私は風の巫女
先代から役目を受け継いで、風からこの世の様々な事象を感じ取り、伝えている
先代は色々なことを私に教えてくれて、私もそれが楽しかったんだけど、ひとつだけ不満が
教える時の言い回しが、ちょっと嫌だ
風と対話するのです
なんて言われてもね
人じゃないから、対話なんてできないよね
つまり風の動きを見ろっていうのを、対話っていうふうに例えてるんだろうけど
先代も言うことが回りくどいな
風をうまいこと観測しなさいって言えばいいじゃん
他にも風と心を重ねてとか
風と絆を結んでとか
あんまり気取った感じで教えられるの、好きじゃないから勘弁して欲しかった
……なんて言ってると、未熟で生意気なやつが反発してるだけで、いつか失敗してその時初めて先代の言ってることがわかる……みたいな展開になると思うじゃん?
ならないから
残念ながら絶対にないから
先代から役割引き継いで何年経つと思う?
300年よ、300年
先代なんて教えることなさすぎて280年前から暇そうだよ
むしろ、私は新しく風から情報を詳しく観測する方法を発明して、300年前より確実に色々なことがわかるようになったからね
むしろ先代にその方法を教えたし
調子に乗ってるつもりはないけど、私は歴代の中でも実力トップクラスなんだよ
ま、実は最近、なんで対話とか言ってたのか、わかってはきたけどね
普通の巫女候補は対話とか、絆を結ぶとか、擬人化したほうが、感覚を掴みやすいらしくてね
ただ、私は天才だった
例えとか関係なく、即座に感覚を掴み、能力を使いこなすことに成功した
あとは勉強と、能力の研鑽を続ければいいってだけ
天才の私はそのあたりもつまづかなかったから、継承は楽勝だったね、アッハッハ!
しかし、ここで問題発生!
天才ゆえの苦悩!
次期巫女が私の教え方では全く理解してくれない!
私も何故理解できないのか理解できない!
なにせつまづいたりした経験がないから!
風と対話するのです
とか口が裂けても言えない
言いたくないんじゃなくて、対話とかの感覚がわからないから、下手に言えない
わたしはさじを投げた
ここは先代に任せよう
たぶん、教えるのは先代のほうが上手い
その後、暇してた先代はやる気をたぎらせ、久しぶりに心の底から楽しそうにしていた
一件落着、継承はなんの問題もなく行われるはず
さて、あと数年で私もお役御免だけど、私が次の子に教える必要はないから、継承までは役目に集中できるな
ん?
教える必要がない?
ちょっと待って
継承後は本来、私がしばらく次の子の補助をやることになるわけだけど、私は天才なせいで教えられないから、私の先代が補助するわけじゃん
ということは、私やることないな
げっ、これから退屈な日々が始まる!?
それはまずい!
ちょっと、神殿の人たちに趣味とか聞いて参考にして、なんかやること増やさないと!
暇そうだった先代のようにはなりたくない!
そうと決まれば仕事の後に聞いて回るぞ!
5/1/2025, 11:45:04 AM