君と見上げる月
空を見上げてみる。空はいつだって美しいけれど、
大きな月が見える夜は殊更美しい。
それだけでなくまた君と見上げる月は特に美しい。
小さな頃、一緒に2人で月を見た。
君は覚えてるかな。
じっとするのが苦手な君も静かに月を見ていて、
キラキラと輝く君の瞳は月と同じくらい綺麗だった。
なんて言ったら笑われてしまうだろうけれど。
もう見ることができなくなったとしても、
君が覚えていなかったとしても、
私はまたこの夜を思い出すのだろう。
魔法を使えたらどんなにいいだろうって落ち込んで今日もまた眠る。
そんな毎日を繰り返しても繰り返しても何も変わらないのに、なぜ繰り返してしまうんだろうって思ってたんだ。
あなたに会うまでは。
あなたはまるで魔法のような存在で私に光をくれたようだった。
あなたは喋らないけどただ確かにあたしのそばにいてくれるのだ。喋っても喋っても心が通わないことのなんと多いことだろう。何度夜1人涙を流したことだろう。
1人で不安な夜もあなたがいてホントに良かったって
思うんだ。ただそばにいてくれるだけで生活は少し彩られて見える。
まあ冬の朝は少し離れるのが辛くなるけどさ。
一緒に出かけられたらもっと嬉しいのに。
あなたという私を豊かにする魔法。
「大地に寝転び雲が流れる」
近くには花かんむりを作る彼が一人と、
その彼に付き合わされるヤギが一匹。
まあヤギはシロツメクサをモソモソと食べ全く気にする気配はないのだが。
彼の家族はそのヤギ一匹だけ。
だから彼は皆にかわいそうだの、
変なやつだの色々言われた。
だけれども彼は幸せなのだ。ただ他人の物差しが
人間と一緒に暮らすことを望んだだけなのだ。
彼はヤギとふたりぼっちで過ごす時間が何よりも
心地よかったのだ。
特にあの広い原っぱに大地に
寝転び雲が流れるのを見ると、
何も考えずに過ごせるから。
僕はそんな2人を見るのが何よりも好きだった。
ありがとう
私はあなたのことを今でも覚えている。
あたしが暗い海の底にいた時、
貴方だけがあたしを助けてくれた。
息をするのも苦しくて朝を見るのが怖かったの。
どう言っても取り入って貰えなくて。
くれる言葉はガラスの言葉。あたしを閉じ込めるの。
それは今でも変わらないけれど。
あなたがこの世界にいるから私は生きている
のかもしれない。
だから私は、
来世も今世もあなたが笑っているのならそれでいい。
だからいつもありがとう。
あなたのくれるありがとうには
到底届かないだろうけど。
「何もいらない」
あなたがいるだけでとても幸せだから。
僕と一緒の時にはそんなこと
言わなかったのにねと僕は微笑んでみせた。
彼女は言う。
あなたがいるととても幸せだったけど
同時にとても不安だったわ。
私の気持ちをあなたが考えたことなんて
一度もなかった。
そうでしょう。
そう言って彼女は去った。
そう言ったら彼女は戻ってきてくれると
思っていたのに。
彼女が僕の元に戻ってこないのなら
もう何もいらない。
君ともう一度笑いたかっただけなのに。