『「俺と恋人のフリ、してくんない?」
憧れの彼と、秋限定の恋人関係に
ひとときの夢、そう思っていたけど……
(中略)
この秋、きっとあなたも恋をする
映画「秋恋」10月×日ロードショー』
……いやぁ、全く惹かれねぇー
そもそも恋愛ものは私、苦手だし
せっかく誘ってもらって悪いんだけど、ちょっと無理かな
「やっぱダメかぁ
一回見れば恋愛ものもハマると思うんだけどね」
食わず嫌いなのは認めるけどね
ただ、私はイケメンとヒロインの恋愛模様よりも、筋肉モリモリマッチョマンが派手なアクションで殴る蹴る爆破する映画のほうがキュンキュンするんだよ
「まあ、そうだよね
今までの付き合いでわかるよ
部屋にアーノルド・ウィリスのポスター貼ってあったし」
私の秋の恋はシルベスター・セガールの『last dying 3』に捧げるよ
今回は不可能なミッションに挑むってさ
毎回不可能なミッションに挑んでは成功させてるけど
「なんとか恋愛映画も見てほしいなぁ
そうだ、あたしが一緒に普段見ないアクション映画に付き合う代わりに、咲も私が秋恋を見るのに付き合うってのはどう?
お互い世界が広がるかもしれないし!」
いやぁ、私はひとりでも映画館でノリノリで見られるタイプの人間だから
「たまには友達と見るのも、一味違った楽しみがあるかもよ?
感想言い合ったり、解説したりさ」
うーん、見終わって話せる人がいるのは喜ばしいことだけど……代わりに恋愛映画見るのかぁ
「なんでもものは試しでしょ!
私もアクション映画にハマるかもしれないし!」
そうだなぁ、わかったよ
うん、よし、秋恋、一緒に見に行く!
じゃあ、そうと決まれば早速二日分の予定をたてよう
後日
「いやぁよかったね、秋恋
この前のlast dying 3も、想像してたよりずっと面白かったよ」
……
「あれ、どうしたの?
あんまり合わなかった?」
いや、あの、恋愛映画ってみんなあんな感じなの?
「どんな感じのことを言ってるか知らないけど、だいたいあんな雰囲気かな」
なんか、中盤辺りから刺激の強い恋愛オーラが襲い掛かってきて、なんかよくわからない感情になった
「……ああ、たぶん、アクション映画とは違う方向でキュンキュンしたんだと思うよ?」
あれが真の胸キュンってやつだったのか
なんて恐ろしい
私の心が終始破裂寸前だった
「ハマれそう?」
ハマれそう
「なら、あたし的には付き合ってもらったかいがあったね」
私はこれから筋肉モリモリマッチョマンに加え、ラブでスイートな映画もチェックすることにするよ
「私もアクション映画、ちょっと色々調べてみよっかな」
お互い、趣味が広がったね
私は今日は寝られる気がしない
「あたしは気持ちよく寝られそうだよ
なにせ同志が増えたからね!」
ま、アクション映画が私の最推しであることには変わりないけどね
恋愛映画もいいものだってわかってよかったよ
愛する、それ故に俺はこの場から退かない
愛する、それ故に俺はお前の意志に媚びない
愛する、それ故に俺は自分の身を省みない
友としてお前を止める
お前からの愛を失っても、俺が力尽きることになろうとも
思い出せ
お前がかつて目指したことを
お前がやりたかったのは、他者を傷つけるようなことではなかったはずだ
手段を選ばず悪を断つなんていう、傲慢な行動をお前は望んでいなかっただろう
俺がお前を引き戻してやる
なすべき方法で、あるべき姿を取り戻せ
お前は闇の中に堕ちたような気分だろうが、どんな闇の中でも、探せば光は見つかるんだ
その光を掴み取れ
お前ならきっとできる
見つからなくても、仲間が光まで引き上げてくれるはず
だから、こんなことはもうやめよう
お前には、助けてくれる存在がたくさんいるじゃないか
みんなの力を借りるんだよ
そうすれば、見えてこなかった道が見えてくる
お前は、ひとりじゃないんだ
