もんぷ

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6/1/2025, 11:42:17 AM

勝ち負けなんて

 自分の性格は仲の良い人からよく勝ち気と形容される。完璧主義で負けず嫌い。この性格は勝ちを追求するボクシングという世界に向いていたらしく、今ではすっかりこの道の有名人だ。そんな自分が、初めて勝ちになることをためらっている。ああ、勝ち負けなんてどうでも良いから、早く終わってくれないか。自分がこの世界に入ることを目指したきっかけの人。自分に夢をくれた人。たくさんの景色を見せてくれた人。その人との試合、自分とその人は負けた方が引退の約束をしていた。そんな約束を持ちかけられた時、ああこの憧れの人は自分の首をとりにきているのだと感じた。最近はひたすらに勝っている自分だが、どうしても憧れのこの人を前にすると弱るのだ。ただの一度も勝てたことはなかった。それでも勝ちたくて、いつかは辞めるんだから辞めても良いけど、それでもこの人に勝つまでは辞められないと思っていた。がむしゃらに練習して練習して練習して、やっとここまで来た。目の前にはあともう少しで勝てそうなぼろぼろなその人。涙で滲む視界の中、最後の力を振り絞って拳を当てた。

5/31/2025, 8:30:17 AM

まだ続く物語

「ねぇ、まだ歩くの?!おれもう疲れたんだけど?!」
そう言って地面にへたり込んだ弟。
「だって目的達成してないし」
疲れてるのは同じだがまだ歩くしかないのを分かっている兄。
「そうそう。行こ!あとちょっとかもだし。」
無邪気に歩くのは末っ子。
「えーちょっとは休もうよ!」
まだ動く気がない弟。
「うん。自分も休みたい。」
一番の年長者のお父さん。
「じゃあ20分ここでゆっくりしてこ!」
統率を取るお母さん。

家族の冒険はまだまだ続く。

5/31/2025, 6:11:10 AM

どこへ行こう

 どこへ行こうか決めなければドアを開くことはできない。逆に決めてしまえばどこへでも行けるということだ。まあ、名称に「どこでも」なんて入ってるんだからそりゃそうだ。海外ならパスポートとかどうなるんだろう。パスポート持ってドア開けるシーンなんてあったっけ。というかこんなのあればどこの家にも侵入できちゃうけど良いのかな。犯罪の温床じゃん。このドア持ってるってだけで警察にマークとかされない?大丈夫なの?結局チキンな自分は使うこともできず、ただ大きい置物と化した紫色のドアを見つめていた。

5/29/2025, 11:27:43 AM

渡り鳥

 昨日旅立った渡り鳥が帰ってくる頃には、もうあの花が咲いているといいな。

5/28/2025, 12:19:43 PM

さらさら

 七夕が近い6月末から7月初週にだけ講堂の横に現れる大きな笹。大学祭が終わり夏休み前のテスト期間があるまで何もイベントがないのはいかがなものか、とパンフレットの欄を埋めるだけに作られた雑な七夕祭のメイン。最初こそ人を集めるものの一度願いを書いてつるしてしまえばもうおしまいというのだからイベントと言って良いのかどうかも不思議だ。にしても、学祭実行委員の端くれがその七夕祭の手伝いとして膨大な量の短冊を取って白い紙に包んで処分する仕事を担わされるのは本当に面倒だ。面接で言うために学祭実行委員に入ったはいいものの、兼部している軽音楽部、さらにはバイトが忙しくて中々顔を出せないから、一日だけで済むこの七夕祭の担当を志願したのは自分だけれど。はぁ、めんどくさい。色とりどりの細長い画用紙の裏には黒ペンで書かれた願いたち。大抵は単位ほしいだとか就活決まりますようにとか彼女欲しいとかそういう大学生らしい願いで埋まっている。そもそも自分はこういう系は信じていない。神様に願っても叶わないことばかりだったのに、織姫と彦星なんてただのカップルだろ。なんてこんなことを考えてしまう捻くれた考えの持ち主だから叶えてくれる神もいないのかもしれない。紙をまとめあげて指定された場所に持っていく。余裕で日は暮れていた。大きなあくびをしながら携帯に目をやる。ふと思い立ってあの人のトークページを開いてメッセージを送る。
「七夕は何か願いましたか」
送って早々に既読がついてメッセージが返ってくる。
「世界平和です」
端的なその文字を見てふわりと笑みが溢れる。自分は色々信じないタイプだしどうでもいいけど、バカみたいに真っ直ぐに世界平和を願うこの人の願いは叶ってほしいと思った。

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