ストック1

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我は大空を翔ける、人からドラゴンと呼ばれる存在だ
はるかな昔、人々は我を恐れ、近寄ることはなかった
様々な自然災害の原因を我の怒りに求めるなどし、我に対して祈りや供物を捧げるなどしていたが、正直、我に祈られても困る
供物もたいして美味くないしな
せっかくだから食べたが
それから後の時代には、勝手に災害の原因にした上で、我を討伐しようとする不届きな輩が現れ始める
我を討ったところでお前たちの問題は解決しないと言っても聞く耳を持たん
ふざけおって
どこにでも自分たちの不都合の責任を他者に押し付けて、解決した気になる連中はいるものだ
殺す気はなかったので、大迫力の火炎放射を間近で見せるにとどまったが、それで恐れをなして逃げていったわ
さらに時代は進み、人間界では様々な研究が進み、災害の仕組みもある程度わかってきたらしい
供物だの討伐だの、言ってくる者はいなくなった
その代わり、我を研究したいという人々が現れた
我は痛かったり、おかしなことをされるのは嫌だったのだが、そういったことはせず、色々と話をしたり、負担にならない程度に生態を調べさせてほしいと言うので、熱意に負け、我は承諾した
人との会話や文化に興味もあったしな
研究者たちとの会話は楽しく、我は充実した日々を送れた
ある日、我のもとへ最も熱心に通う一人の研究者が、遠慮がちに空を飛びたいから背中に乗せてくれないかと頼んできた
安全を確保した上でならいいと返事をすると、研究者は喜んだ
人間は空を飛べないから、憧れるのだろう
そうして研究者を乗せて、空を飛んだが、なんと、彼は気絶してしまった
少し速すぎたようだ
しかし、研究者は気絶しないように頑張るから、また乗せてほしいと言ってきた
まあ、彼が望むなら、我はかまわぬが
そうして何度か空を飛ぶと、研究者は慣れてきて、気持ちよく楽しむことができるようになった
こうして、この大空を誰かと楽しく飛ぶなど、昔は考えもしなかったが、こういうのも悪くない
飛んでいる最中、研究者が我に名はないのかと尋ねられた
我に名はないと答えると、つけてもいいかと聞かれた
我は彼を友と思っていたので、彼から名をつけられるのならば、それはとても喜ばしいことだ
我は承諾した
彼は前もって考えていたらしき名を我につけた
我がいつも翔ける「空」を意味する、「シエル」、と
シエル、か
我に相応しい、素晴らしい名だ
我はこれからも、友と空を翔けよう

12/21/2024, 11:09:30 AM