いかん
どっと疲れた
動ける気がしない
これから夕飯を作らなければならないというのに
まさに台風のようだった
その時は平気だと思っていたのだがな
台風が過ぎ去って、自分が体力をかなり使ったことを、疲労によって思い知らされたよ
5歳になった甥っ子の相手は、俺の体では重労働だったらしい
無限の体力を持っているかのようだった
孫はたまにくるから可愛いとはよく言ったものだ
俺にとっては孫ではなく甥っ子だが
こんな暴れん坊の面倒を毎日見ている世の親御さんたちには尊敬の念を抱く
だが、可愛いことに変わりはない
本物の台風と違って、この小さな台風は一緒にいると楽しいのだ
ただ、これほど可愛いのは今のうちだけなのだろうな
すぐに成長するだろうし、ものがわかってくると、今のように無邪気に遊んではくれないだろう
そう考えると、疲れてでも一緒に過ごす時間を作りたいものだな
機会があれば、積極的に遊び相手をさせてもらうか
いつか、いや
近い将来、成長した甥っ子を見て嬉しく思うとともに、一緒に遊んだ日々を懐かしむ日が来るのだろうな
きっと、寂しさも同時に感じながら
あぁ
ついに私はこの世にひとりきりの存在に成ってしまった
自分で目指して成ったわけだけど、叶っても案外、感動は薄いな
これからが大変だから、感動してる場合じゃないんだけど
あの世とのやりとりで忙しくなるし、この世の人々を導いていかないといけない
この世で仕事をする現場主義の神はいないし、人から神に成るのもかなりのレアケースだってさ
私も神になるまで生で神を見たことなかったよ
神はあの世の管理はするけど、この世のことは基本手出ししない
私も介入しすぎないようにする予定だけど、要所要所で軌道修正を促すつもり
このまま滅亡されたら困るから
本当は神は成り行きを見守らないといけないらしい
でも私は人から神に成り、この世にとどまった存在
神のルール的には、そういった場合やりすぎなければ介入も問題がないという
だからこそ、私は神に成った
私が欲したのは、不死と圧倒的な超常の力
この世の終わりまで、人が滅ばないように助けるには、それが必要
そして、私はそれらを手に入れられる環境にいた
だから、なんとか努力して手に入れたんだ
私は神殿に住みながら、この世にひとりきりの神として、これから人類を導く
この世の人々を幸せにしたいから、というだけじゃない
最大の目的は、地獄と化し、多くの神々の力を以てしても改善できないあの世を救う、救世主をこの世に生み出すために
そのためには、この世を幸福な世界にしないといけない
幸福な人生を送った人は、あの世を浄化する力を持つから
さて、君は一旦死んでしまったわけだが、死者は別の世界に転生する決まりなんだ
転生世界は通常こちらで勝手に決めることになってる
しかしね
今ならキャンペーンで好きな世界へ転生できるのだよ
しかも記憶を保ったまま
今死んでよかったな
さて、そこに三つの世界があるだろう
Red, Green, Blueだ
好きな世界を選びたまえ
その前にどんな世界か紹介しよう
いずれも君がいた世界ととても似ているから、混乱することはないはずだ
まずRed
この世界はなかなか生きやすい世界だ
特徴としては、君と気の合う鎌田という人がいる
他にも山下や、小野田がいる
次にGreen
この世界もけっこう生きやすい世界だ
こちらの特徴は、君と気の合う村本という人がいる
他にも、木原や牧がいる
最後のBlue
この世界ももちろん生きやすい世界だ
特徴を言うと、君と気の合う鎌田と山下と牧がいる
よく考えて三つからひとつを選ぶといい
と、言いたいところだが
なんと、キャンペーン対象者の中から抽選で一名に全ての世界を行き来できる権利を与えることになっており、君が選ばれた!
おめでとう!
実は世界を選ばなくていい!
サプライズだ!
当選者へのおまけとして、さらに黄瀬版という名の世界への転生権も付けよう
この世界は、Red, Green, Blueとほぼ同じ世界だが、黄瀬という、他の世界では赤の他人だが、この世界では無二の親友になる人物がいる
さらに、君と気の合う村本と木原と小野田もいるぞ
君は四つの世界で四つの人生を好きな時に好きなように生きられるのだ!
さあ、存分に四重の人生を楽しみたまえ!
きっと明るい未来が待っている!
