我は大空を翔ける、人からドラゴンと呼ばれる存在だ
はるかな昔、人々は我を恐れ、近寄ることはなかった
様々な自然災害の原因を我の怒りに求めるなどし、我に対して祈りや供物を捧げるなどしていたが、正直、我に祈られても困る
供物もたいして美味くないしな
せっかくだから食べたが
それから後の時代には、勝手に災害の原因にした上で、我を討伐しようとする不届きな輩が現れ始める
我を討ったところでお前たちの問題は解決しないと言っても聞く耳を持たん
ふざけおって
どこにでも自分たちの不都合の責任を他者に押し付けて、解決した気になる連中はいるものだ
殺す気はなかったので、大迫力の火炎放射を間近で見せるにとどまったが、それで恐れをなして逃げていったわ
さらに時代は進み、人間界では様々な研究が進み、災害の仕組みもある程度わかってきたらしい
供物だの討伐だの、言ってくる者はいなくなった
その代わり、我を研究したいという人々が現れた
我は痛かったり、おかしなことをされるのは嫌だったのだが、そういったことはせず、色々と話をしたり、負担にならない程度に生態を調べさせてほしいと言うので、熱意に負け、我は承諾した
人との会話や文化に興味もあったしな
研究者たちとの会話は楽しく、我は充実した日々を送れた
ある日、我のもとへ最も熱心に通う一人の研究者が、遠慮がちに空を飛びたいから背中に乗せてくれないかと頼んできた
安全を確保した上でならいいと返事をすると、研究者は喜んだ
人間は空を飛べないから、憧れるのだろう
そうして研究者を乗せて、空を飛んだが、なんと、彼は気絶してしまった
少し速すぎたようだ
しかし、研究者は気絶しないように頑張るから、また乗せてほしいと言ってきた
まあ、彼が望むなら、我はかまわぬが
そうして何度か空を飛ぶと、研究者は慣れてきて、気持ちよく楽しむことができるようになった
こうして、この大空を誰かと楽しく飛ぶなど、昔は考えもしなかったが、こういうのも悪くない
飛んでいる最中、研究者が我に名はないのかと尋ねられた
我に名はないと答えると、つけてもいいかと聞かれた
我は彼を友と思っていたので、彼から名をつけられるのならば、それはとても喜ばしいことだ
我は承諾した
彼は前もって考えていたらしき名を我につけた
我がいつも翔ける「空」を意味する、「シエル」、と
シエル、か
我に相応しい、素晴らしい名だ
我はこれからも、友と空を翔けよう
あっ、なんか演奏会やってる
ハンドベルの演奏かあ
私は昔、やってみないかって誘われたけど、プレッシャーに押しつぶされて断ったな
失敗したらすごく目立つだろうからね
ハンドベルの音色は好きなんだけど、私は聴く専門がいいよ
今も演奏してみようとは思わないかな
やっぱり、責任が重い感じがするんだよね、複数人の中で一人一人が順番に一音ずつ鳴らすのは
だからあんな風に楽しげに演奏してる子達を見ると、尊敬の眼差し向けちゃうよね
プレッシャーを跳ね除けて、あんないい笑顔でハンドベルを鳴らしてるわけでしょ
すごいって
聴く側も、心地よく聴けるよね
それにしても、やっぱりハンドベルの音色っていいな
きれいな音だよね
なんか、別に落ち込んでたわけじゃないけど、元気をもらった気がするよ
私は名の知れた魔法使いだ
私を指して偉大な賢者、などという者もいる
自分でも、なかなか頑張って、魔法を使い他人のために働いてきたと思っている
私に憧れてくれたり、教えを請うてくる者も老若男女問わず現れる
私の積み上げてた技術を、様々な人々に教えるのは充実した日々だ
この齢になっても、楽しく過ごせているのは、幸運なことだろう
だが、少し寂しさを感じることもある
私は名声が上がりすぎた
周囲の人々は、私を尊敬の目で見て来る
その尊敬が強すぎて、遠慮しながら話すのだ
気づけば私は、友と呼べる者が一人もいない存在になっていた
私の生きる日々はとても素晴らしいものだ
しかし、物足りなさを感じるのも事実
叶うならば、私を対等に扱ってくれる友が欲しい
だが、これだけ恵まれている私がこれ以上を望むのは、贅沢が過ぎるだろう
そういえば、私と同じ学園で学び、夢破れた彼は今、どうしているだろう
彼に私が物足りなさを感じるなどと言ったら、怒られるかもしれないな
お前は夢を叶えたのに、まだ欲しいのか、とね
そんなことを考えていたら、久方ぶりに彼が訪ねて来た
私同様、年老いてはいたが、元気そうだった
彼は夢破れたあと、また新たな夢、目標を見つけたらしい
そして、その夢を叶えたのだそうだ
先に夢を叶えた私に、今の自分を見てほしくて会いに来た、とのことだ
私は嬉しくなった
彼がどうしていたか、気になっていたが、新たな夢を叶えられたのなら、とても喜ばしいことだ
彼は長らく姿を見せなかったことを謝ると、また、友として話をさせてほしいと言ってきた
もちろんよろこんで、と答えた私は、気付けば涙を流していた
私の中に空いた最後の心の穴が、彼によって埋められた気がした
私には、友と呼べる者が確かにいたのだ
冬は一緒にコタツにでも入ってさあ、ゴロゴロしていようよ
寒い時は動かないに限るよ
あんまり体温下げたり、気温の低いところにいると命に関わるからね
それに、コタツはあったかいよ
すんごく気持ちいいよ
とっても心地良いよ
誰もコタツの魔力には逆らえないんだからさあ、諦めて寒さを忘れてゴロゴロしようよ
一度入ったらヤミツキだよ?
だいたい一人でコタツに入ってゴロゴロしてても暇なんだよね
話し相手とか欲しいわけよ
え?そんなのに付き合う気はないって?
どっかへ出かけたいの?
まあ、そっちが嫌ならいいんだけど
でもねえ、外に出て後悔しても知らないよ?
寒空の下、ブルブル震えて、鼻水垂らしながら、ああ今頃あいつは温かいコタツでぬくぬくしてるんだろうなあ、なーんて考えて、惨めな気持ちになるかもよ?
私とコタツに入ってゴロゴロしてれば、寒さとは無縁だし、私との会話も弾んで楽しいよ?
それでもあなたはコタツに入らず行っちゃうのかな?
私とコタツでぬくぬく仲良く喋るほうが、賢い選択だと、私は思うな
……あ、行っちゃった
本当に行っちゃったよ
あーもう、こっちはものっすごく暇だけど、コタツは温かいし外は寒いしで、もう出られない状態なのに
北風でも吹いて、寒さに凍えながら後悔しろ!
……暇だなー
さっきまでたくさんいたはずなのに、どこへ行ってしまったのだろう
ハトはいつの間にかいなくなっていた
食事の時間を終えて飛び去ったのだろうか
私はボーッとしていたらしく、いつハトがいなくなったのか、わからない
なにか少し寂しさを覚える
ハトで賑わっていた景色は、私以外、人すらいない空白になっていた
そういえば、ハトを見て何かを思いついたはずだが、私は何を思いついたのだったか
全く思い出せない
よほどボーッとしていたのだろう
記憶からこぼれ落ちてしまったようだ
文字ではなく絵や図の類だった気がする
記録しておこうと思ったのだが、あいにく紙やペンは持っていなかった
残念だ
大した思いつきではなかった気もするが、その判断は思い出さなければできないだろう
今ここに、ハトの姿は無く、記録する紙とペンも無い
とりとめもない話
鳥とメモ無い話