もんぷ

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9/4/2025, 10:00:28 AM

secret love

 頻繁にデートすることも、外で恋人らしく振る舞うのも、みんなみたいに惚気ることだってできない。みんなの恋愛話の聞き役に回って、あんたも早く良い人見つけなよというお節介を苦笑いして聞き流す。それでも良い。週末は私の家に来て、月曜の朝に少し時間をずらして職場に向かう。ドアを閉めて、ドアを開けるまでのその時間だけは二人の時間だから。それだけで良い。決して犯罪では無いし、この関係性が公になったとしても、傷つくのは私達二人だけだから良い。いや、もしかしたらお母さんとかは傷つけてしまうかもしれない。決して良い時ばかりじゃ無かったけど、天塩にかけて育てた娘が選んだ人がこの人だと知ったら何て言うだろう。怒り…はしないだろうけど、悲しむとか、言葉を失うとか。そういった感じだろうか。だから、言えない。この部屋の中だけでも愛されていると知れたら良い。

9/3/2025, 9:50:10 AM

ページをめくる

 ページをめくる手が止まる。いや、止められる。かまってかまってというように優しい感触が手をくすぐる。そんなかわいいことをされたら本を置く以外の選択肢はない。その柔らかな毛並みを撫でると、喉を鳴らす音が聞こえてきて嬉しそうに手に擦り寄ってくるものだからもうたまらない。一人が好きだと自負していたからこの歳まで独身を貫き通してきたけど、この子とは一生一緒にいたい。ドタバタ大きい音を立てて走り回るこの子を、部屋をめちゃくちゃにしてもかわいい顔を盾に全てを許されるこの子を、不器用ながらもまっすぐに生きるこの子を、全ての行動が単純すぎて愛おしいこの子を、ずっと見守るだけの人生でも良いかもしれない。

9/2/2025, 10:33:54 AM

夏の忘れ物を探しに

「花火したい!祭り行きたい!スイカ食べたい!そうめん…は食べたし別に良い!」
なんて、平日が始まるのが嫌すぎて駄々をこねた。夏にやり残したことをつらつらと言葉に出しただけでも少し心のモヤモヤはマシになった方だと思っていたのだけれど。さて、今日もいつも通りの日常が始まって終わると思って家のドアを開けたら、玄関に落ちていた手持ち花火のセット。何事かと思ってリビングに入ると飾り付けられた部屋に冷やしたフルーツにわたあめ。おまけに奥の部屋から恋人が浴衣の上にはっぴを着て登場するものだからもう笑いが止まらない。この人といる限りどんな季節になろうと楽しいわ。

9/1/2025, 10:35:01 AM

8月31日、午後5時

8月31日、午前9時。
起床。クーラーの効きすぎた部屋で布団にくるまりながらぼーっとする。昨日の残りのお味噌汁を流し込んで外に出る支度をする。

8月31日、午前10時。
近所に新しくできたパン屋へ。思ったより値段設定が高めでひやりとしたが、かろうじて安めだった塩パンとチョコクロワッサンを買う。

8月31日、午前11時。
駅前のビルの中のお気に入りのブランドの服屋へ。散々悩んで何も買わず。そもそもこんな暑いのに秋服を買う気になれない。

8月31日、午前12時。
ショッピングモール内のスタバへ。誕生日でもらっていたスタバカードを初めて使う。注文方法がいまいち分かっていなかったのでアイスコーヒーの一番小さいやつでと頼む。いけた。

8月31日、午後1時。
暑さに耐えきれず喉が渇いて自販機で何か買おうと思ってカバンを探したら財布を無くしたことに気づく。気温に加えて冷や汗も相まって気持ちが悪い。

8月31日、午後2時。
スタバへ戻る。財布の忘れ物は届いていないと聞いて肩を落とす。ショッピングモールのインフォメーションでも収穫は無し。

8月31日、午後3時。
駅前の服屋でも財布は出していなかったはずだが一応確認。やはり届いていない。駅に向かう途中で「今日は涼しいね!」と楽しそうに話すカップルを見て「どこが?!」と心の中で毒づく。

8月31日、午後4時。
パン屋に行ってみたらなんと届いていた。ありがたい!しっかり中身も無事でちゃんと保管してくれていたことに感謝してラスクを買わせてもらう。

8月31日、午後5時。
仕事終わりのあの人を迎えに行く。ラスクがあることを伝えると飛び跳ねて喜んでいたからやっぱり買ってよかったなと思う。嬉しくなって「今日は涼しいね!」と言うと「どこが?!」と自分と同じテンションで言われて思わず笑う。

