僕と一緒に寝たいって?
あの、僕、呪いのぬいぐるみなんだけど
ひとりで眠れなくて、いつもイルカの抱き枕と寝てたのも知ってるけど
いくら抱き枕を無理やり卒業させられたからって、呪いのぬいぐるみで代用はちょっと狂ってるよ君
いやいや、たしかに僕も呪ったりはしないよ?
君みたいな子を呪うほど落ちぶれちゃいないから
でも、僕ってヤバい存在でしょ?
普通は怖がることはあっても、一緒に寝ようなんて思わないって
うん、わかる
僕が喋れるから、話し相手が欲しかったんだろ?
君は寂しかったんだね
両親ともに君を厳しく育て……というか、自分たちの理想を君に押し付けてる感じがするもん
心を開いて話せる相手が欲しくもなる
友達は……親があの子はダメこの子もダメみたいに制限する感じかぁ
だからといって、呪いのぬいぐるみを友達にしようってのは不健全だよ
なんなら僕が君の両親を呪殺してあげてもいいんだけど?
それは嫌か
両親が嫌いなわけでも、死んでほしいわけでもないってことだね
洗脳系もアウトなわけでしょ?
となると……現状をよくするには、両親が心の底から反省して、自分自身を変えてもらうしかないね
おっと、呪いのぬいぐるみの僕が、出過ぎた真似をしようとしてしまった
そうそう、君が僕に望んでるのは抱き枕代わりだ
不本意ではあるけど、まあいいや
特にやることも呪う相手もいないし、しばらく君の抱き枕として、話を聞いてあげるよ
……知り合いにいるんだよなぁ
僕みたいに闇の存在じゃなく、光側のやつだけど、あの子を救えそうなのが
あぁー会いたくないよぉー
でも、いつまでも抱き枕ではいられないしなぁ
あいつなら、二つ返事で引き受けてくれそうだし、ちょっと頼んでみるか
性格いいし、他人の役に立つことを至上の喜びとするようなやつだからね
僕は眩しくて苦手なんだよ、あいつ
あいつの優しくも現実を見せつけてくる言葉にかかれば、あの子の両親も過ちに気づくさ
そうなれば、僕の仕事も終わり
はぁ、深入りするもんじゃないな
何日も一緒にいたせいで、情が移って離れづらいや
というわけで、君の両親は反省して優しくなったみたいだし、僕はそろそろ呪いのぬいぐるみ業に戻るよ
いつまでもここに留まるわけにはいかないからね
ちゃんと僕みたいなのじゃなくて、人間の友達を作るんだよ
もう、両親に口出しされることはないんだから
泣くなって
喜びなよ
僕が必要なくなったってことは、君は前に進めたってことなんだから
うわ、抱きしめないでよ
そんなことされたら、離れられなくなるだろ
え?
相談相手が必要?
いや、まあ、両親に言いづらいこともあるだろうけど……
抱き枕も必要?
そんなの買えばいいじゃない
……あー、わかったよ
まだまだ君のそばにいるよ
ただし、君が本当に僕を必要としなくなったら、その時はお別れだからね
君も、僕に執着するのはやめなよ?
じゃ、そういうことで、これからもよろしく
実験体No.5
コードネーム:cloudy
能力:次の日の天気が曇りか否かわかる能力
……なにこの能力、なめてるの?
私を改造しておいて、使いみちの無い、こんな存在意義が見出だせないような能力を授けたの?
雨ならかなり役に立つと思う
翌日の予定とか、傘を持っていくべきかどうかとかわかるから、便利なことこの上ない
なのに、私がわかるのは曇りかどうか
なんとか役立てる方法はないかと思って考えた末に思いついたこともある
曇りだとわかれば、自動的に雨でないこともわかるんじゃないの、と
次の日は必ず曇りなんだから、雨になることはないってね
……現実は甘くなかった
天気って一日の中で変わるんだよね
曇りのち雨とか、晴れ時々曇りとか
私の能力は、次の日が曇りかどうかしかわからない
一時間でも曇りの時間があれば、雨が降ろうが晴れが長かろうが、一時間の曇りに反応してしまう
そんな能力
使いないな
本当に使えない
コードネーム:cloudyじゃないんだよ
かっこつけてコードネームつけるような能力じゃないでしょ
なんでこんなバカみたいな能力にしたのか、プロジェクト責任者を問い詰めたら、とんでもない返答が返ってきて怒り狂いそうになったよ
真面目に能力開発するのもつまらないから、ちょっとしたネタ能力を一個くらい作ろうという話になって、チームのふざけたノリで私にゴミ能力を授けたそうだ
私はワクワクして改造されたのに!
なんか、常人離れした能力で人助けみたいなのを考えてたのに!
さすがに悪ノリがすぎたと思ったのか、責任者は改造し直しを申し出た
今回は事前に改造内容を聞く
ほほう、これはなかなかいい
これなら大活躍できるんじゃないの?
納得した私は喜んで再び改造手術を受けるのだった
虹の架け橋🌈
ああ、なんてファンタジックな響きと絵文字
絵本なんかに出てきそうな癒やしの言葉
子供番組なんかでもテーマにした歌がありそう
現実離れして、キラキラした感じの雰囲気を想像できる
でも、たしかに現実に存在してるんだよ
虹って子供だけじゃなくて大人だって嬉しい気持ちになるよね
ちょっとラッキーな気持ちに
私の見つめる先にある虹もとてもキレイだな
いつまででも見ていられる
心が洗われるようだよ
こんな美しいものを見ていたら、細かい悩みとか、日々のストレスとか、どうでもよくなっちゃうよね
なんか童心に帰るっていうの?
