わしの栄光への軌跡を聞かせてやろう!
ハッハッハ、退屈そうだって?
そう言わんでくれ
暇なわしを楽しませると思って、な?
自慢話が鬱陶しいのはわかるが、頼む!
……さて、まずはアレだ
わしは幼い頃、病気がちで、まともに学校へ行けてなかった
非常に寂しかったね
友達と校庭で走り回るとか、憧れたよ
だが幸い、成長するにつれて体は丈夫になっていったんだ
中学に上がる頃には、人並みの健康を手に入れた
まあただ、それでめでたしめでたし、とはならなかったんだ
勉強をする機会が限られてたからなぁ
当たり前だが、わしは全然授業についていけなくてね
それはもう、将来のために死に物狂いで自習をしたわけだ
最初の一年くらいはつらかったよ
遅れを取り戻すために、遊びを捨ててしまったんでね
周りの同級生からも、勉強にしか興味ないやつだと勘違いされてしまって、敬遠されてな
友達はできなかったんだ
中学卒業後は、高校へ行ったんだがな、そこではわしもそれなりに楽しくやれた
わしはな
高校が合わずに去っていったり、馴染めずに独りだった生徒が何人かいた
かつての自分を見ているようで悲しかったよ、アレは
わしはなんとかしたかったが、その時は勇気もなければ、いい案も浮かばなかったんだ
その時の無力感はずっと残ったな
しかし、そこで残念だなと思ったままで終わるわしではなかったのだよ
卒業後、今までの人生経験を踏まえて、やりたいことができたわしは、また猛勉強した
そして、学校で勉強をする機会がなかったり、学校が合わず、通えない子供たちの居場所を作るための団体を作った
病気なんかで学校へ行かれない子には、勉強や遊びの機会を
学校に通えない子には、代わりとなる場を
それぞれ作り出した
ま、そうそう上手くいくもんじゃないが
最初は非難されたり怪しまれたりしたもんだ
それでも必ず必要とする人はいると信じてたね、わしは
そして、わしの読みは当たった
利用してくれる子達は段々と増えていったんだよ
キラキラしてる子達を見て、わしも青春してる気分よ
まぁ、そんな感じで今に至る、と
途中途中でもまだまだ色んな苦労とかあったけど、この辺にしとこうか
おっと、わしの話から何か学び取ろうとか、そんな事は考えんでいいからな
ここまで頑張ってやったぞ!なんていう自慢話がしたかっただけだからな
ほんと、最近だぁれも褒めてくれんのだよ
わしは相当に頑張ってるんだがね
ってわけで、褒めてくれ
んで、わしのすごさを言いふらしてくれ
わし、すごくないか?
おっと、自慢しすぎると自分の言葉の価値が下がる
なにはともあれ、今日はわしのくだらん自慢に付き合ってくれてありがとな
私は自分を好きになれない
かといって嫌いにもなれない
いや、なれないなんて言い方だと、どちらかになりたがっているみたいだ
ハッキリ言って、私は自分に興味がない
自分のことをどうでもよく感じる
ただ、他人が喜んだり、楽しんでいる姿を見るのは好きだ
私は私自身に価値を見いだせないけど、私から見た他人はとても尊い存在に感じる
誇張でもかっこつけでもなく、断言できる
たぶん、私は見ず知らずの相手のために、命だって捨てられるはず
いつからだろう、自分に降りかかった不幸で泣かなくなったのは
いつからだろう、自分に与えられた幸運で笑わなくなったのは
思い出せないけど、別に思い出す必要もない
たぶん、自然とそうなっていたのだろう
ただ、そのことで周りを悲しませたりするのは本意ではない
だから、私は周囲の人のために、自分事で喜ぶフリや、悲しむフリをするようになった
実際は感情なんて動いてないけど
私の感情が動くのは、いつも他人に何かが起きた時だけ
喜びも悲しみも、客観的だ
これからもずっと
そう思っていた
友達が遠くへ引っ越すことになったらしい
その友達は、どんな些細なことでも喜んで、よく笑って、よく泣く子で、見ていて楽しい
向こうは私のことを親友だと思っている、と思う
私も、感情豊かなその子を見るのが好きだった
寂しくなるね、と残念そうに言う彼女を見て、心に痛みが走った
悲しそうな顔をしていたから?
