寂しいな
と言う 言葉が
殺風景な部屋の
寒い空間に吸い込まれていく
いつのまにか扉があらわれて
おそるおそるドアノブをひねると
その向こうには金色の野原が広がっていた
一歩足を踏み入れる
もう元の世界には帰れないような気がした
すくむ
いいのかな でも 寂しいのなら
あちらはもしかしたら 暖かく
寂しくないのなら
えいや、と地面を蹴った
ああ さよなら 寂しく懐かしい世界よ
にぎやかな冒険がはじまるよ
わたしは
優しい人に会うと
宝石に会ったような気持ちになる
キラキラしていて
癒される
安易に否定してこない思慮深さ
どうしようもないことに悩むとき
その優しい人は
あなたにも事情があったよね、と
けして善悪の単純な判断を下さない
悩んでいることにたいして
くるしいよね、とそっと毛布を差し入れてくれるような
そんなやわらかさがある
優しい人は 宝もの
優しい人は 微笑んでくれるだけで
抜群のパワーがある
無理せずに頑張ってね、
優しく送り出してくれる言葉を抱きしめて
今日もなんとか仕事ができる
わたしは優しい人が好き
むかしのあだ名
それで呼ばれたら、小学生の頃の
無敵の女の子がニヤリと笑う
誰に媚びる必要もなく
生意気に好き勝手言って
責任なんて概念もなく
野の鳥のように自由だった
ひとを騙すようなことはしない
ただ毎日楽しい遊びを開発してた
大人たちも面白がってくれるから
なんにも怖くなかった
あの名前でしか得られない栄養素がある
「ねえ、◎◎ー!」
信頼されてる感じ 信用しているわたし
大人の世界の必需品は何も持ってなかったのに
しあわせそのものだった
遊ぼう、遊ぼう
わたしたちは宇宙の赤ちゃん
青春の余生を過ごしているだけのわたしが乗るべき列車が来ない
あの浜辺で
ひとりの女の子がぽつんと座り
海を眺めています
何をするでもなく
波が寄せては返すのを
ながめています
何も起こらない景色
でも小さく何かが起こり続けている
波が砂の上で遊ぶのを
雲がゆったり形を変え東へ流れていくのを
ながめています
声をかける必要はなく
ほうっておけばいいのです
気が済むまで海をながめる自由を
彼女に与えてあげてほしい
一生は一度きりならその自由を
どんなショーウィンドウにも飾れない自由を
蟹がさわさわと歩いて
貝の中から何かがのぞく
濡れた砂場で小さな気配たち
波の音 風の音 耳の中の音 身体の中の音
さっき過ぎた波
もう二度と会えない波
さっきした呼吸
もうあとかたもない昨日
次の波が また