そっと包み込んで
そっと包み込んでシワにならないようにリボンをかける。うん、綺麗な花束の出来上がり。持ちやすいように紙袋に入れてお客様に仕上がりを確認してもらって手渡す。嬉しそうに微笑んでお礼を言いながら帰っていくお客さんを見守る。あの方は毎年奥さんの誕生日に花束を買っていくお客さんで、いつも嬉しそうにしてくれるからこっちまで嬉しい。結婚になんか興味ないけど、ああいうのはいいなと思う。一応人の子だし。さて、今日はもう予約もないしお客様が来ない限りは暇だ。春は卒業式とか、五月あたりは母の日、あとはクリスマスとかに人は増えるもののあとはまちまち。来店してくる人の数が片手で数え終わる日もあるのに、どうしてこの店はつぶれないのだろうか。叔父が店長だからすごく気が楽だしできるなら就職するまであるとありがたい。や、むしろ働きたくないしここに就職させてもらうっていうのもありかな。なんて考えながら包装紙を片付けていた頃だった。
「こんにちは。」
「こんにちは、川崎さん。今日はどうされたんですか。」
最近よく来るお客さん。髪が明るいからたぶん大学生。この人の空気感というか話している感じの雰囲気がなんか良くて仲良くなりたいと思ってるが未だ何か行動を起こすのが怖くてただの店員として接している。
「花束を作ってほしいんですけど…」
「はい、花束ですね。どういった用途ですか。」
「えっと、プレゼント用で…」
「プレゼントですね。どのような花束が良いですか。この花を使いたいとか、何かご要望などあればおっしゃってください。」
「あ、えーと…特にないです。」
「では、雰囲気を考えたいのでその人の写真とか、情報とかお聞かせ願いますか。」
「わかりました。あ、この人です。」
焦りながら携帯を取り出して探してくれた写真には、同い年ぐらいの異性が川崎さんの横で楽しそうにピースをしていた。いつも花束を作る時は「サークルの先輩に」とか、「母に」とか関係性を先に伝える川崎さんが、恥ずかしそうに写真を見せてきて、ああ恋人かと納得した。お作りいたしますのでお待ちくださいと笑顔を作って土台となる花を選ぶ。花束の準備は先ほどの人のが出てて残ってるし、雰囲気も見れたから花もある程度目星はつけた。人の外見に対してそういう感想は持つことは少ない方だが、川崎さんと同じように目がぱっちりしている綺麗な人だった。やっぱり美男美女の周りにはそういう人が集まるのだろう。こんなどのクラスにも三人はいるような印象が薄いぼやっとした顔とは大違い。花を触っているのにため息が出て、これはまずいと深呼吸をして台の上の花に向き直る…仲良くなりたいの先に恋人になりたいはあったのだろうか。自分にそんな薄ら寒い下心があったとしたら普通に気持ち悪い。何を考えていたんだろうか。もやもやする思考とは反対に綺麗に出来上がった花束を渡しにいく。
「こんな感じでいかがでしょうか。」
「わぁ、すごく良いです。いつもありがとうございます。」
「いえ、こちらこそいつもありがとうございます。」
嬉しそうに花束を抱きかかえるその人を見て幸せそうだと思う。あの奥さんに花束を毎年作ってるあの人と同じだ。もう大層なことは言わない。仲良くなんてならなくていいから、願わくば、川崎さんと写真の人が上手くいって毎年花束を作りにきてほしい。そう思った。
5/24/2025, 11:49:23 AM