「ゲームをしよう。」
夢を見ている。女の子の声がする。顔を見ようとするが、靄がかかっていてよく見えない。
「ルールはただひとつ。成人するまでにわたしを見つけること。そして捕まえて。わたしはここにいるから」
楽しそうに笑っている声がする。……この声は、誰の声なんだろう。
「約束ね、絶対に見つけてね。あなたには、わたしの全部をあげるから。」
けれど、どこか悲しそうな声で彼女は話す。
「だから、わたしを捕まえて。」
目が覚めた。時計の針は九時半を指している。どうやら一限には間に合わないらしい。
「俺は悪くない、一限に講義入れてる大学側の問題ですよ……っと。」
遅刻が確定しているからか逆に清々しい。ゆっくりと葉を磨き、着替えをし、髪をセットして大学へと歩みを進める。
遅刻だろうがあたかも自分は遅刻してない感じで入るのが大切なんだ、とサークルの先輩が言っていた。まあその人は一留だから説得力なんてないんだけど。
堂々と講義室に入り、空いている席を探す。視界の端に、見慣れた顔が映った。小さく手を降っている。
「ようカズヤ。欠席扱いになる気分はどうだ。」
「いっそ清々しいね。なんてったって尊敬する先輩とおんなじだ。」
「あの一留の?」
「あの一留の。」
出会い頭に煽り散らかすこいつは誠司。大学で出来た友達……友達?そんなにキレイじゃないな。悪友だ。
ちらり、とルーズリーフを盗み見る。特になにも書かれていなかった。周りはペンを動かしているというのに。クズとつるむのは所詮クズだと言うことだ。
「んで、なんで遅刻したんよ」
「寝坊」
「んなことわーってるっつの。その理由を言え。夜更かしか?」
「11時には寝てるわバカが。夢見て気付けば九時半よ」
「クズが。ちな出席まだとってねーぞ。よかったな」
「まじかよラッキー」
今日は運が良いらしい。欠席にならなくてすんだ。頭の中でベートーヴェンの運命を流しながら、バックを漁りノートを広げた。
「んで、また変な夢見たんか?」
「ん?ああ、そう。なんか幼女がルールは私を見つけること、とか言い出す夢」
「ふーん。…………なあ、お前、実家近いよな?」
「ゆうて電車で一時間くらいかかるけどな」
「ならさぁ……………」
嫌な感じの目だ。具体的には探しに行こうとか言い出すタイプの目をしてる。口を開く前にラーメンのスープを飲み干す。言わせてたまるか。
「よし、ごちそうさま。じゃあ俺用事あるからまたな」
「いーや行かせないね。探しに行こうぜ、その少女」
「いーやーだ!!俺は今日アマプラでアニメ見るんだよ!!」
「うるせぇ、行こう!!!」
海賊王かお前は。
4/24/2024, 4:15:55 PM