ダメだ、我慢するんだ
そんなことをしてはいけない
静寂の中心で、僕は必死に欲を抑えていた
みんなが目を閉じ、静かに自分の呼吸へと集中している
今は、マインドフルネスの時間だ
早く終わってくれ
僕はまったくマインドフルネスができていない
なぜなら、違うことに気がそれているから
昔から黙って何もせずに目を閉じる、みたいなことが苦手な僕だが、それだけなら問題はなかっただろう
しかしマズいことに、こういう場で絶対にしてはいけないようなことをやってみたい衝動に駆られている
以前はそんなことはなかったのに
今、この瞬間において、禁断の行為をしたくてたまらない
子供じゃないんだから、そんなことをするのは馬鹿げている
それはわかっているのだけれど、このまま何分もマインドフルネスが続けば、耐えきれなくなるだろうと思う
完全に迷惑行為だし、僕だってやらないで済むならそうしたい
ただ、溢れ出る欲望に抗い続けるのは難しいのだ
僕には、我慢できるうちにこの時間が終わることを願うより他にできることはない
そして、僕はそれほど我慢強い性格をしていなかった
限界は近い
自分でわかる
そしてマインドフルネスはまだまだ終わらない
雰囲気でわかる
必死に我慢してきたが、もうこれ以上は無理だ
僕は両手を胸のあたりまで上げ、勢いをつけ……
パンッ
と思い切り手を叩いた
ものすごくいい音が、部屋に大きく響く
周りの人たちがビクッとし、こちらに注目する
……とうとうやってしまった
けど、気持ちよかった……
僕がその後、こっぴどく怒られたのは言うまでもない
まるで燃える葉
もみじの紅々とした姿は火がついているかのようだ
焚き火を見ていると癒やされるらしい
しかし、燃えるようなもみじを見るのもとても癒やされる
木々が一面紅く染まる姿は壮観だ
食欲の秋とも言うし、そんな姿を見ながら焼き芋なんかを食べるのも、なかなかいい組み合わせではないか
それか、ただ何も考えずボーッと見続けるとか
いずれにしろ、日々の疲れが少しはとれるかもしれない
体というより、心のほうが
それくらい落ち着かせてくれる景色だと思う
目の前に広がるもみじ、というものは
「moonlight」
闇の中で輝きを放つ月
朝から夕方までこの世界を照らす太陽に変わり、夜に空から光を与える存在だ
雲の厚い曇りの日や、新月の時はそうはいかないが……
夜に輝くその姿は神秘的で、古来より人々が魅了されるのもわかる
そう、輝きを放つ月は美しいものだ
ところで、そんな風情のある考えを台無しにしかねないことを言いたいと思う
月光は、正確には月の放った輝きではない
太陽の光が反射して、月が光っているように見えるだけだ
結局我々は、朝から夜までずっと太陽の光に照らされているということになる
月光は月光ではない
太陽光だ
しかしだからといって(自分で言っておいてなんだが)、月の美しさに変わりはないだろう
結局、仕組みなんてどうでもいいのだ
ただ空の月を見上げて、我々が何を感じるか
それだけが大事だと思う
宇宙や科学的なことに興味があるなら、話は別だが、それは一旦置いておく
さて、今夜は月がよく見えそうだ
満月ではないが、こんな文章を書いたのだから、月見に合う食べ物を食べるとしよう
次の満月はいつだったか
その時もまた、月にまつわることをしたい
何か考えておこう
2025/10/5
「ほら見ろ
十万年前は月は単独では光ってなかったんだ」
『これ、ノートってやつ?
よくデータなんて残ってたね』
「うちに代々伝わるもののひとつさ
面白いから、昔から読んでたんだ
あと、やっぱり月が光ったのはもっと後だろ?」
『みたいだね
十万年前はそこまでの科学技術はなかったのかぁ』
「たぶん、八万年前とかだと思うぜ?
調べればすぐ出ると思う」
『じゃあちょっと調べてくるよ』
「おう、わかったら教えてくれよー」