違う
そういう痛みじゃない
初めて感じる、もっと中から出てくる痛みだ
困惑しながら、感情の正体に気づいて、さらに困惑する
嫌だ
離れたくない
もっと一緒に遊びたい
色々な話をしていたい
いなくなるなんて寂しい
自分の中で、自分本位な望みが溢れるのを感じた
これまでの人生で一番驚いたと思う
こんな感情が、私から出て来るとは予想外だった
私は、自分を好きになれない、嫌いになれない
前までは確かにそうだった
けど、今わかった
友達と過ごすうち、私は自分事で喜べるようになっていたし、悲しめるようにもなっていた
友達のおかげで、自分のための欲が出てきたのだ
自分のために何かをしたい
それは、自分のことが好きということ
私は、私のことがどうでもよくなくなっている
泣く私を見て、友達は微笑んだ
やっと自分のために悲しめたね、と
自分に興味がないことに気づかれていたようだ
たまに会いに来るから、その時は自分のために喜ぶのも忘れずに、と加えられた
それから、私は自分のことを大切にするようになった
他人のためになんでもできるような人ではなくなったけど、自分を捨てて他人のためだけに動けるほうがおかしいのだ
自分も他人も、大切にする
今の私ならそれができる
それが、本来あるべき姿なんだと思う
夜が明けた
あと少しで捕まえられそうだったんだけどな
残念だけど、霊界へ帰らないといけない
僕は幽霊
夜な夜なターゲットを見繕っては、追いかけ回す
僕に捕まったら、相手は霊界へと連れてかれ、仲間の幽霊に散々脅かされたあと、人間界へ帰されるのだ
悪趣味だろう?
僕は悪趣味なことが大好きなので、毎晩そんなことをやって遊んでいる
ただ、最近は成績が振るわない
ここのところ、ターゲットにした人たちはみんな、うまく夜明けまで逃げ切ってしまう
僕の噂が広まりすぎたのかな?
まさか、攻略法が知れ渡っていたりして
……このままではマズい!
ここらで誰か捕まえて、僕の実力を見せつけてやらないと!
夜明けまで二時間
よさそうなターゲットを見つけた
バイクで走ってるなら、僕の実力を示すのにちょうどいい
追跡開始
追跡直前、バイクの人が別の通行人になにかしていた気がするけど、まあどうでもいいや
バイクの人は僕に気がつくと慌てた様子で速度を上げた
相手はバイクだし、事故になっても困るから、僕の力で人払いしておこう
こうして、追走劇が幕を開けた
で、結果を言うと、捕縛は成功
気合を入れて臨んだわけだけれど、案外30分くらいであっさりと捕まえられて、散々仲間たちと霊界で怖がらせた
バイクの人は「もう二度としません!」とかよくわからないことを言っていた
どういう意味?
次の日、ターゲットを探していると、近づいてくる人がいた
なんだなんだ?
誰かから近づかるるのは初めてだぞ
なにかと思ったら、その人は唐突にお礼を言ってきた
話によると、昨日のバイクの人はひったくり犯で、この人のバッグを奪ったらしい
僕が捕まえた所が、ちょうど元のひったくり現場だったらしく、警察とこの人がいる目の前だったそうだ
そしてしばらくして霊界から戻り、憔悴しきったバイクの人は、御用となったという
あの時のもう二度としませんって、そういう意味だったのか
僕に罰を与えられたと思ったんだろう
気まぐれで僕は、昨日ひったくられたその人を家まで送った
あのバッグの中には、子供の誕生日プレゼントも入っていたらしく、道中も感謝されっぱなしだった
時間も経ってしまったし、今日のところは追いかけるのは中止にしよう
余った時間、適当に散歩したあと、いつも通り夜が明けたことで、僕は霊界へ帰ることとなった
追いかけ回せなかったのは残念だけど、たまにはこういうのもいいかな?
その日、自宅でちょっと軽くファンタジーに頭を支配されていた俺は、ふとした瞬間、こんなことを考えた
「人型の別種族になってみたいな」
それがマズかった
なんでそんなことになったか、全くわからないが、たぶん下手なことを考えてしまったからだろう
俺の体は輝きに包まれ、全身がなんとも言えない気持ち悪さに襲われて、おさまった時には体に強烈な違和感を覚えた
急いで鏡を見る
自分の頭から、後ろ向きに二本のドス黒い角が生えていた
あと耳は尖り、背中に小さい翼
魔族じゃねーか
何だこの状況
俺の脳みそは理解が追いつかず、現実を受け入れることを拒否していた
そんな風に動揺しているさなか、鳴るインターホン
こんな時に誰か訪ねてきたのかよ
とりあえず、モニターを覗く
訪問してきた人には、ドス黒い角が生えていた
魔族じゃねーか
出たほうがいいんだろうな
モニター対応とかせずに、もうドアを開けてしまおう
「こんにちは」
「ああ魔王様、お会いしたかったです」
俺は知らないうちに魔王になっていたらしい
偉くなったもんだ
「あの、いつから俺は魔王になったんですか?」
「さきほど、あなたが念じた瞬間です」
なにがなんだかわからないんですが
と、目の前の魔族の背後に広がる町並みを見ると、建物の様子がおかしかった
なんか、ファンタジー世界の建物を現代にあわせてアレンジしたかのような姿
えっ、世界観いつの間に変わったの?
