名無しの字書き

Open App
4/24/2024, 4:15:55 PM

「ゲームをしよう。」

夢を見ている。女の子の声がする。顔を見ようとするが、靄がかかっていてよく見えない。

「ルールはただひとつ。成人するまでにわたしを見つけること。そして捕まえて。わたしはここにいるから」

楽しそうに笑っている声がする。……この声は、誰の声なんだろう。

「約束ね、絶対に見つけてね。あなたには、わたしの全部をあげるから。」

けれど、どこか悲しそうな声で彼女は話す。

「だから、わたしを捕まえて。」




目が覚めた。時計の針は九時半を指している。どうやら一限には間に合わないらしい。

「俺は悪くない、一限に講義入れてる大学側の問題ですよ……っと。」

遅刻が確定しているからか逆に清々しい。ゆっくりと葉を磨き、着替えをし、髪をセットして大学へと歩みを進める。
遅刻だろうがあたかも自分は遅刻してない感じで入るのが大切なんだ、とサークルの先輩が言っていた。まあその人は一留だから説得力なんてないんだけど。
堂々と講義室に入り、空いている席を探す。視界の端に、見慣れた顔が映った。小さく手を降っている。

「ようカズヤ。欠席扱いになる気分はどうだ。」
「いっそ清々しいね。なんてったって尊敬する先輩とおんなじだ。」
「あの一留の?」
「あの一留の。」

出会い頭に煽り散らかすこいつは誠司。大学で出来た友達……友達?そんなにキレイじゃないな。悪友だ。
ちらり、とルーズリーフを盗み見る。特になにも書かれていなかった。周りはペンを動かしているというのに。クズとつるむのは所詮クズだと言うことだ。

「んで、なんで遅刻したんよ」
「寝坊」
「んなことわーってるっつの。その理由を言え。夜更かしか?」
「11時には寝てるわバカが。夢見て気付けば九時半よ」
「クズが。ちな出席まだとってねーぞ。よかったな」
「まじかよラッキー」

今日は運が良いらしい。欠席にならなくてすんだ。頭の中でベートーヴェンの運命を流しながら、バックを漁りノートを広げた。




「んで、また変な夢見たんか?」
「ん?ああ、そう。なんか幼女がルールは私を見つけること、とか言い出す夢」
「ふーん。…………なあ、お前、実家近いよな?」
「ゆうて電車で一時間くらいかかるけどな」
「ならさぁ……………」

嫌な感じの目だ。具体的には探しに行こうとか言い出すタイプの目をしてる。口を開く前にラーメンのスープを飲み干す。言わせてたまるか。

「よし、ごちそうさま。じゃあ俺用事あるからまたな」
「いーや行かせないね。探しに行こうぜ、その少女」
「いーやーだ!!俺は今日アマプラでアニメ見るんだよ!!」
「うるせぇ、行こう!!!」

海賊王かお前は。

3/12/2024, 12:46:50 PM

――魂の重さは3/4オンス。

二十世紀にダンカンが発表したこれは、言葉だけが独り歩きしている。まあ研究方法が杜撰すぎるから独り歩きしている方がダンカンとしては幸せなのかもしれないが。
とはいえ、ダンカンが目をつけたテーマ自体は非常に面白い。魂の重さ、というとロマンチックに聞こえるが、要は人間が何を持って思考しているかということだろう。尤も、これは僕の持論であってダンカンが、または世間が考える魂とは異なるのかもしれない。

人間の脳はブラックボックスだ。脳のどの部位が何を司るかは解明できても、ニューロンがどのような作用をして僕らに"意識"を生み出しているのか、僕らはさっぱりわからない。もしその不明瞭な物を魂とするのならば、これの質量を調べるというのはとてもいいアプローチだと思う。

「それで、君は何をいいたいんだい? それと先輩には敬語を使い給えよ」

いやだね。授業をサボり校則を破って制服を着崩し法律を破り高校生ながら肺にヤニを溜めるセンパイのどこに敬う要素があるというんだ。僕は敬語の価値を下げたくない。だからセンパイに敬語を使うことはない。

「はぁ……こんなに美人な先輩の頼みなのになんだその言様は。まあ今に始まったことじゃないし、別にいいけどさ。さ、話を続けて。出来ればアタシがわかるように」

……僕たちが、何を持って思考をしているのか。魂とはなにか。魂の在り処はどこか。それを解き明かしたい。

「ふぅん? それはあの子の為かい? それとも別な理由?」

……別な理由だ。僕が人体に、脳科学に興味があり、脳のことをもっと知りたいと思っているから。ただ、それだけの理由だ。



「嘘つき」


センパイのその一言は、背を向けた僕の背に突き刺さった。