『心の深呼吸』
猫の毛づくろいをするのを眺め、送信ボタンを押す手を止めた。
私は画面を閉じ、ベッドに仰向けになって倒れた。
自然とあふれてくる涙に、1階から聞こえてくるテレビの声
どの世界にも私はいなくって
誰にも必要とされなくって
生きている価値なんかない
ずっとこう思いこんでいた。
切り離していたのは、自分だった。
彼、彼女たちは私に手を差し伸べてくれた。
だが、自ら壁を作り、踏み込まなかったのだ。
踏み込めなかったのだ。
“ブーブブ”
通知音がなり、慌ててスマホを見る
“ありがとう”のかわいらしいスタンプが送られてきており、私は再び涙が止まらなかった。
そっと通知をoffにし、静かに目を瞑った。
『時を繋ぐ糸』
昨日は祖母の命日だった。
私のおばあちゃんは祖父の遺影の前でよく編み物をしていた。
子供の頃はおばあちゃんと祖父がちゃぶ台を囲みみかんの皮を1枚1枚ゆっくりと剥き、他愛のない会話をしていた。
いつも無口で何を考えているのか分からない祖父だったが、祖母の前では優しく笑い、今思えばすごく恥ずかしがり屋さんだったのだろう。
ほほほ、とほんのりと頬を赤らめて祖父の話をするおばあちゃんはいつも嬉しそうだった。
ずっと昔から何かを編んでおり、何を編んでるの?と聞いてもおばあちゃんは貴方が20歳になったら教えてあげます。としか言ってくれなかった。
もどかしくて、早く大人になりたい!と、母の化粧道具を勝手に使ったり、父が好きなお酒を飲んでみたりと、ものすごく怒られたが、母も優しく頭を撫でてくれ、父も、最後は笑っていた。
そんな小学時代を過ごし、中学、高校、とあっという間に時間は過ぎ去った。
恋をしたり、喧嘩をしたり、泣いたり怒ったり、でも、最後は笑っていた。
祖母は相変わらずずっと何かを編んでいた。
でも、最近は寝てる事の方が多くなった。
母は、「お母さん」と悲しそうにおばあちゃんの手を握った。
祖母は最期に、お誕生日おめでとう、当日に言えなくてごめんなさいね。と言ったらしい。
目を赤く腫らした母が言っていた。
そして、母の手には祖母がずっと編んでいた純白のヴェールが握られていた。
『どこへ行こう』
魔王を倒したあとはどこへ行ったらいいのだろう。
エンディングが流れたあと、次はどこを目指せばいいのだろう。
5線に乗せられた音を辿り終止符を打ったその先にはどんな音があるのだろう。
何も知らない赤子はただ泣くことしかできない。
どこへ行こう。
そう思った瞬間、私はもう既に歩き始めているのだ。
『落ち葉の道』
落ち葉は誰にも拾われず、踏まれ、風に流される。
落ち葉を拾ってくれる人なんてそうそういない。
でも、たまに、風に逆らい、もしかしたら気まぐれかもしれない。しゃがむ人だっている。
でも、落ち葉は、風が吹けば、舞い上がる。
それを待つのもいいかもしれないが、私たちは、何も考えずに落ち葉でありふれたこの世界を歩く。
『夢の断片』
誰にも踏まれていない雪の上
足跡はなく
ただ、空にいくつかの星が 散らばっている
冷たい風は私の輪郭をなぞる
音も、風もない
それでも私はここにいる。
そして、どこにもいない