色々と嫌なことがあったので、適当に見知らぬ街へ行くことにした
街を散策してリフレッシュするのだ
行ったことのない近場の街をいくつかピックアップして番号を振り、どこかのサイトでランダムに数字を生成して出た数字の場所へ行く
電車に乗って着いたのは、俺の住む街と同じような雰囲気のところ
俺の感覚では、よくある普通の街といった感じだな
とはいえ、実際に散策するぞと意気込んで歩いていると、街の様々なものが目について楽しい
自分の住むところでも、こんなに色々なものを気にして歩くことなんてないから、新鮮だ
今いるあたりは飲食店も多く、外から店の雰囲気を楽しむ
海老天のキャラクターが海老を釣るという、なんともいえないイラストの看板が立つ店もあった
そんな中で、気になる店がひとつ
そこはハンバーガー屋で、けっこうボリュームのあるメニューが多いようだ
その店に、どこか懐かしさを覚える
しかしその店はチェーン店ではないし、当然この街には来たことがない
それでも、なんとなく知っている気がして、俺は昼が近かったこともあり、早めの昼食をここでとることにした
なぜか惹かれるメニューがあったので、それを頼む
運ばれてきたハンバーガーを食べた時、俺の中で記憶が蘇った
ああ、これは小学生の低学年の頃、両親とたまに行ってた店の味だ
当時、食べきれないから、俺は両親と分けて食べていたな
そして、いつの間にか店がなくなっていたんだった
閉店して残念がったのを覚えている
知った時は泣いたような
でも、この街で復活していたんだな
俺は懐かしいハンバーガーの味を噛み締めながら、思い出に浸る
気分転換のために、たまたま来た街だったが、思わぬ収穫があった
たまに来て、この味を楽しむのもいいな
他にも食べたい美味そうなメニューもあるし
遠雷が止まることを知らない
さっきっからゴロゴロゴロゴロ!と鳴り続けている
近くじゃないから僕自身は恐さはあまり感じないけど、とにかくうるさい
心地いい音ではないので、なかなかに鬱陶しい
そして何より、トイプードルのムムちゃんがさっきからテーブルの下でプルプル震えているのが可哀想で心が痛い
いつまで鳴っているつもりなのか
ムムちゃんがこんなに恐がっているのに
同じくトイプードルのココアちゃんは、平気な顔しておもちゃで遊んでいるけど、ムムちゃんはココアちゃんと違って恐がりなのだ
それにしても、さっきっから何度も何度も
今日の雷はいったい何回落ちるつもりなのか
恐がるムムちゃんのためになんとかしてあげたいが、僕にはどうしてやることもできない
ムムちゃんはかなり参ってる
一方のココアちゃんは楽しそうだ
というか、ココアちゃんすごいな
全然、気にもしてないぞ
この音の中、マイペースにおもちゃで遊び続けるなんて大物だ
ココアちゃんは放っておいても平気だろう
問題はムムちゃんだ
鳴り止むまでなんて待っていられない
ムムちゃんが恐がっているのは今なんだ
とはいえ、できることはあまり思いつかない
こういう時はもう、ひたすらなでるのがいいかもしれない
僕がなでてあげると、ムムちゃんは伏せた状態で尻尾をブンブンふり始めた
よかった、喜んでる
きっとこうしていれば、少しは恐怖心が薄れるんじゃないか?
相変わらず雷は落ちてるけど、ムムちゃんは少しは落ち着けたみたいだ
テーブルから出て、今は座る僕の足の上に乗っている
そして、視線をココアちゃんのほうへ移すと、飽きもせずずっとおもちゃで遊んでいた
本当に、ココアちゃんは強いな
喫茶店Midnight Blue
営業時間、11:00-15:00
定休日、月曜日
店の名前と営業時間が合ってない
色の名前だというのはわかっている
だがそれでも昼営業の喫茶店につける名前とは思えない
バーなどにつける名前ではないのか
興味を惹かれて店に入ってみた
店内はやや明るく、ラテン音楽が流れている
全く以てMidnight Blueなどという雰囲気ではない
そして、壁には海辺の写真がいくつか飾ってあり、店主は日に焼けて色黒
なぜこの店名にしたのか理解に苦しむ
店名の由来が気になってしかたなかったので、店主に聞いてみることにした
すると、店主から衝撃の回答があった
「あ、ミッドナイトって夜の12時頃のことなんですか?
ミッドナイトっていう地域の海みたいな青色のことなんだと思ってました」
ミッドナイトを知らなかったのか?
そして、そういう名前の地域で、そこの海のような青だと思った?
