創作 「カラフル」
炎色反応という現象がある。炎の中に特定の金属を加えることで炎の色が変わる現象だ。例えば花火の色が変化するのは炎色反応を活用しているからなのだそう。
俺はあれから嫉妬の炎で身を焦がしていた。彼女が別のクラスの男から何かをもらっていたのを見てしまったのだ。しかも、彼女のあのにやけ顔。いつも俺の前では澄ましているくせに。俺は灰色な感情をくすぶらせていた。
部室の戸を開けると、先に来ていた彼女が普段通り、つんと澄ました顔で後輩の作品を添削していた。俺は彼女の向かいに座り自分の作品に取りかかった。
「あ、昨日ね良いものもらったんだ」
彼女がリュックから一枚の紙を取り出した。大きな見出しが目立つ商店街のイベントのチラシである。下のほうにじゃんけん大会の参加券がついていた。
「どーしても欲しいものがあって。そしたら、ちょうど先輩からこれを譲ってもらったんだ。来週の休み一緒に行こうよ」
ふっと灰色な嫉妬の炎が鎮まる。そして、なんだかいろんな感情が入り乱れ、俺は乾いた笑いをもらした。
「……来週の休みね。行こうか」
「え、本当?やったぁ!」
俺の感情は彼女の表情で、言葉で色が変わる。まるで炎色反応のように。 そして、 彼女の気持ちが俺と同じ色に燃えていることを少しだけ期待してしまうのだ。
(終)
創作 「楽園」
緻密な装飾がされた両手サイズの箱をそっと持ち上げる。蓋を開ければやさしい音楽が溢れる。
このオルゴールの名前は「楽園」と言う。植物のレリーフで彩られた小箱から奏でられる音楽で心身を癒されるようにと願いが込められた品である。
俺は机にオルゴールを置き、ベッドに潜った。熱っぽく痛む頭にも、オルゴールの音色は心地よく染み入る。お大事に。十分にお眠り。そう言ってくれているようだ。だんだんと眠気が訪れ俺は目を閉じた。
(終)
創作 「風に乗って」
ストローの放射状に開いた先からふくふくとシャボン玉が膨らむ。割れないようにストローから切り離すと音もなく空中を漂い、ふっと消えた。
今度は細かい泡をたくさん作る。虹色の軽やかな宝石たちはくるくると風に舞い、ゆっくりと地面に降りて姿を消した。
やがて、夕焼けが辺りを染める。遊んでいた子どもは家路をたどって駆けて行く。いくつものシャボン玉がまだ、ふよふよ、ふわふわ風に乗って遊び、遠くの空へと帰って行った。
(終)
創作 「刹那」
俺と彼女。 睨み合う二人の視線の間に火花が散る。机の上にはヘルメットとピコピコハンマーが並べて置いてある。その隣の机には三種類の賞品が鎮座していた。
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
勝ったのは彼女。俺は瞬時にヘルメットに手を伸ばした。だが、被るよりも速くピコピコハンマーが俺の頭に当たる。
「あ」
「やったぁ、あたしの勝ちー」
彼女は弾む声で、戦利品である青いうさぎのぬいぐるみを抱き上げた。彼女があまりにうれしそうにはしゃぐから負けた俺まで笑顔になる。
「向こうにかわいい雑貨屋があるの。行こう!」
そう元気よく言い彼女は腕を引っ張ってぐんぐん歩いて行く。とある商店街のイベントでの話であった。
(終)
「生きる意味」
生きる意味とは、生きる価値とは。
そんなこと考えてたら生きる意味を見つける前に心を病んでしまうよ。
自分が追い求めるのは「生きる意味」というよりかは、「生活の質」かな。
呼吸して、ごはん食べて、歯磨きして、お風呂入って、睡眠して、排泄して……。
ざっくり言うと産まれてから死ぬまで身体は否応なしにそうやって動いてる。
そこに仕事、勉強、恋愛、趣味みたいな人間の社会生活が乗っかってくる。
で、病気、事故、災害をいかに乗り越えるか。
映画に例えるなら死亡フラグをどうへし折るか。
ようは、生きる意味はよく分からないってこと。
だから「生活の質」。今ある生活を改善したり、磨いたりする方がはるかに有意義な人生になりそう。
まぁ、自分のペースで生きていけるならそれに越したことはないね。
何はともあれ、この世に産まれてしまったからには死ぬまで生きるんだよって誰かが言ってたし、生きる意味とはそういうものなんだろうな。
(終)