砂時計の音は聞こえない
しかし、たしかに砂の流れる音は鳴っている
ただ、小さすぎて耳に入らないだけだ
俺の仕事もそう
誰の目にも止まらないが、存在はしている
違うことといえば、砂時計の音は存在していようといまいと大した差はないが、俺の仕事はなくてはならないという点か
なんの仕事をしているかって?
なに
普通の人間がいちいち気にするような内容じゃない
それでも知りたいというのなら、話してやろう
多くの人は知らないが、世の中にはある条件を満たすと誕生する怪異ってやつがいる
大抵の場合、それは人に害を及ぼす
だから、誕生した場合は専門家が速やかに排除することになってるんだ
だが、俺の仕事はそんな派手なもんじゃない
大切な仕事だが、やることは地味なもんさ
俺の専門は、怪異誕生の阻止だ
街中を探して、怪異誕生の条件を満たしそうな場所をいじって、未然に防ぐのさ
それはその辺の石の位置を変えるとか、ポイ捨てされたゴミを拾ってゴミ箱に捨てるだとか、そういう些細なことだ
空き家の朽ちかけた家具を完全にぶっ壊す、なんてのもあるな
怪異は妙な条件で誕生する
普通じゃわからないような、なんの変哲もない物のちょっとした位置関係とかでな
むしろ、誰かがわざと意味有りげなことをやって発生する怪異なんてものは、まず存在しない
それが逆に厄介なんだが、その厄介を解決するのが俺ってわけだな
とはいえ、どうしても全ては防ぎきれないから、怪異を排除する専門家も必要なんだ
ま、彼らの仕事が増えるか減るかは、俺や同僚の働き次第だ
俺のやってることは、地味で目につかない仕事だが、人々の平穏を守れるってのは、すげえ気持ちがいいもんだぜ?
あんたも、興味があるならやってみるか?
責任重大だが、意外と危険は少ないんだ、この仕事
消えた星図はどこへ行ったのか
どこを探しても見つからないだろう
なぜなら
消えたのは星図じゃない
宇宙と星々が存在するという事実だ
空に星が存在しないのだから、星図も存在し得ないのだ
青い空がいつまでも、どこまでも続いている
夜はない
そして、太陽もない
ただ、この世界が空から降りてくる光によって明るく照らされているだけ
私以外の人々は、かつてこの世界が宇宙という恐ろしく広い空間の中にある、ごく小さい地球という惑星だったことを覚えていない
この世界は外側というものが失われたのだ
人類も地球も、いつかは滅亡する
しかし、私はそれを阻止した
永遠にこの世界が繁栄し続けるように、改変したのだ
なぜ私にそんな能力が備わったのか、それはわからない
わからないが、利用しない手はないと思った
夜が消滅してしまったのは想定外だが、世界の繁栄に比べれば些細なことだ
この世界は滅ぶことなく、永遠に、生命とともに存在し続ける
それが私にとって何よりも優先されるべき、重要なことなのだ
愛 - 恋 = ?
ホワイトボードにそんな式が書かれていた
家族愛とか、友愛とかかな?
恋のない愛っていうのは
これを書いたのは、筆跡を見るに会長だろうなぁ
私が所属している、ムンサという会員制の集まり
入会条件はIQテストに合格すること……というような会ではなく、SNSでなんとなく繋がって、謎の公式サイトを共同で立ち上げた人たちの集団だ
定期的にとあるビルの、会長が所有する一室にみんなで集まっている
やることといえば、適当に話しをしたり、ゲームやったり、ダラダラしたり、たまにサイト更新のネタ探しに外へ出ることもあったり
で、ムンサの部屋のホワイトボードに会長が式を書いたようだけど
式を見つめていると、「ただいまー」と言う声が聞こえてきた
大量のお菓子を買って会長が帰ってきたのだ
会長は私が式を見ていたことに気づいた様子
ニヤッと笑ってこっちへ来る
「この問題解けた?」
「これ、明確な答えとかあるんですか?」
「無い
答えによってその人の心理をでっち上げるつもり」
「心理テスト的な?
