【真夏の記憶】
茹だるような暑さの
7年前の今日
おじいちゃんが亡くなった
お線香の匂いは
今も胸に染み付いている
7年経った今日も
私は生きている
やっと死を受け入れたのは
今年の夏
寝苦しくて眠れない私の頭を
撫でてくれるおじいちゃんが
夢に現れた
ああ、私はやっぱり
まだまだ生きていくんだと
なぜかそう悟った
あの日の霊安室のおじいちゃんは
冷たくて硬く、
燃えて小さくなったおじいちゃんは
とても寂しかった
祖父の死という傷を
きっと忘れずに抱えながら
生きていくのだろう
そう思う
なにをしようか
今年の夏
おじいちゃんが好きだった
競馬や盆栽でもしてみようか
始めるには
なんだか気乗りしない趣味だと
渇いた笑いがこぼれた
そう考えながらも
なぜだか
ずっと涙が止まらなかった
【心の羅針盤】
ぐるぐる ぐるぐる
どちらを指すわけでもなく
不安定な針は揺れていた
ふわふわ ぐるぐる
目まぐるしい
この人生は
まるで眩暈のよう
狂った磁針は
治るだろうか
私は 自分の心に問う
「どこへ行きたい?」
問いを
何度も 何度も繰り返せば
感情と共に
答えは溢れ出す
いつか
まっさらな心が
行き先を指し示すだろう
そこにはきっと
私にしか感じられない幸せで
溢れるような
素晴らしい景色が待っている
そう信じて
壊れた羅針盤を見つめながら
思いを馳せる
いつか、たどり着けますように
【オアシス】
もう ここには留まらないと決めた
辛かったことも 楽しかったことも
すべてを手放して
新しい場所を目指す自分を誇りたい
私の向かう先はどこだろう
オアシスか それとも砂漠か
まだわからない
けれど
私の心がオアシスを求めているのなら
どこへ行ったって そこがオアシスになる
夜を抜けて
きっと辿り着けると信じてる
きっと きっと
私は駆け抜けていける
オアシスは
きっと私を待っているから
【涙の跡】
くしゃっと笑う君の顔
まつ毛が濡れていた
今日が最後の日
夜の波音
君の足は透明だ
抱きしめたくても
抱きしめられない
いつだって
君は先へ行く
「連れてってあげる」
君はそう言ったのに
涙の跡ばかり残して
またいなくなるなんて
ずるいな
名残惜しそうに
君は「またね」と言う
波に攫われた君は
夏の海の泡となって消えた
『半袖』
私はバスの終点で降り、
駅へ向かって歩いていた。
意志とは関係なく
汗が吹き出してくるので、
何度も拭いながら改札を目指す。
目の前には、
黒の半袖ワンピースを着た人がいた。
首元には真珠のネックレス。
手元には黒い日傘。
――葬儀だろうか。
五年前の、真夏のお葬式を思い浮かべて
なんとも言えない気持ちになった。
私は思わず、
その人がどんな気持ちでいるのか
想像せずにはいられなかった。
想像したところで、
本当のことなんてわからないのに。
それでも勝手に想像して、
勝手に、その人の幸せを願っていた。
どうか少しでも、
笑えますように――と。
それは、見知らぬその人への祈りであり、
過去の自分への祈りのようにも思えた。
気付けば、
私の目尻には、涙がにじんでいた。