距離が離れていても、わざわざ近くによってから、道行く人とすれ違う瞳
諸田 瞳は道を歩くと、積極的に対面の人へ近づき、すれ違う
落ち込んでいる時や、イライラしている時など、ストレスがかかっている時、彼女はすれ違いざまに、ほんの少しだけ相手の元気を吸収するのだ
もちろん、元気のある相手からしか吸収しない
そこはちゃんと配慮する
そして、これを繰り返すうち、彼女は前向きな思考を取り戻してゆける
しかし、瞳は元気をもらってばかりではない
彼女の能力は一方的に元気を吸収するだけではないのだ
逆に元気を与えることも可能である
相手の元気度が見える瞳は、自分のテンションが上りまくり、おかしなことをしそうになると、自分の元気を、強いストレスがかかっている他人へと譲渡する
ただ、他人へ譲って自分が落ち込むことがあれば本末転倒なので、瞳は譲渡する量の調整にはしっかりと気をつけており、何も問題は起こらない
自己犠牲の精神などは持っていないのだ
この能力は、パッとしないな、と本人は思っている
しかし、この能力のおかげで普段から快適な生活ができているのも確かだ
いい気分の相手から影響のない範囲とはいえ、元気を奪うような真似をしていることに関して、少し悪いな、と思いはするが、その代わり、気分が落ち込んでいる相手には自分の元気を与えているのだから、別に問題はないだろう、と考えて今日もすれ違いざまに元気をちょっとずつもらう瞳であった
スライムって聞いて、青い青い、綺麗で透き通った可愛らしいモンスターを想像してたらしいんですよ
でも実際見たら、あいつらやっぱりモンスターだ、と気づいてくれたようです
汚さを感じさせる変な青さと、可愛さとは程遠いドロッドロした不気味な見た目
触れたものをジュッという音とともに溶かすあの恐怖
ザコモンスター?
とんでもない!
物理攻撃は効かない
武器はダメにされる
仲間に魔法使い必須
一度捕らわれると、窒息しながらじわじわ溶かされる
決して一人では立ち向かってはいけない凶悪モンスター
それが奴らなわけです
勇者様の元の世界では、なんかマスコット的な姿で出てくる創作物があったらしいですけどね
この世界にはそんな生易しいスライムはいませんよ
転移したての勇者様には、まだスライムは早いので、ワイルドラビットあたりで実戦経験を積んでもらいます
……なんて考えてました
昨日までは
勇者様、元の世界でバリバリの軍人やってたらしいです
長い戦争中に転移したらしく、実戦経験は豊富
敵からは「死神」、味方からは「死に嫌われた男」と呼ばれるほどの強さだったそうです
そんな人が魔法まで使えるようになったらどうなるか
彼にとってスライムなんてザコでした
スライムの青い体が一瞬で弾け飛びました
初級冒険者の鬼門と呼ばれ、中級ですら苦戦必至のスライムを、一撃のもと葬ったわけです
汚らしく青い青いスライムは、汚らしく青い青い、ただの粘り気のある水たまりと化しました
私は恐怖を感じるとともに、彼なら魔王を倒せると確信しましたよ
私も仲間として付いていきますが、正直、もう彼一人でいいんじゃないかな、などと無責任なことを考えてしまっても誰も責められないんじゃないかと
これが勇者様の言っていた無双ってやつですか?
