて健康な状態に戻っているのだ。
村の人間はワタシを化け物と呼んだ。場合によっては神様とすら呼んだ。
人々はワタシを恐れた。その怯えかたがあまりに可愛そうだったので、村から外れた山の奥で暮らしていた。
ワタシはひとりぼっちだったが、そのことに不満を覚えたことはなかった。
この体質に気づいたときからワタシはワタシの生を受け入れていた。
いつの世も、ヒトはよくわからないものを恐れる。
理解ができないものを拒む。
村では病が流行っているらしい。
いままで使ってきた薬じゃ太刀打ちできないらしい。
もう死者が大勢出ているのだという。
松明を持った村人たちが隊列を組んでやってくる。
彼らの中でワタシが悪だと決まったらしい。
ワタシがやったのではないといったところで彼らはこれからすることを変えることはない。
彼らは必要悪を求めているに過ぎないのだから。
人々に化け物と呼ばれようと、悪と言われようと、ワタシは決して不幸な人間なんかではなかった。
母と呼ばれる人の腕の温もりを覚えている。
父と呼ばれる人の優しく大きな手を覚えている。
生まれはワタシも祝福されていたんだ。
この世の幸福をあの一瞬に詰め込んでいたのだ。
だからもう、いいじゃないか。
ワタシの生は十分すぎるほどに満ちていた。
だからもう、いいんだ。
「終わりにしよう」
母の残した薬を一息に煽る。
さざ波のような安らぎがワタシを包み、意識は沈んでいった。
眠りにつくのが怖いのだという。
底なし沼に沈んでいくように、夢の世界へ落ちていくのが怖いのだという。
僕はそれが嫌いではなかった。
しかし、その感覚をつかめずにいた。
恐怖を覚えるよりも先に睡眠への欲があった。
僕はうまく眠ることができずにいる。
眠れないことが恐ろしくてたまらない。
だれもいない暗闇にひとりぼっちになるのが恐ろしいのだ。
だから僕たちは同じベッドに潜り込んだ。
取り合った手は離れることなく朝を迎える。
君をひとりぼっちにしないように。
僕がひとりぼっちにならないように。
「君になら呼び捨てにされたっていいのに」
そう言ってくれたのは、私が憧れていた人でした。
彼女は誰がどう見ても好意を抱かずにはいられない人でした。人として惹かれずにいられないほど素敵な人でした。
私と彼女はいわゆる「仲の良いグループ」が同じわけではありませんでした。しかし度々話をすることがありました。
上記の言葉は、私が仲良くしていた子たちに呼び捨てで呼ばれることへの不満やら納得のいかないものがあったらしいのです。
私というのは、どうにも彼女をあだ名とはいえ呼び捨てすることができませんでした。おこがましさというものを感じていたためでした。どうしても「さん」付けをやめることができずにいました。
友人としての距離感でしょうか。おそらく理由はそのあたりなのでしょう。彼女はわざわざ私に言ってくれたのです。
私は嬉しくてたまりませんでした。
「私ならいい」と認めてもらえたようで嬉しかったのです。
私は実に愚かです。目も当てられないほどに醜いのです。
彼女に抱く劣等感に目を塞いで、周りの子達に優越感を抱いたのです。