谷折ジュゴン

Open App

創作 「カラフル」

炎色反応という現象がある。炎の中に特定の金属を加えることで炎の色が変わる現象だ。例えば花火の色が変化するのは炎色反応を活用しているからなのだそう。

俺はあれから嫉妬の炎で身を焦がしていた。彼女が別のクラスの男から何かをもらっていたのを見てしまったのだ。しかも、彼女のあのにやけ顔。いつも俺の前では澄ましているくせに。俺は灰色な感情をくすぶらせていた。

部室の戸を開けると、先に来ていた彼女が普段通り、つんと澄ました顔で後輩の作品を添削していた。俺は彼女の向かいに座り自分の作品に取りかかった。

「あ、昨日ね良いものもらったんだ」

彼女がリュックから一枚の紙を取り出した。大きな見出しが目立つ商店街のイベントのチラシである。下のほうにじゃんけん大会の参加券がついていた。

「どーしても欲しいものがあって。そしたら、ちょうど先輩からこれを譲ってもらったんだ。来週の休み一緒に行こうよ」

ふっと灰色な嫉妬の炎が鎮まる。そして、なんだかいろんな感情が入り乱れ、俺は乾いた笑いをもらした。

「……来週の休みね。行こうか」

「え、本当?やったぁ!」

俺の感情は彼女の表情で、言葉で色が変わる。まるで炎色反応のように。 そして、 彼女の気持ちが俺と同じ色に燃えていることを少しだけ期待してしまうのだ。
(終)

5/2/2024, 3:13:31 AM