あれは小学生の頃
夏休みに親の実家へと遊びに行った僕は、行きの高速道路で隣の車の同い年くらいの子と睨み合ったり、お菓子を食べたりしながら、ラジオが流れる車内で退屈していた
それでも、祖父母に会うのは楽しみだったので、我慢するのはそこまで苦じゃない
時折、いい景色も見られたしね
二時間くらいかけて、ようやくたどり着いた時はワクワクが止まらなかったな
毎年二回は最低でも来るわけだけど、僕は毎回こんな感じでワクワクしていた
で、学校でのこととか、ハマってることとか、色々なことを祖父母や親戚と話しながら楽しく過ごしていたんだ
そんな中で両親と祖父母、他の親戚たちがたまたま用事が重なって、みんな出かけていってしまうことがあった
僕はどうせ来てもつまらないだろうからと、両親に留守を任されてね
別につまらなくてもよかったんだけど、僕が不機嫌になるかも、と思ったらしい
家に残ったのは、僕と高校生のはとこのお姉さん
会うのは初めてだったから、僕はちょっと緊張気味だったよ
お姉さんはちょっといたずらっぽく笑って、「内緒でちょっと二人で出かけようか」と言ってきた
僕は面白そうだったので、外へ連れて行ってもらうことにした
連れて行ってもらったのは、家から少し距離のあるおしゃれな喫茶店
前から行きたかったけど、ちょっとチャンスがなかったのだそう
ちょうどいいから僕のことも連れて行こうと思ったらしい
親以外と外食をするのが初めての僕は、ドキドキした
なんか悪いことをしているような、なんとも言えない気持ち
けれども嫌な感じではなかった
僕とお姉さんは同じ、ボリューミーなパフェを頼んだ
お姉さんと雑談しながらパフェを食べる時間は楽しかったよ
面白い話もたくさん聞かせてもらった
けど、食べ進めるにつれてだんだん甘さがきつくなってきて、それでも無理して完食した頃には、口の中が気持ち悪くなって、あれは苦しかったな
お姉さんは帰るまで終始心配してくれて、僕もなんか、悪いことしちゃったな、なんて気分になってね
本当に、アレは今でも気持ち悪くなりそうなくらい甘い思い出だったよ
ん?なんか不満そうだね?
甘い思い出って聞いたから、はとこのお姉さんに初恋をしたとか、そういう話だと思ったって?
いやいや、僕の初恋はそれよりちょっと早いよ
当時のクラスメイトの木村さんだよ
歳上の高校生に対しては、当時の僕は恋には落ちない感じだったな
いやでも、お姉さんは優しかったけどね
妹はいたけど、弟もほしかったらしいから、僕のことは可愛がってくれたよ
今でもたまに連絡取ってるんだ
まぁ、仮に期待されてるような甘い思い出があっても、絶対に誰かに話したりせず、自分の心の中にとどめておくけどね
私は風の巫女
先代から役目を受け継いで、風からこの世の様々な事象を感じ取り、伝えている
先代は色々なことを私に教えてくれて、私もそれが楽しかったんだけど、ひとつだけ不満が
教える時の言い回しが、ちょっと嫌だ
風と対話するのです
なんて言われてもね
人じゃないから、対話なんてできないよね
つまり風の動きを見ろっていうのを、対話っていうふうに例えてるんだろうけど
先代も言うことが回りくどいな
風をうまいこと観測しなさいって言えばいいじゃん
他にも風と心を重ねてとか
風と絆を結んでとか
あんまり気取った感じで教えられるの、好きじゃないから勘弁して欲しかった
……なんて言ってると、未熟で生意気なやつが反発してるだけで、いつか失敗してその時初めて先代の言ってることがわかる……みたいな展開になると思うじゃん?
ならないから
残念ながら絶対にないから
先代から役割引き継いで何年経つと思う?
300年よ、300年
先代なんて教えることなさすぎて280年前から暇そうだよ
むしろ、私は新しく風から情報を詳しく観測する方法を発明して、300年前より確実に色々なことがわかるようになったからね
むしろ先代にその方法を教えたし
調子に乗ってるつもりはないけど、私は歴代の中でも実力トップクラスなんだよ
ま、実は最近、なんで対話とか言ってたのか、わかってはきたけどね
普通の巫女候補は対話とか、絆を結ぶとか、擬人化したほうが、感覚を掴みやすいらしくてね
ただ、私は天才だった
例えとか関係なく、即座に感覚を掴み、能力を使いこなすことに成功した
あとは勉強と、能力の研鑽を続ければいいってだけ
天才の私はそのあたりもつまづかなかったから、継承は楽勝だったね、アッハッハ!
しかし、ここで問題発生!
