奇跡によって世界は救われた。
だけど、奇跡を起こしたあの人は、
私たちの元には戻ってこなかった。
奇跡の代償だとか、
全てを懸けて世界を守ったのだとか、
もっともらしい理由を考えたけれど、
それでも納得することができず。
あの人のいない世界なんて、と
零れ出そうになった言葉を慌てて呑み込んだ。
それを言ってしまったら、奇跡を、あの人を否定することになってしまう。
それだけは嫌だった。
何事もなかったかのように続く世界を、
今日も私たちは生きていく。
だけど、あの人から未来を奪った不条理を、
忘れることはないだろう。
夜が怖い。
明日が来なかったらどうしようと、
不安で眠れなくなるから。
失うことが怖い。
この手から零れてしまったら、
二度と取り戻せない気がするから。
執着することが怖い。
ひとつのことに囚われるなんて、
今までの私では考えられなかったから。
怖いものなんて何もなかったはずなのに。
貴方に出会ってから、怖いものが増えてしまった。
ああ、こんなに怖がりな私でも、
貴方は笑って許してくれるのかしら。
ある日、僕の庭に星のかけらが落ちてきた。
それもひとつではなく、いくつものかけらが。
星のかけらたちは、光と音で僕に訴える。
このままじゃ寂しくて死んでしまいそう。
だから貴方の手で、元に戻して、空に還して。
勝手に落ちてきたのはそっちだろうとか、
騒がしいのは嫌いなんだとか、
文句をたくさん言ったけど、彼らは聞く耳も持たず。
仕方がないから、星のかけらたちの言う通りにした。
同じ色のかけらを繋ぎ合わせて。
かけらが足りないからと、また庭に落ちてくるのを待ち。
その間に、話をしてとせがんでくる彼らの話し相手になったりもして。
気がつけば、僕の庭は星でいっぱいになっていた。
かけらたちはみんな元通りの星になったのに、いまだ空に還ろうとせず。
そのことに、何故か少しだけ安堵する僕もいて。
騒がしいのは嫌いだったんだけどな、と零したら、
賑やかなのも悪くないでしょう?と星たちが笑った。
空より星が溢れる庭も、確かに悪くはないかもね。
彼らに聞こえないように、心の中で呟いた。
あなたのことが大切だから、
ずっと傍にいたいと思った。
どれだけの月日が経っても、
姿も環境も変わってしまっても。
そんなの些細なことでしかないもの。
だから、
ずっと隣で、
あなたのために存在するわたしで居させて。
月夜に出会った君は
宵闇の得体の知れなさと
望月の眩い明るさを持ち合わせていて
僕にはそれが とても美しく見えた