ここには私の他に誰もいない
この静寂に包まれた部屋は今、私だけの空間だ
今日は休日で、出かける予定はない
家族はそれぞれの用事で外出中
やるべきことを早くに済ませて、
私は一人だけの時間を、何もせずに浪費していた
せっかくの休み
それも誰もいない休みに何もしないなんて、
もったいないと思う人もいるかもしれない
しかし私は、誰もいないからこそダラダラするのだ
誰かがいれば、その家族と話したり、
家族のために何かをしたり、
なにかしらのやることができてしまうだろう
だが今は一人
すべてを投げ出して、全力で休むことができるのだ
たった一人の自宅で、
ただただ何をするでもなく過ごす
これほどの贅沢はそうそうないだろう
家族が帰ってくるまで、
私は至福の時を楽しむのだ
あいつとは昔から気が合う
趣味や好きなものがだいたい似ていて、
しかもお互い程よい距離感で、
肩の力を抜いて接することができる
あいつの前では、
何も考えず素の自分をさらけ出せる
だからといって、
何でもかんでも言えるわけではなく、
やはり言いづらいこともけっこうあるのだ
それはきっと向こうも同じだと思う
そんな感じなので、あいつのいくつかの言葉から、
明らかにネットに載せている僕の小説を
あいつがそうとは知らずに読んでいると気付いても、
僕が作者だとは言えずにいる
言いたい気持ちはあるけど、
あいつは僕の小説を気に入ってるらしく、
正体を明かすのは少しこっ恥ずかしいのだ
今日も遊びながら、僕の小説の話が出てきた
昨日更新したやつだ
感想を言われると毎回毎回、
なんだかくすぐったい気持ちになる
一度読んでみてくれと言うけど、
それ、僕が書いてるんだよね、言えないけど
そんなこんなで、
遊び疲れて解散しようとなり、
お互い帰路につこうとした時、
別れ際にあいつがこんな事を言った
「小説、次の話も期待してるぞ」
僕は目を見開いて驚いた
僕が作者だと知っていたんだ
同時に、なぜ僕に何度も小説の話を振ったか、
その理由がわかった
ああ、そうか
僕が言いづらかったように、
あいつも僕だと知った上で読んでること、
言いづらかったんだな
だからわざと話題にして、
こっちが自分から明かすのを待ってたんだ
でも僕が明かさないから、
思い切って言ってみたんだろう
僕はすぐに笑ってみせ、
「期待を超えるつもりだよ」
と、少しカッコつけて言った
あいつも「楽しみだ」と笑うと、
人混みの中へと消えていった
僕はなんとも言えぬ恥ずかしさと
やる気が強まってきくのを感じながら帰るのだった
完全に想定外
通り雨が来るなんて
傘はもちろん持ってない
だって、雨が降るとは聞いてなかったから
しばらくは雨宿りが必要か
通り雨ならすぐ止むだろうから、
少し我慢して待っていよう
なんて思っていたら、
心の中で悪魔のささやき
「今なら思う存分できるよ」
前々からちょっとやってみたかった
けど、どうせやらないだろうと思っていた
そんな中、望みを叶えられる機会が訪れてしまう
少しためらいながらも、この誘惑には抗えない
私は、風邪をひきませんように、と念じると、
一心不乱に雨の中を走り出した
私は前々から雨に打たれながら走りたかったのだ
傘を持ってなかったことで、
やりたい欲求が爆発してしまった
雨はすごく冷たいけど、雨の中を走るのは、
なんとも言えない心地よさがあった
いつからか秋が無くなったような
そんな気がする
夏の次はすぐに冬になり、
もはや秋などどこにもない
自然から秋が消え去ってしまったようだ
いや、本当にそうか?
確かに秋を感じられることは
少なくなったかも知れない
しかし完全に消えたわけではないと思う
紅葉する木々を始め、秋の味覚など、
まだまだ失われてはいないだろう
よく目を凝らせば見つけることができるのではないか
どんなに見つけづらくなっても、
わずかに見える小さい秋を探しに行こう
高台にある家の窓と、
窓から見える景色を描いた絵を見た
窓の外には町並みと海が広がっている
こういう絵を見ると、
想像力が掻き立てられる
ここはどんな町なのだろう?
この窓に収まっていない部分は、
どんな町並みをしているのだろう?
この家はどんな見た目をしているのだろう?
ここはどんな気候なのだろう?
好奇心で色々な疑問が浮かぶ
聞けば、この絵の町は実在せず、
架空の町並みを描いているのだという
つまり、疑問に対する答えは、
作者しか知らない
いや、作者すらも知らないかもしれない
しかしそれが逆に考える余地を生んでいる
私はこの絵に描かれている町がどんな町なのか、
考えるのがなおさら楽しくなった
穏やかだけど、深く楽しませてくれるこの絵
必ずまた見に来よう
次に来た時には、
今とは違った想像ができるかもしれない