天才ゆえの苦悩!
次期巫女が私の教え方では全く理解してくれない!
私も何故理解できないのか理解できない!
なにせつまづいたりした経験がないから!
風と対話するのです
とか口が裂けても言えない
言いたくないんじゃなくて、対話とかの感覚がわからないから、下手に言えない
わたしはさじを投げた
ここは先代に任せよう
たぶん、教えるのは先代のほうが上手い
その後、暇してた先代はやる気をたぎらせ、久しぶりに心の底から楽しそうにしていた
一件落着、継承はなんの問題もなく行われるはず
さて、あと数年で私もお役御免だけど、私が次の子に教える必要はないから、継承までは役目に集中できるな
ん?
教える必要がない?
ちょっと待って
継承後は本来、私がしばらく次の子の補助をやることになるわけだけど、私は天才なせいで教えられないから、私の先代が補助するわけじゃん
ということは、私やることないな
げっ、これから退屈な日々が始まる!?
それはまずい!
ちょっと、神殿の人たちに趣味とか聞いて参考にして、なんかやること増やさないと!
暇そうだった先代のようにはなりたくない!
そうと決まれば仕事の後に聞いて回るぞ!
わしの栄光への軌跡を聞かせてやろう!
ハッハッハ、退屈そうだって?
そう言わんでくれ
暇なわしを楽しませると思って、な?
自慢話が鬱陶しいのはわかるが、頼む!
……さて、まずはアレだ
わしは幼い頃、病気がちで、まともに学校へ行けてなかった
非常に寂しかったね
友達と校庭で走り回るとか、憧れたよ
だが幸い、成長するにつれて体は丈夫になっていったんだ
中学に上がる頃には、人並みの健康を手に入れた
まあただ、それでめでたしめでたし、とはならなかったんだ
勉強をする機会が限られてたからなぁ
当たり前だが、わしは全然授業についていけなくてね
それはもう、将来のために死に物狂いで自習をしたわけだ
最初の一年くらいはつらかったよ
遅れを取り戻すために、遊びを捨ててしまったんでね
周りの同級生からも、勉強にしか興味ないやつだと勘違いされてしまって、敬遠されてな
友達はできなかったんだ
中学卒業後は、高校へ行ったんだがな、そこではわしもそれなりに楽しくやれた
わしはな
高校が合わずに去っていったり、馴染めずに独りだった生徒が何人かいた
かつての自分を見ているようで悲しかったよ、アレは
わしはなんとかしたかったが、その時は勇気もなければ、いい案も浮かばなかったんだ
その時の無力感はずっと残ったな
しかし、そこで残念だなと思ったままで終わるわしではなかったのだよ
卒業後、今までの人生経験を踏まえて、やりたいことができたわしは、また猛勉強した
そして、学校で勉強をする機会がなかったり、学校が合わず、通えない子供たちの居場所を作るための団体を作った
病気なんかで学校へ行かれない子には、勉強や遊びの機会を
学校に通えない子には、代わりとなる場を
それぞれ作り出した
ま、そうそう上手くいくもんじゃないが
最初は非難されたり怪しまれたりしたもんだ
それでも必ず必要とする人はいると信じてたね、わしは
そして、わしの読みは当たった
利用してくれる子達は段々と増えていったんだよ
キラキラしてる子達を見て、わしも青春してる気分よ
まぁ、そんな感じで今に至る、と
途中途中でもまだまだ色んな苦労とかあったけど、この辺にしとこうか
おっと、わしの話から何か学び取ろうとか、そんな事は考えんでいいからな
ここまで頑張ってやったぞ!なんていう自慢話がしたかっただけだからな
ほんと、最近だぁれも褒めてくれんのだよ
わしは相当に頑張ってるんだがね
ってわけで、褒めてくれ
んで、わしのすごさを言いふらしてくれ
わし、すごくないか?
おっと、自慢しすぎると自分の言葉の価値が下がる
なにはともあれ、今日はわしのくだらん自慢に付き合ってくれてありがとな