『半袖』
私はバスの終点で降り、
駅へ向かって歩いていた。
意志とは関係なく
汗が吹き出してくるので、
何度も拭いながら改札を目指す。
目の前には、
黒の半袖ワンピースを着た人がいた。
首元には真珠のネックレス。
手元には黒い日傘。
――真夏の葬儀だろうか。
五年前の、真夏のお葬式を思い浮かべて
なんとも言えない気持ちになった。
私は思わず、
その人がどんな気持ちでいるのか
想像せずにはいられなかった。
想像したところで、
本当のことなんてわからないのに。
それでも勝手に想像して、
勝手に、その人の幸せを願っていた。
どうか少しでも、
笑えますように――と。
それは、見知らぬその人への祈りであり、
過去の自分への祈りのようにも思えた。
気付けば、
私の目尻には、涙がにじんでいた。
7/26/2025, 1:06:08 AM