なんとも納得しきれない内容だ
しかし、意外そうに言っているのだから本当に勘違いしていたのだろう
店名はチグハグだが、この喫茶店自体は気に入った
注文したハイビスカスティーも美味しい
また来よう
我慢の限界が来て、私たちを酷使する組織を壊滅させてしまったので、私は君と飛び立つことにした
そう、高飛びだ
組織は反社会的だが、それでも構成員だって一人の人間
これまでは組織の力で守られていたが、後ろ盾がない今、内部抗争とはいえさすがに人死が出てしまえば、警察は私と君を捕まえるだろう
そして死刑になるという最悪の末路をたどるのだ
しかし私は死ぬ気はないし、君も同じ気持ちのはず
それでも心配はいらない
この国から逃げる方法はすでに確保している
状況は悪くない
順調と言っていいくらいだ
私たちを追って来られるものはいない
楽に逃げられるよう、私が手を回したからな
私と君で新天地を目指し、面白おかしく派手なことをしようじゃないか
もうすぐ目的地につく
さあ、ここから国外へ飛ぶんだ
……ん?
け、警察!?
なぜここに!?
まさか、君か?
君なのか?
そういえば、君はあの時一人も殺していなかった……
いや、ほとんど戦わなかったと言ってもいい
最初から私を売るつもりだったのか
警察とつながり、自分の罪を軽くするために私を罠にはめたのか
……フゥ、しかたがない
私も数え切れないほどの罪を犯してきた人間だ
君のように選択肢がなかったのではなく、自分の意思でやってきた
組織に入ったのだって、欲望のため
そういえば、君は今まで誰かの命を奪う仕事はやって来なかったな
しないで済むよう、うまく立ち回ったのだろうが
殺人を犯していないなら、私と逃げても得はない、か
まあ、君の手で人生に止めを刺されるのなら悪くはない
せめて君は、人生をやり直して幸せになってくれ
まず始めに言っておく
私は姉だ
姉なのだ
なぜなら妹より何年か早くこの世に誕生しているから
にもかかわらずだ
必ず私が妹だと思われ、妹が姉だと思われる
原因はわかりきっている
妹の身長が高く、大人っぽい顔つきと大人っぽい落ち着いた雰囲気をまとっているからだ
そして私の身長が低く、童顔で、なんというか、騒がしい部分があるのがこの勘違いに拍車をかけている
いや、原因はそれだけではない
妹は私を……
姉である私をまるで妹のように可愛がってくるのだ
意味がわからない
可愛がるのは私の役目ではないのか
まあ、私も妹に甘えてる部分があるのは確かなので、あまり強くは言えないけど
そんなある日、妹が私にこんなことを言い出した
「私、昔から妹が欲しくてさ」
でしょうね
相手が子供っぽいのをいいことに、実の姉を妹扱いみたいにしているもんね
子供っぽいとか、自分で言って悲しくなってきたな
「だからお姉ちゃんを可愛がって甘えさせてるわけだけど」
やたら甘えてる私もどうなのって話だけどね
「だけど、お姉ちゃんは私をお姉ちゃんとは呼んでくれないわけじゃない?」
言うわけねーだろ
どこの世界に妹をお姉ちゃんと呼ぶ姉がいるのか
「だから一度、私のことをお姉ちゃんって呼んでみてさ、私をお姉さん気分にさせてほしいんだけど……どう?」
「妹からの頼みなんてレアだから叶えてあげたいけど絶対ヤダ
あまりに屈辱的だから絶対にやらない
たぶん呼んだら吐く」
吐くどころか爆発してしまうかもしれない
いくら日頃お世話になってるからといって、それは姉として超えてはならない一線だ
許されざる行為だ
「お姉ちゃん、ゲーミングPCあと二万円ほど余裕があれば買えるのにって、言ってたよね?」
「うっ!」
二万円をチラつかせてきた!
こ、こんな手に乗るものか!
私には姉としての最後の誇りがあるんだ!
ゲーミングPCに釣られたなどと、一生の恥!
恥、はじじじじ……
「一回だけだからねっ!」
欲の前には無力
私の誇りはホコリの如く吹き飛んでいった
「このセリフ!
このセリフ言って!」
珍しく興奮気味な妹に渡されたメモに書いてあったのは……
え、これ言うの?
気持ち悪っ
じゃ、じゃあさっさとやろう
さっさと言って終わらせよう
「お、お姉ちゃん、大好きっ!」
「……!!!」
妹が姉からお姉ちゃんと言われて悶えてる
私は顔面がめちゃくちゃ熱い
吐き気を催しそうになったけど、必死で堪えた
ただ、恥ずかしさや気色悪さはあるけど、もはや屈辱は感じない
妹から二万円貰うことを決めた時点で、私の魂は悪魔に売り渡されているのだ
私はもう姉でも何でもない
妹の妹になった、かつて姉だったものだ
妹、というか、実質上の私の姉は、なぜか三万渡してきた
「とってもよかったし、頑張ってくれたからボーナスね」
さっきまで妹だった姉は、機嫌よく自分の部屋へ向かった
取り残された私の目からは、自分でもどんな感情なのかわからないけれど、涙が流れていた
私はこの日のことをきっと忘れない
あ、ゲーミングPCは無事買えて、快適なゲーマーライフを楽しんでます