〈オアシス〉
私の周りはオアシスで溢れている。
可愛い愛犬を含む最高の家族がいて、
仲のいい友達がいて、
部屋には面白い本や漫画がたくさんある。
オアシスが多すぎて砂漠の中の水場というより、
巨大な湖の中に小さな砂場が浮かんでいるという感じになっている。
こんなに恵まれているのに、時々、
中の砂にしか目がいかなくなり、絶望してしまう。
他の人のオアシスをみて羨んでしまう。
もうすでに水がたっぷりあるのに。
私は
恵まれている者として、
有り余るような水をもらって生きてきた者としての
自覚をもっと持つべきだ。
そして出来ることならば、
私の水を喉の渇きに苦しんでいる人々に
分け与えられる人間になりたい。
いくら水が多いとはいえ
世界中の人を潤すことは出来ないけれど、
ほんの少しでも幸せを分け与えたい。
いつか、オアシスという言葉がなくなるぐらい
世界が水で、幸せで溢れる日が来ますように。
〈涙の跡〉仮
人の心の奥底の 涙の跡が見えればいいのに。
そんな能力があれば
苦しんでいる誰かの心に気づいて、慰められるから。
私の心の奥底の 涙の跡が見えればいいのに。
そんな能力があれば
何で今苦しいのか分かるかもしれないから。
半袖
私達の種族は、成人するまで半袖を着てはいけない。
どんなに暑い日でも、家族の前でも禁止されている。
それは、大人になるにつれて徐々に腕に現れてくる
鱗を隠すためだ。
鱗の色や形は人それぞれ。
私の父のは青いひし形。母のも青いひし形。どちらも親指の爪ぐらいの大きさのが5つ綺麗に並んでいる。
両親の鱗がそっくりなのはちゃんとした理由がある。
運命の人に同じ鱗が現れるからだ。
だから両親は仲良しだった。
毎日が笑顔で溢れている。
私の両親だけでなく、どの夫婦も同じだった。
まだ子供の私にもようやく鱗が出てきた。
色は第三の月のような綺麗な銀色。
きっと今頃、私の運命の人も同じ鱗を眺めているのだろうな。
半袖を着れる、運命の人に会えるその日を夢見て
今日も私は長袖を着た。
もしも過去へと行けるなら
昨日という日を最初からやり直したい。
失敗だらけの一日だったから。
大会の会場を間違えて遅刻した上、迷子になった。
よそ見をしていたらガラスに激突した。
そんなダメな自分が嫌になる。
最初から全てやり直したくなる。
でも、その失敗があるからこそ今日の自分が
いるのかもしれない。
もし昨日会場を間違えていなかったら
いつかもっと大事な時に遅刻していたかもしれない。
もし昨日ぶつかっていなければ
いつか車に轢かれていたかもしれない。
そう考えると、人生をやり直せないのは
未来の自分のために大事なことなのかもしれないな。
もちろん、最初から全く失敗しないのが一番だが、
そんな人滅多にいないだろう。
そうなるとやはり失敗を繰り返して学ぶしか
ないのだろう。
もしも過去へと行けるとしても
行かない方がいいかもな。
〈またいつか〉
散歩でもしたくなるような、暖かい春の日だった。
平和が相応しい天気だというのに、その日魔法戦争が
始まった。
原住魔法使いと移住魔法使いによる終わりの見えない
戦争が。
まだ成人したばかりだというのに貴方は戦場に駆り出された。
明るい金髪に太陽のような笑顔。
怖いはずなのに貴方は微笑んで言った。
「また生きて会いましょうね」
誰が放った攻撃なのか分からない。
突然貴方は私の目の前で
春の日差しのような暖かい光に包まれた。
光が消えた時、そこには貴方は居なくて、
代わりに一輪のたんぽぽが咲いていた。
人を花に変える魔法。
この世でもっとも美しい呪い。
たんぽぽに変えられた貴方は黄色い花弁を
太陽のように輝かせ、
緑色の葉を大きく広げていた。
姿は変わっても貴方は貴方だった。
色とりどりだった山々が緑色になり、
夏が来た。
戦争は決着がつくことなく終わった。
たんぽぽはいつのまにか綿毛になっていた。
貴方に去ってほしくなくて手でしっかりと包んでいたのに
風は綿毛を吹き飛ばしてしまった。
風に乗って、雲のようになった貴方は
どこか遠くまで飛んで行った。
またいつか
会える日が来るだろうか。