8/30/2025, 12:14:04 PM

ふたり

「ごめん。今日やっぱり仕事遅くなるから会えないかも。」
何度見ても変わっていない文字列にため息をつきながら電車に揺られる。せっかくの休日で、会えると思っていた大好きな友達からのLINE。いつもなら一人に断られても他を探してどこかに合流するのは簡単なのに。これがこの人でなければ。

 ひとりでいるよりふたりでいた方がいいに決まっている。その真理に気づいたのは、自分のために用意された部屋で、買い与えられたゲーム機を横目に大きなベッドに寝転がっていた小学校低学年の春のことだった。兄も姉も欲しい。弟も妹も欲しい。くれるなら、自分は弟にだって兄にだってなる。誰でも良いから自分の他にもう一人いてほしい…なんて、仕事で忙しそうな両親の前ではそんなことをたったの一度も言えなかったけど。

 人の懐に入るのは簡単だった。誰もの"接しやすいあの子"でいれば良いだけだから。最新のゲーム機があると言えば人気者になれる小学校の頃よりは、環境が変わるごとに難易度は少しずつ高くなっていったものの、一定の期間さえあれば誰とも良好な関係を築けるのは自分の数少ない特技だ。最初は明るく、物腰柔らかに、人当たりの良いまるで聖人のような自分。非の打ち所がない明るい人を見て拗ねてしまうような、その"良い子ちゃん"だけでは納得してくれないような人たちには、その人たちが望んでいるようなちょっとだけ悪い自分も見せる。この二つを使い分けていけば、誰にも疎まれず、蔑まれず、拒絶されずに済む。なるべくみんなと、楽しい方へ。悪巧みをするのだって、先生にバレないように画策するのは、まるで兄弟と両親に内緒でする遊びのようで心が湧きあがる。ただ怒られたくはないし親に心配はかけたくないので、本気でダメなことは避けるし、矢面には立たずにバレないようにうまくやる。先生とだって一定の関係をつくる。本当にうまくやれていたし、今だってどこにいってもうまくやれていると思う。

 ICカードをかざしたのに電子的な音と物理的な壁に止められて思わず舌打ちをする。まぁ、めんどくさいことを後回しにしがちな自分が悪かったんだけども。これが朝の急いでる時でも、後ろに誰かを待たせているような時でもなくて良かったと思う。料金をチャージする機械にカードを入れながら思う。今の改札に止められた自分は、ただ一人の人気者でもなく、二人だけの秘密を共有する悪友でもなく、本当に何者でもない素の自分だったかもしれない。それが本当なら、こんな自分と一緒にいてくれる人なんていないんじゃないか、なんて後ろ向きな気持ちが顔を出す。

 いつもの良い子なら、「そっかー、残念。また都合の良い日教えてー。」。いつもの悪い子なら、「まじか。次埋め合わせしろよー。」。でも今回はどっちも違う気がして、何度も打ち直しては送れずにいた。そうこうしている間に当初の待ち合わせ場所だった駅前につき、行き場もないのでカフェに入った。コーヒーを片手に窓を見る。一人じゃなければなんでも良かった。誰でも良いから一緒に笑い合ってれば寂しくないと思っていたはずだった。年齢を重ねるごとに、兄弟のようなどこか温かみのあるような関係性の友達ばかりではなくなってきた。姉妹のようだと思っていたあの子には、親愛だけでは終わらない思いを告げられ、普通に友達だと思っていたあいつは、自分と仲良くなることの利益を考えていたらしい。恋愛だとか利益だとかそんなよく分からないつまらないことよりも何も考えずに笑っていようよ。なんて綺麗事だろうか。それでも、自分はこの綺麗事に頷いてくれる人をひとりだけ知っているのだ。

「暇だし待ってていい?遅くなっても良いから会いたい」
自分の素のわがままな部分。余裕が無くて、見栄もなくて、ただ純粋な願望。会いたい。笑いたい。どうしてもこの人とが良い。これは恋愛でも利益でもない。自分の追い求めて来た兄弟にも家族にもなりようがない関係性なのかもしれない。それでも良い。ただただこの人といたくて、いるのが良くて、いなきゃダメ。
「まじで?嬉しい!ありがとう。なるべく早く帰れるよう頑張るわ。」
そんなメッセージを見て安堵した。不器用ながらもパソコンを忙しなく叩く彼の様子を想像しては頬が緩む。ひとりでいるよりふたりでいた方がいいに決まっている。他の誰でもなく、自分とあの人のふたりで。そんな新たな真理に気づいたら、なんだか体は軽くなって、疲れた顔をしながら会社を出てくるあいつにどんな差し入れをしてやろうかと思考を巡らせた。

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