木漏れ日
あの大きい木の下の木漏れ日が好きだった。今は切られてしまって切り株だけになったその木を見て時間の流れを理解する。あの木の下で寝転んだり、時々木登りしたりするの、好きだったなと思い出しながらその切り株に腰掛けた。明日は晴れるといいな。
ラブソング
純粋なラブソングは聴くのが恥ずかしくて、片想いだとか失恋ソングを聴いている方が性に合っている。そう思っていたが、本当に失恋してしまった時は辛すぎてそれらは聴けないと最近知った。それならば、私は何を聴けば良いのだろう。音楽がない世界に色はなくて、路頭に迷っていた私の元に響いてきた一つのサウンド。優しい風鈴のような音色に心が洗われて、歌詞のひとつひとつが寄り添うように送られてくる。失恋した直後と同じぐらいに涙が止まらないのに、それでも心は軽くて、音楽に救われていることを実感した。
手紙を開くと
手紙を開くと、古びた手紙に君の丸い文字。あまりにも小さくて丸くかわいさを追求されたその文字たちはいつも君の声で再生される。本文はいつも通りの君の言葉なのに、PSには手紙でしか聞けない一番欲しかった言葉が書いてあって、ああ幸せだなあと思う。どうしても目の前が見えないほど辛くて悲しくて何もできないような時でも、手紙を開くと君の言葉が目に入る。大好きな言葉が大好きな声で再生される。本当に大好きだ。いつまでそんな昔の手紙見返してんのと怒られるけど一番の宝物だから、これからもまだ大切にしていきたい。
青い青い
町内のアイドルだったあおいちゃんは商店街を歩くたびに大変な量のおすそわけをもらって帰ってきた。クラスの中心にいるあおいくんに告白したのは何人か数えきれない。そんな青い時代を駆け抜けてきたあおい。これからは「先輩のあおいさんはいつも周りをよく見ていて何かと助けてくれる」とか「あおいおじちゃんはいつも会うたびお菓子をくれる。」とか「あおいおじいちゃんは孫に甘いよね」とか言われるようになったらいいな。
sweet memories
今日は部活のメンバーでスイーツのパラダイスに来ている。私はまだ穏やかな方の2人と同じ席だったから平和にケーキを楽しんでいたものの、隣とその隣は引くくらいのテンションの高さ。一応他のお客さんに迷惑にならないように声のボリュームは抑えているが何せ存在がうるさいのだ。9人も集まっていればそりゃうるさくないほうがおかしいけど、同世代のおなじような子たちよりはるかにうるさい。それもこれも女子校という異性の目を気にしなくていい環境のせい。側から見たら色々終わっているなとか個性強すぎてついていけないとかポジティブな感想は抱かないけど、それでも私はこのメンバーが好きだ。人と仲良くなったり自分から話しかけたりするのが苦手で小学校中学校と慎ましい生活を送っていた私。泣いていても怒っていても何かを言いたそうにしていても誰も気づかない、自分なんていてもいなくてもいい空気のような存在だと思っていた。それなのに、高校に入ると部活が同じというだけでこんなにも個性と圧の強いギャル集団に放り込まれてしまった。最初は本当に場違いな気がして戸惑っていたのに、当たり前に私をメンバーの1人に数えて、輪の中心に引き入れてくれて、気づけば彼女たちと同じことで同じように笑う自分がいた。私の高校生活は思っていたよりも素敵なものだった、と総括できるくらいには楽しすぎる三年間だった。うん、本当にそう。でも、それに気づくのがちょっと遅すぎたな。
「…次、みんなで会えるのいつだっけ。」
「下宿組が帰ってくるのがお盆だからそんぐらいとか?」
「うん。じゃあ、ここでしばらくお別れかー。」
「ちょっと?!この子泣いてんだけど。早いってー。」
「もうあんたはすぐ泣くんだから。」
「お別れっていっても会えなくなるわけじゃないんだからさー。」
「まぁ、でも今まで毎日顔合わせてたもんね。」
「泣くなー!ちょ、誰かこの泣き止まない子ども笑わせたげて。」
「あやさなきゃ。ほら、保育士志望いけ!」
春休み、みんなで集まれる最終日。涙でふにゃふにゃの視界の中、みんな笑いながらもちょっとその目が潤んでいるのがわかる。本当にずっとこのままでいたいな。