なお、四つの世界の住人は交換したりはできないから、そこは注意してくれ
楽しみだ
ものすごーく楽しみだ
あれを破壊された時、人々はどのような反応をするのだろうねぇ
前からぶち壊してみたかったんだ
台無しにしてみたかったんだ
うまくいけば、きっと素晴らしい芸術が完成するだろう
骨の折れることだけどね
あぁ、興奮してきたぞ
皆が信じているものが、あっけなく崩れていく様
想像するだけでゾクゾクするじゃないか
そして、破壊という名の芸術のあとにも、また新たな芸術が誕生するんだよ
美しいものを見ていた人々の目には、痛みを伴うものが映り始める
そこで皆は現実に引き戻され、打ちのめされるわけだ
安心しきった夢の中から無理やり引きずり出されて、厳しい現実を思い知らされるなんて、最高の芸術だと思わないかい?
計画はすでに進んでいる
もう止められる者なんてどこにもいないんだよ
方法は企業秘密さ
芸術の技法は広められるべきだけど、これはそういうタイプの芸術じゃないからね
僕の計画は完璧さ
これで、都合のいい情報だけに浸らせてもらえる時間は終わる
次に不都合な現実が皆に襲い掛かってくるんだ
ほらほら、もうすぐだ
もうすぐフィルターバブルをバチンと割って、人々が見たくもない現実を見せてあげるよ!
アハハハハハハハ!!
私は誇り高き龍
空を翔ける姿は、人々に畏敬の念を抱かせ、口からは炎を吐くことができる
多くの人が私のことを崇め、私もそれに応えようと様々なことをした
龍として世のために力を振るうのはとてもやりがいがあり、そして楽しいものだ
私は自分が人々を助ける力を持つ龍であることが嬉しかった
だが……
人間界で龍に関する研究が進んでいったらしい
そこで、衝撃の事実が発覚した
私は龍ではなく、西の地でドラゴンと呼ばれる、似て非なる存在だったのだ
しかも、ドラゴンはその地で災いと恐怖の象徴であるという
神聖であるとされる龍とは真逆ではないか
たしかに、おかしさは感じていた
私には毛がない
ヒゲもない
体は細長くない
手に玉も持っていない
そもそも、四つ足だ
大きな翼も生えている
そして、口から炎を吐く
全く姿が違うのだ
だが、私はその姿の違いを見てみぬふりをしてきた
それを口にしてしまえば、なにかが壊れる気がしたからだ
私はどうすればいいのだろう
答えは浮かぶが、決心がつかない
私は踏ん切りをつけるため、龍の長のもとへ向かった
龍の長はいつにも増して真剣な顔をしながら、私の出生について話してくれた
「昔、わしが海から流れ着いた大きな卵を見つけた
卵から龍に似た、とても強い力を感じたわしは、その卵を孵すことにしたのだ
その卵から孵ったのがお前だ
わしも、お前のことはどこかの地から来た種類の違う龍なのだろうと信じていたが……
ドラゴンという存在だったとは、わしにとっても予想外だ」
「私は、龍ではなくドラゴン
龍の仲間になれなくて、とても悲しいです
私は、この地を去るべきなのでしょうか」
いや、聞くまでもない
私は災いを呼ぶ存在だ
そんな存在にいられては、人々も不安だろう
だが、長は意外な言葉を口にした
「それを決めるのは、お前だ
ドラゴンとして去るか、龍として人々のために生きるか
ドラゴンとして去る場合、どこへ向かうかが問題だな
龍として生きるならば、どうやってお前が善良であるかを、人々に信じてもらうかが課題だ
今までのお前の生き様を考えれば、そう難しいことではないだろうがな
……少なくともわしは、姿は違えどお前のことを正真正銘の龍だと思っているぞ」
まさか、留まる選択肢も提示されるとは
私は、話が済んだらすぐにでも去るつもりだったのに
「この地に留まって、いいのでしょうか?」
「留まりたいなら、留まればよい
障壁があるならば、仲間として力を貸そう」
長は優しい声で告げる
ならば私は、この地で人々のために生きていきたい
今までのように
「答えは決まったようだな」
長だけでなく龍の仲間たちも、私を今までどおり受け入れてくれた
そして……
私がドラゴンであることに恐れを抱く地域もいくつかあったが、私を変わらず崇めてくれた人々の根気強い活動により、徐々に態度を変えていく
私は前と同じく、堂々と人々のために力を振るえるようになったのだ
私の姿は恐ろしいドラゴンだ
だが、この魂は誇り高き龍である
それはこの先も変わることはない
私は龍として、この地に生き様を刻んでいく
今までも、そしてこれからも