答えづらいなぁ」
「いいからいいから
会長を信じて」
下手な答えを出せなくなったけど、どうせ会長が何を言い出すかなんてわからないし、ぱっと思いついたことを言おう
「じゃあ、家族愛で」
「ふむふむ
この問題は、あなたが飢えている愛と、私に求める愛がわかります」
ロクな内容じゃなかった
前半はともかく、後半が
そもそも私は家族愛は満たされてますけどね
というか、しれっと式で恋愛の可能性だけを完全に抹消している点に、保身の形跡が見られる
「そうかそうか
私には家族のように思われたいんだね
私のことはお姉さんだと思ってくれて構わないよ?」
なんか機嫌良さそう
なんで自分ででっち上げた内容でああもはしゃげるのか理解できない
でも、ああいうおかしなところがこの人の魅力だと思う
見ていて飽きないというか
だからこそ、みんなこんな怪しい集まりにずっと参加してるわけだし
私はたしかに会長に対して愛を持っている
家族愛でも友愛でもまして恋愛でもない
自分でもわからない、言葉にできない不思議な愛だ
はっきりとした正体はわからないけど、この気持ちは、大事にしたいな
ま、会長には絶対に言わないんだけどね
僕に課されたミッションは以下の通り
「梨派と林檎派の戦争を阻止せよ」
無茶な要求をしてくるものだ
奴らは長らく憎み合い、罵り合い、お互い歩み寄るなんてことは思いつきもしないというのに
梨派曰く、「林檎など干からびた梨の下位互換だ」
林檎派曰く、「梨など水で薄めた林檎の下位互換だ」
もういっそ、両方勝手に滅んで梨も林檎も楽しめる人々で理想郷を作るほうがいいのではないかと思う
ちなみに、僕はバラ科にアレルギーを持っているので、どちらも楽しめない
僕が今回の任務に乗り気でない理由の一つはそれだ
どちらにも良さがあるじゃないかと説いたところで、説得力がないだろう
それを言ってる人間が、梨も林檎も食べられないのだから
なぜわざわざ僕を任務に行かせたのか
理解不能だ
なにか別の目的でもあるのだろうかと疑いたくなってくるほどだ
ん?
別の目的だって?
そこで僕の頭にある考えが降ってきた
これはもしかしたら、逆に戦争を起こさせようとしているのではないか
僕に任務を下した人は表向きは梨派だが、あくまで梨のほうが好きなだけであり、林檎嫌いではない
だから林檎派との争いに心を痛めていた
しかし、彼が梨や林檎を食すところを見た記憶がない
まさか、彼は梨派どころではなく、最近暗躍している反薔薇派なのでは?
僕を利用し状況をかき乱し、二つの勢力を同時に滅ぼそうとしているのかもしれない
こうしてはいられないぞ
梨と林檎で戦争をしている場合ではない
双方に魔の手が迫っている
僕は梨派と林檎派に対して、迫る危機に気づかせるため、行動を開始する
この状況をチャンスに変える
うまくいけば、危機を逆に利用し、和解に繋げられるかもしれない
LaLaLa GoodBye♪
二度と来んなバッキャロー♪
店に来て、当店自慢の料理を食ったまではいい
それなら普通のお客さんたちだった
口に合わなくて、小さい声で不味いねって言うくらいなら、別に俺も怒らない
しかし!
他のお客さんのいる前で、でかい声で不味いっつーのは失礼じゃないの?
普段から声がでかいだけで、本人たち、不味いですよーってアピールしたいわけじゃないと思うけど
けどな?
こっちとしちゃあ他のお客さんが美味しい美味しい言って食ってくれてる料理を大音声で不味いとか言われちゃあ許せねえわけよ
何が失礼って、俺の料理に惚れてくれた人たちに失礼だよ
自分が好きなものをでかい声で否定されてんのよ?
俺だったらあとでサンドバッグぶん殴ってるね
まぁあんだけ不味いっつってんだから、もう二度と来ねえだろ
LaLaLa GoodBye♪
他の店じゃあでかい声で不味いとか言うなよー♪
来やがったよ
しかも増えたよ
なんで来てんの?
と思ったら、でかい声でまた「この店不味くてさ」とか言いやがる
不味いなら来んなよ
友達に広めなくていいのよ
この間と同じもん注文して
またでかい声で不味いって、ふざけんなコラ
とか思っていたら
なんか、増えた友人二人がこの間も来た二人に対してガチ説教を始めた
新しく来た二人はまともだったみたいだ
ありがてえ
帰り際に俺に謝って、不味い言ってた二人にも謝らせ、会計して「僕は美味しいと思いました」「俺もです」と言って去っていった
ま、あの二人に免じて許してやるかぁ
あの二人、また来てくれっかな