たしかにね、死にゲーでもないのに同じ敵に三十回以上負けてるよ?
でもこれ、ベリーハードだから
ベリーハードなんてほとんど死にゲーみたいなものだから
その難関を打ち破った先に、達成感という快楽があるんだよ
そして、苦しんだ分だけその快感は高まるわけだ
だから絶対に僕は難易度を下げないぞ
どんなに敗北しても、何度コントローラーをぶん投げたくなっても、このゲームの難易度はやさしくしないで制覇してみせる!
僕は今まで基本ノーマル、たまにクリア後ハードに挑戦してみるくらいの人生だったから、一度くらいはベリーハードとかの高難易度を初見で自力クリアしたいんだ
これを制覇したら次は最高難易度にも挑む所存だよ
だけど、今はベリーハードだ!
難易度は下げず、何度負けても諦めない!
さあ、またボスに挑戦だ、先はまだ長い!
それは、小学校を卒業した直後のことだった
まだ赤ちゃんの頃に両親を亡くした私を引き取った、母方の伯母さん夫婦が、私への手紙を隠していた
その隠された手紙は魔法界の学校への招待状で、伯母さん夫婦は私が遠くに行ってしまうのが悲しかったから隠していたそうだ
けど、迎えが来た日、覚悟を決めて手紙のことを明かしたという
どうやらドッキリではないらしい
そんなこんなで、私は魔法界の学校へ通うことになった
学校の先生に連れられて、山手線の池袋駅から、人間界とは位相のずれた世界へと入る
漫画とかで位相のずれた空間とか聞いた気がするけど、よくはわからない
入ったそこは、人の少ないただの池袋駅だった
「私のお母さんやお父さん、闇の帝王に殺されたりしたんですか?」
歩きながら聞くと、先生は訝しげな顔をした
「いや、事故に巻き込まれてしまったって聞いたよ?」
あ、そうなんだ
まあ、たしかに私の額は傷ひとつないな
「先に言っておくけど、あまり魔法界や学校の授業に期待しすぎないようにね」
どういう意味だろう?
「たぶん、魔法の杖で炎出したり、グリフォンと触れ合ったりとか想像してると思うけど、そんなのないから」
ん?無いの?
「あの
城で勉強したり、箒に乗ってスポーツしたりとかはあるんですか?」
「あー、まあ、それ期待するよね
割と普通の建物で普通に勉強するよ
それと、現代ではあんまり箒には乗らないなあ
公道では違法だしね
あとは、見ればわかるよ」
公道って言った?この先生
すごく嫌な予感がした
池袋駅を出ると、ある意味驚きの光景が広がっていた
整備された道、ガードレール、ビル群
大通りを走る車、スマホをいじる人、自転車で走る人
超見慣れた光景
は?
「言いたいことはわかるよ
でも聞いて
人間界に、高度に発達した科学は魔法と変わらないって言葉、あるでしょ?
知ってる?」
「聞いたことはあります」
「高度に発達した魔法はね、科学と変わらないんだよ、ごめんね
あと、魔法の杖は杖ロッド法違反になるから、警察や猟師とか、許可された人しか持てない
アメリカは杖社会だから一般人も持ってるけど」
うわあ、現実味のある言葉の数々
今までとほぼ何も変わらない
私の来た意味は?