「あなたの願いをどこぞの神が勝手に拡大解釈して叶えてしまったのです
そして、この世は高度なファンタジー文明世界に変わってしまったわけで、実は私もさっきまではただの会社員でした」
聞くと、全人類がなんらかのファンタジーな存在になっており、願いの発生元の俺以外は、なぜかこの状況を理解しているらしい
「私たちは元の生活に戻りたいので、是非とも魔王様にはその神との交渉、場合によっては実力行使をして世界を戻してほしいのです」
俺のなにげない思考によって大変なことになったな
どう考えても俺は悪くないけど、原因の一端を担うものとして、責任は取りたい
仕方ないので、俺は世界を改変した神のもとへ向かうことにした
「勇者などが襲ってくるかも知れませんので、気をつけましょう!」
勇者襲ってくんのかよ
「勇者って、元々の世界にもいて、別の人生歩んでたんですよね?」
「はい
元の世界よりこの世界のほうがいい人は、勇者として覚醒しました
元の世界を取り戻すために今の世界を滅ぼす魔王様を倒せば、結果この世界を守ることになるため、勇者と呼ばれています」
世界を滅ぼす魔王を打倒する
字面だけ見たら確かに勇者だわ
動機は現実逃避染みてるけど
ま、俺は他人がどうだろうと元の世界の生活が気に入ってるので、この変な世界は滅ぼすとしよう
そして、冗談を本気に受け取って拡大解釈したどっかの神には文句を言わねば
さあ、魔王の旅立ちだ!
……実はちょっとワクワクしてたけど、移動手段が馬車をモチーフにしてるものの、魔法で動くだけのただの自動車だったのにはガッカリした
私はどんなに離れていても、念じることで対象を見ることができる
ペタメートルアイという能力だ
ほぼ千里眼だが、千里眼で見える範囲が392万7千メートル先なのに対し、私のペタメートルアイは半径5京メートルの範囲を見られる
想像がつきにくいだろうが、この距離は太陽系の範囲を超える
さらに、その先にいる生物に対してテレパシーも送れるわけだが、無意味すぎてその距離に使い道がない
見るのもテレパシーも、地球の範囲内で充分だ
たまに宇宙を覗くのだが、まあ面白くない
同じような宇宙の光景の繰り返し
さらに、念じる対象がはっきりしていないので、どこかの惑星や衛星を見て研究などに役立てようとしても、ピンポイントに星の中を見ることができないのだ
せいぜい離れたところから星の姿を見る程度か
だが、そんな無駄と思える能力の高さに、転機が訪れる出来事があった
宇宙人からのメッセージが届いたらしい
しかも、地球の言葉で
そのメッセージはこうだ
「我々は宇宙人だ
そして、この星に生命を誕生させた存在でもある
我が子らよ、この星に知的生命体を誕生させたいという我らが願いを叶えてくれて感謝する
我々の期待通り、君たちは永い進化の末、誕生してくれた
だが君たちは今、とても大きい、いくつもの困難を抱えているようだ
我々は皆の意思を尊重しながら、よりよい社会にするべく、生みの親として助力したい
1ヶ月後、我々は地球へ行くが、その前に我々と打ち合わせをしてほしい
ペタメートルアイを持つ者がいると思う
彼を介して話をしよう
我々は今、太陽系付近にいる
我々の存在を念じれば、彼の眼ならば届くだろう
テレパシーで会話もできるはずだ
惑星オノコロ ヤオヨロズ・シン族より」
我々は宇宙人に創られた存在らしい
衝撃的事実だが、それはともかく、私は宇宙人との対話や仲介役を任されてしまった
責任重大だ
私の眼の射程範囲がこんなところで役に立つとは思わなかった
とても緊張するが、これは私にしかできない
地球の行く末は私の能力にかかっているのだ
そして緊張と同時に、彼らがどのような姿で、どのように話すのか、興奮が抑えきれない自分もいる
さあ、あと少しで、ペタメートルアイとテレパシーで、宇宙人に接触する時間だ