見てるだけでワクワクが止まらない
こんな気持ち、いつの間にか忘れていた気がする
あの虹のおかげで、大切なものを取り戻せたと思う
こんな長く虹を見続けたのは初めてだよ、きっと
本当に、嫌なこと全部吹き飛びそう
……でもなんでだろう
さっきから全然涙が止まらないや
感動の涙じゃなくて、悲しみの涙が
おかしいなぁ
虹はあんなに美しいのに
いや、自分をごまかしてるけど本当はわかってるんだよ
虹を見てるせいで涙が止まらないんだよ
私が今見てる虹の架け橋
というか、夜景の中で光るレインボーブリッジ
今日、本当は恋人と見るはずだった
見るはずだったんだけど、恋人は現在、元恋人になっていて……
要するに数日前にフラれた
唐突にフラれた
二人で今日の予定入れてたのに
もしかしたらいるかもしれないと、現実を見てみぬふりしてここまで来たけど、当然いない
だってフラれたから
だってフラれたから!
虹を見たら嫌なこと全部吹き飛びそう?
そんなわけないでしょ!
虹の架け橋だろうとレインボーブリッジだろうと、そんな便利な効果はないよ!
むしろ、元恋人と来るはずだったのにと思って不快な気分にしかならない!
こういう時は虹を見るなんていうのよりも確実に、嫌なことを吹き飛ばせる方法がある
持つべきものは友って言うでしょ?
帰ったら電話で話を聞いてもらおう
それで少しは楽になるはず
そうと決まればこんな悲しい場所からはおさらばだ!
自分が送った、既読がつかないメッセージを眺める
メッセージがいつ読まれるのか、今か今かと待ちわびている、のではない
そもそもこのメッセージに既読なんてつくわけがないのだ
なぜなら俺が送っている相手は、俺の作った別アカウントなのだから
なんでそんな無意味なことをしているのかって?
独り言みたいなものだよ
俺のちょっとしたストレス解消と、物事の考えを深めるための手段さ
メモに書けばいいじゃないかと思うかもしれないが、俺の場合メモは壁に向かって話しているような気分になって、精神衛生上よろしくないんだ
でも、メッセージアプリならたとえ相手がいなくても、返信が来なくても、メッセージを送るという過程で誰かに伝えていると脳を錯覚させることができる
虚しさを全く感じない
これをやってから俺のストレスはだいぶ軽減され、気持ちや思考の整理なども以前よりしやすくなった
この方法が多くの人に効果的かどうかは知らないけれど、俺には効果てきめんだ
おまけに、実際には相手がいないから俺のいろんな話を聞かせて疲れさせたり、気分を悪くさせたりすることもない
自分の気持ち、愚痴、考え方、思ったこと、思いついたこと、様々なことを際限なく書きなぐっても、誰からも文句を言われない空間になっている
それでいて、存在しない相手に聞いてもらっている感覚を得られるのだから、最高の方法だと思う
重要なのは、相手への説明を意識しながら書くという点で、ただ架空の相手を感じながら書くのでは、効果を最大限発揮できない
人にわかるように書こうとすることで、自分で気づかなかった感情や考え、論理の矛盾なんかに気付けるわけだ
俺がやっているこれはたぶん、ラバーダッキングと呼ばれるものだろう
突き当たった問題について、誰に聞かせるでもなく独り言やメモで説明することで、新たな発見や視点、気付きなどを得る行為だ
俺の場合、ゴム製のアヒルのおもちゃでも、単なる独り言やメモでもうまくいかない
ぴったりだったのは、メッセージアプリで存在しない人を感じて一方的に言葉を投げかけることだった
たぶん、普通は独り言やメモで十分なんだろう
だから俺のやり方をおすすめすることはできない
人によって向き不向きもあるし
ただ、方法のひとつとして知っておいて、損はないんじゃないかな
まあ、こんなことをしているのは俺だけかもしれないけど
春色といえば桜のピンク
夏色といえば海の青
冬色といえば雪の白
では僕のイメージで秋色はなにかというと……
他の季節と違って、オレンジ、黄色と、色の系統こそ同じものの、異なる二色を連想してしまう
秋の象徴として紅葉とイチョウの二つが頭に出てくるからだろう
唯一、ふたつの色をイメージする季節
これだけで秋にちょっとした特別感を感じる
あと、秋だけ違うといえば、僕は春、夏、冬は昼間をイメージするんだけど、秋は夕方の情景を思い浮かべるね
オレンジっていうのは、そこからも来ているのかもしれない
ただ、どうして夕方が思い浮かぶのか、その理由はよくわからないな
秋だけ違うと感じるのは、それだけじゃない
他の季節は、明るくてポジティブな雰囲気があるような気がする
あくまで僕の感じ方だけど
一方秋は、大人しくて少し切ない雰囲気をまとった季節だと思う
こういった印象はいったいどこから来るのだろう?
なかなか答えは出ない
まあ、理由なんてものはどうでもいいか
最近はあるのかないのかわからない、みたいに思えることもあるけど、たしかにまだある秋は、他の季節に負けない魅力に溢れた季節だと思う