「魔法使いはね、人間界にずっといると、魔力が枯渇して体調不良や魔力障害が起きるから、君くらいの年齢までに魔法界に来ないと、下手すると命に関わるんだよ」
ああ、命に関わるようなちゃんとした理由で連れてきたのかあ
「がっかりするよね、でも世の中、そんなものだから」
まあ、全然違う環境に入れられるよりはいいのかもね
聞いたら、人間界の本やゲームとか、魔法界にしかない本やゲームとか、色々あるみたいだし
なんか、ネットも人間界のアプリやページが見られるってさ
「人間界に里帰りとかってできますか?」
「ああ、それは大丈夫
十年単位で長くいなければ、しばらく人間界でも生活できるよ
夏休みとか、人間界で育った子はたいてい里帰りしてるし」
よかった
じゃあ、いっか
正直、ボッチで友達はいなかったから、そのあたりの未練はないけど、伯母さんたちには会いたいから
それにしても、ちょっと残念ではあるなあ
ファンタジー感あふれる世界を想像してたからなあ
ちなみに、私が通う学校、市立第二中学校だってさ
キミはたくさんの友達ができたね
一人で寂しがっていたキミが、心を許せる人たちと出会えたんだ
ボクは今、とても嬉しい
キミに本当の友達ができるまで、キミの寂しさを和らげて、友達を作る手伝いをする
それがボクの役目
キミの努力をずっと見ていた
挫けそうになっても、勇気を出して何度も頑張っていたね
その努力が実を結んだんだ
キミがボクにくれた、たくさんの優しさ
それを、これからは人間の友達に与えてあげてほしい
キミとの日々は楽しかったよ
ありがとう
でも、もうボクがいなくても大丈夫
はじめは寂しいかもしれないけれど、キミなら前を向けるはず
だってキミの周りには、キミのことを思ってくれる友達がたくさんいるんだから
もし、キミがボクのことを大切な友達だと思い続けてくれるなら、いつかまた、きっと会えるよ
だから、その時まで
バイバイ
僕は現在、旅の途中だ
この広大な世界を駆け抜けている
途中途中の景色を楽しみながら、目的地へと進むのだ
たまに街などで補給をしながら、人々の話に耳を傾けるのも楽しい
街の外では魔物と交戦することもあるけど、それも経験だ
討伐すれば、街の人から報酬をもらえたりするしね
他にも、行ったことのない洞窟なんかを発見するとワクワクする
時にはそんな寄り道も大事だろう
新たな発見が待っているからね
まあ、たまに油断してひどい目にも合うけれど、そういうこともあるさ
僕は適度な不便さを楽しむのも好きなので、基本的にファストトラベルは使わない
ん?なんの話かって?
オープンワールドRPGに決まってるじゃないか
今、ハマってるんだ
私たちがある計画を実行しようとしていることを、まだ知らない君
クックックッ、油断しているね
油断しきって夢の中だね
私たちが裏であんな計画を立てているなんて、思いもよらないだろうなぁ
君の顔が驚愕に染まる様が目に浮かぶようだよ
私はこの時が来るのをずっと待ってた
計画を企てながら、早くこの日が来ないかと待ちわびていたんだよ
実行に移すのは今!
今日、この時、ついに行動を開始する!
まずは、目覚ましよりも早く君を叩き起こす
そしてそして、両親とともにリビングで深刻そうな顔をする
さらに重大な事態を切り出すような感じで話し始め、最後、トドメと言わんばかりに、君が前から行きたがっていた、テーマパークの予約済み画面のスクショを叩きつける!
「ユニークスタジオジパングの予約、ゲットだぜ!」
決まった!
君の驚く顔が、顔が、アレ?
なんかニコニコしてない?
「姉ちゃん、甘いな
俺は日帰りなんかじゃ満足できないよ」
え?え?
何言ってるの?
うわっ、なんかスマホの画面を突きつけてきた!?
「これを見よ!
姉ちゃんが行きたがってた、太平洋堂フィギュアミュージアムと、その他大阪観光名所へ行くための一泊二日ホテル予約済み画面のスクショだー!」
な、なんだってー!
太平洋堂フィギュアミュージアムだとー!?
私を出し抜いてこんな逆ドッキリ仕掛けてきおったー!
そ、そういえば私にドッキリを持ちかけたのは両親!
ま、まさか、まさかまさか!
このドッキリは初めから君が仕組んだものだったのか……!
こんな、私を喜ばせるためにここまで手の込んだドッキリをしてくれるなんて
まだ知らない君の一面を発見したよ
完敗だ
もう私が君に教えることはない
立派に成長したね、弟
姉ちゃん嬉しい……!
まぁ、それはそれとして、USZとフィギュアミュージアム、楽しみだなっ!
他の名所もねっ!