【オアシス】
もう ここには留まらないと決めた
辛かったことも 楽しかったことも
すべてを手放して
新しい場所を目指す自分を誇りたい
私の向かう先はどこだろう
オアシスか それとも砂漠か
まだわからない
けれど
私の心がオアシスを求めているのなら
どこへ行ったって そこがオアシスになる
夜を抜けて
きっと辿り着けると信じてる
きっと きっと
私は駆け抜けていける
オアシスは
きっと私を待っているから
【涙の跡】
くしゃっと笑う君の顔
まつ毛が濡れていた
今日が最後の日
夜の波音
君の足は透明だ
抱きしめたくても
抱きしめられない
いつだって
君は先へ行く
「連れてってあげる」
君はそう言ったのに
涙の跡ばかり残して
またいなくなるなんて
ずるいな
名残惜しそうに
君は「またね」と言う
波に攫われた君は
夏の海の泡となって消えた
『半袖』
私はバスの終点で降り、
駅へ向かって歩いていた。
意志とは関係なく
汗が吹き出してくるので、
何度も拭いながら改札を目指す。
目の前には、
黒の半袖ワンピースを着た人がいた。
首元には真珠のネックレス。
手元には黒い日傘。
――真夏の葬儀だろうか。
五年前の、真夏のお葬式を思い浮かべて
なんとも言えない気持ちになった。
私は思わず、
その人がどんな気持ちでいるのか
想像せずにはいられなかった。
想像したところで、
本当のことなんてわからないのに。
それでも勝手に想像して、
勝手に、その人の幸せを願っていた。
どうか少しでも、
笑えますように――と。
それは、見知らぬその人への祈りであり、
過去の自分への祈りのようにも思えた。
気付けば、
私の目尻には、涙がにじんでいた。
【もしも過去へと行けるなら】
もしも過去へと行けるなら
私はいつに戻りたいだろう
たくさんの分岐点があって
今があるけれど
戻りたいと考えることは
なんだか今の自分を否定するようで
少し憚られる
それに
どうせ過去へは戻れないことも
ちゃんとわかっていて
現実的な思考に戻ってしまうから
深く考えることが難しい
けれど
私は、私は
きっと過去へは戻りたくないのだと思う
誰ひとりこぼさずに幸せだった
そんな瞬間は覚えていないからだ
幼い私は
誰かの苦労の上で
何も知らずに、ただ無頓着に
笑っていただけだと
大人になってようやく気づいた
あの頃の大人たちに
もっと笑ってほしいだけなんだと
私の中の子どもの自分が
言っているような気がする
だからきっと
過去には戻りたくない
大人になった今も
誰ひとりこぼさず幸せにすることは
できないと知っている
けれど、もしかしたらこの先
誰ひとりこぼさずハッピーな瞬間が
訪れるかもしれない
未来に戻るよりも
今とこれからに賭けていたいのかもしれない
できるなら、
もう会えないあの人たちが
空の上で微笑み合えるような
そんな自分で生きていたい
そう、私は思う
今日のお題、ピンと来なかったので
別のタイトルで書きました。
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【小さな幸せを束ねて】
何者かになりたかった。
臆することなく、歳を重ねたかった。
年齢に見合った幸せが欲しかった。
ショーウィンドウの反射に、疲れた顔の私が映る。
日々いろんなことを感じては、笑って泣いて、
その度に、小さな皺を刻んでいる。
心ここにあらずのまま、
服を眺めながら、とぼとぼと歩いている。
「あれは私には若すぎる」
「これは老けて見える」
頭の中の声がうるさくて、買い物にならない。
ため息をつきながらも、足は止まらない。
ふと心に、あの人が浮かぶ。
今のあの人は、私には眩しすぎる。
まるで私が、ちっぽけな存在に思えて、悲しくなる。
――あの日、夢を失ってから、
私はうまく歩けなくなってしまったんだな、と。
そんな自分の気持ちに、ふと気づく。
けれども。
今が一番若くて、
この身一つで、一つの人生を生き抜くしかないことも、
ちゃんと理解している。
買い物客の波に飲まれながら、
泣きたくなって、思わず斜め上を向き、涙を堪えた。
認めるしかないのだと、諦めがついた。
今は耐える時期。
幸せを見つける時間。
まだ時間はある。
けれど、この人生は有限だ。
だから、こんなくだらないことに悩むのは、もうやめよう。
ふとお腹が鳴った。
帰るまでに時間がある。
ラーメンでも食べて帰ろう――そう思って、一人、ラーメン屋に入る。
熱々の湯気、いい香り。
ああ、今って幸せだ。
子供の頃に期待していた“幸せ”は、まだ遠いかもしれない。
でも、こうして小さな幸せを感じながら、生きている。
なんだ、それで十分じゃないか。
まだまだ人生は長い。
絶望するには、まだ早い。
小さな幸せを束ねて、いつか大きな幸せを手に入れよう。
私はそう思いながら、味わい、スープまで飲み干し、食べ終えたのだった。