もんぷ

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5/24/2025, 11:49:23 AM

そっと包み込んで

 そっと包み込んでシワにならないようにリボンをかける。うん、綺麗な花束の出来上がり。持ちやすいように紙袋に入れてお客様に仕上がりを確認してもらって手渡す。嬉しそうに微笑んでお礼を言いながら帰っていくお客さんを見守る。あの方は毎年奥さんの誕生日に花束を買っていくお客さんで、いつも嬉しそうにしてくれるからこっちまで嬉しい。結婚になんか興味ないけど、ああいうのはいいなと思う。一応人の子だし。さて、今日はもう予約もないしお客様が来ない限りは暇だ。春は卒業式とか、五月あたりは母の日、あとはクリスマスとかに人は増えるもののあとはまちまち。来店してくる人の数が片手で数え終わる日もあるのに、どうしてこの店はつぶれないのだろうか。叔父が店長だからすごく気が楽だしできるなら就職するまであるとありがたい。や、むしろ働きたくないしここに就職させてもらうっていうのもありかな。なんて考えながら包装紙を片付けていた頃だった。
「こんにちは。」
「こんにちは、川崎さん。今日はどうされたんですか。」
最近よく来るお客さん。髪が明るいからたぶん大学生。この人の空気感というか話している感じの雰囲気がなんか良くて仲良くなりたいと思ってるが未だ何か行動を起こすのが怖くてただの店員として接している。
「花束を作ってほしいんですけど…」
「はい、花束ですね。どういった用途ですか。」
「えっと、プレゼント用で…」
「プレゼントですね。どのような花束が良いですか。この花を使いたいとか、何かご要望などあればおっしゃってください。」
「あ、えーと…特にないです。」
「では、雰囲気を考えたいのでその人の写真とか、情報とかお聞かせ願いますか。」
「わかりました。あ、この人です。」
焦りながら携帯を取り出して探してくれた写真には、同い年ぐらいの異性が川崎さんの横で楽しそうにピースをしていた。いつも花束を作る時は「サークルの先輩に」とか、「母に」とか関係性を先に伝える川崎さんが、恥ずかしそうに写真を見せてきて、ああ恋人かと納得した。お作りいたしますのでお待ちくださいと笑顔を作って土台となる花を選ぶ。花束の準備は先ほどの人のが出てて残ってるし、雰囲気も見れたから花もある程度目星はつけた。人の外見に対してそういう感想は持つことは少ない方だが、川崎さんと同じように目がぱっちりしている綺麗な人だった。やっぱり美男美女の周りにはそういう人が集まるのだろう。こんなどのクラスにも三人はいるような印象が薄いぼやっとした顔とは大違い。花を触っているのにため息が出て、これはまずいと深呼吸をして台の上の花に向き直る…仲良くなりたいの先に恋人になりたいはあったのだろうか。自分にそんな薄ら寒い下心があったとしたら普通に気持ち悪い。何を考えていたんだろうか。もやもやする思考とは反対に綺麗に出来上がった花束を渡しにいく。
「こんな感じでいかがでしょうか。」
「わぁ、すごく良いです。いつもありがとうございます。」
「いえ、こちらこそいつもありがとうございます。」
嬉しそうに花束を抱きかかえるその人を見て幸せそうだと思う。あの奥さんに花束を毎年作ってるあの人と同じだ。もう大層なことは言わない。仲良くなんてならなくていいから、願わくば、川崎さんと写真の人が上手くいって毎年花束を作りにきてほしい。そう思った。

5/22/2025, 10:21:13 AM

昨日と違う私

 昨日と違う私でいたい。服は昨日来たガーリーなワンピースじゃなくて黒のパーカーをだぼっと着るだけでいい。昨日つけていた繊細なパールが揺れるピアスじゃなくてゴツゴツしたシルバーのピアス。色んな服を着て、色んな髪型にして、色んなアクセサリーをつけて、昨日と違う私を見つけたい。その中で少しでもあの人に「良いね」と言われる自分になりたい。

5/21/2025, 3:33:12 AM

空に溶ける

 空に溶けていく眩い粉たち。繊細なラメをのせた瞼はその大きい目をより輝かせる。肌よりもワントーン明るい白がのせられたその鼻や頬はしっかりと光が入る。慣れた手つきで完成されていくその綺麗な顔に思わず見惚れていたら、こちらの視線と空の怪訝そうな視線がぶつかる。
「そんな見られてたらやりにくいんだけど…」
「ごめん。綺麗だったから……」
「はぁ……どーも。」
また鏡に向き直る空は赤くなった頬に、かわいいピンク色をのせた。

5/19/2025, 11:05:14 PM

どうしても…

 どうしても、あの読み込んだカタログから輝いて見える、ビビッドなピンクのランドセルを背負いたかった。物心ついた頃からピンクやふりふりしたかわいらしいものが好きだった私にとって、そのランドセルは唯一手が届く宝物だった。父子家庭で裕福ではなく、服も持ち物も基本は誰かのおさがり。特に団地の同じ棟の上の階に住む三つ上と五つ上の男子からお下がりの洋服をもらっていたので、幼少期はだいぶボーイッシュな服装をしていた。「うちの家は他の家とは違う」と子どもながらに理解していて、ほとんど会話のない父に反抗する意味もないと妙に達観した子だった。しかし、小学校入学を半年後に控えたある日、父がどこから仕入れてきたか分からない誰かのお下がりの真っ赤なランドセルを私に手渡した。あの日から赤は一番嫌いな色になった。まだ黒でないだけマシだ、と何度も自分に言い聞かせたが、ピンクのそれに丸つけていたカタログは名残惜しくて捨てられなかった。テレビでずっと見ていたアイドルのようにかわいいスカートを履いて鬱陶しいほどのピンクとふりふりを身に纏いたいと思いながら小学校を卒業。卒業式でも袴もふりふりした制服らしい服は着れず、近所の子からもらった着古した赤のTシャツと半ズボンの軽装で卒業証書を受け取った。

5/18/2025, 11:21:02 AM

まって

 まってあまってるいとがからまってしまってるからまってからまってるのとまってくれないのあいまってもっとからまってしまってるからまってまってからからまってるのとくからまっててねそうせまってもこういうときあなたはきまってまってくれないねかまってほしいのもたいがいにしなよわたしがこまってしまうから

待って。余ってる糸が絡まってしまってるから待って。絡まってるのと待ってくれないのあいまってもっと絡まってしまってるから待って。待ってから絡まってるの解くから待っててね。そう迫ってもこういう時あなたは決まって待ってくれないね。構ってほしいのも大概にしなよ。私が困ってしまうから。

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