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〈またいつか〉



散歩でもしたくなるような、暖かい春の日だった。

平和が相応しい天気だというのに、その日魔法戦争が
始まった。
原住魔法使いと移住魔法使いによる終わりの見えない
戦争が。

まだ成人したばかりだというのに貴方は戦場に駆り出された。
明るい金髪に太陽のような笑顔。
怖いはずなのに貴方は微笑んで言った。
「また生きて会いましょうね」

誰が放った攻撃なのか分からない。
突然貴方は私の目の前で
春の日差しのような暖かい光に包まれた。
光が消えた時、そこには貴方は居なくて、
代わりに一輪のたんぽぽが咲いていた。

人を花に変える魔法。
この世でもっとも美しい呪い。

たんぽぽに変えられた貴方は黄色い花弁を
太陽のように輝かせ、
緑色の葉を大きく広げていた。

姿は変わっても貴方は貴方だった。

色とりどりだった山々が緑色になり、
夏が来た。
戦争は決着がつくことなく終わった。

たんぽぽはいつのまにか綿毛になっていた。

貴方に去ってほしくなくて手でしっかりと包んでいたのに
風は綿毛を吹き飛ばしてしまった。

風に乗って、雲のようになった貴方は
どこか遠くまで飛んで行った。

またいつか
会える日が来るだろうか。

7/22/2025, 10:43:30 PM