もんぷ

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どうしても…

 どうしても、あの読み込んだカタログから輝いて見える、ビビッドなピンクのランドセルを背負いたかった。物心ついた頃からピンクやふりふりしたかわいらしいものが好きだった私にとって、そのランドセルは唯一手が届く宝物だった。父子家庭で裕福ではなく、服も持ち物も基本は誰かのおさがり。特に団地の同じ棟の上の階に住む三つ上と五つ上の男子からお下がりの洋服をもらっていたので、幼少期はだいぶボーイッシュな服装をしていた。「うちの家は他の家とは違う」と子どもながらに理解していて、ほとんど会話のない父に反抗する意味もないと妙に達観した子だった。しかし、小学校入学を半年後に控えたある日、父がどこから仕入れてきたか分からない誰かのお下がりの真っ赤なランドセルを私に手渡した。あの日から赤は一番嫌いな色になった。まだ黒でないだけマシだ、と何度も自分に言い聞かせたが、ピンクのそれに丸つけていたカタログは名残惜しくて捨てられなかった。テレビでずっと見ていたアイドルのようにかわいいスカートを履いて鬱陶しいほどのピンクとふりふりを身に纏いたいと思いながら小学校を卒業。卒業式でも袴もふりふりした制服らしい服は着れず、近所の子からもらった着古した赤のTシャツと半ズボンの軽装で卒業証書を受け取った。

5/19/2025, 11:05:14 PM